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エルフと快楽主義的生き方

「師匠、ちょっと飲みすぎじゃないですか。強いのは知っていますがほどほどにしてくださいよ、若くないんだから」


 王国北部の酒場にて、師匠と呼ばれるエルフ族の女性とその弟子たちが食卓を囲んでいた。師匠はその小柄な体にどれだけ入るんだという量の酒を飲んでいて、周りからも奇異の目で見られている。

「こら、おぬし今わしが若くないといったか! わしはまだ若いわい!」

 そこまで言って、ちょっとばつが悪そうにエルフの中ではなと付け足す。

「まったく、平地のやつらは人をすぐ見た目で判断しおるくせにエルフと聞いたとたんに年寄り扱いじゃ。どっちかにせい、まったくまったく」

 師匠はそうぶつくさいいつつも酒瓶は手放そうとはしない。弟子たちも自分たちが言った程度で師匠が酒について考えを改めるとは思っていないので、いつもの冗談まじりのやりとりではあるが。

 エルフ族の人間は魔素の薄い平地に長くいると体調が悪くなるため魔素を補給できる特殊な薬草酒が手放せないのだ、というような話は師匠から聞いている。しかしこの酒場の一般的な酒にそんな効果があるとは思えないので、それは言い訳のひとつでただの酒好きなだけなのだろうと弟子たちは考えている。


 そんなこんなでわいわいと食事をしているところで、まだ入ってから日が浅い弟子のひとりがふと気になったように師匠に聞く。

「僕はエルフ族の人って師匠以外に見たことがないんですけど、もしかしてエルフってみんな師匠みたいな感じなんですか?」

 素朴な質問だったが他の弟子たちはみな「そんなわけないだろう」と笑う。師匠は笑っている弟子たちをこらと軽く叱り、酒をまたひと飲みしてから語り始める。

「あー、森のやつらはな、わしみたいに平地にはでてこん。わしらエルフは良くも悪くも長生きじゃからな、俗世に関わるのは心の平穏を乱すとかで善くない生き方とされている。わしが出ていく前にも長老たちから散々説教をくらったよ」

 そう言いながらもその時のことを思い出したのかしぶい顔をする。


 長老曰く『俗世に関わるほど、心は乱れる。心が乱れるほど、長い生は苦になる』というのがエルフが代々言い伝えてきた教訓らしい。

 俗世に関わり様々な欲をもつことは心を乱し、敵を作り、憎悪や悲嘆、後悔を蓄積する。その結果として数百年の憎悪と悲嘆を抱えたまま生き続けることは、長寿をやがて呪いに変える。ゆえに俗世に関わらず隠者のように生きることこそが長命種が選ぶべき合理的な生き方とされているということだ。


「しかしな、わしは世界にはこんな面白いことが沢山あるというのにそんな枯れ木のような暮らしは嫌じゃった。よって森を去り今はこうして面白おかしく暮らしているというわけじゃ」

 酒瓶を掲げむんと胸を張る師匠を弟子たちはさすが師匠だと拍手して讃える。


 そうして酒場に響く彼らの楽しげな声と宴はまだまだ夜更けまで続くのであった。

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