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11話:王国の伝説と予言の自己成就

「王国の建国記って久々に聞きましたけど、あれって本当にあったんですかね」


 北部出張から帰ってきた隊長と昼食を共にした新兵のサリアがそう問いかける。

 非番の間に家族と大聖堂の祈りの会に参加したとのことで、その時に王国の建国に関する話がされたらしい。王家の絶対的権威は女神様から託されたものであるという話は中央や教会がことあるごとにしているいつもの話ではある。


 ――曰く、人と魔の終わりのない争いにより天は荒れ地は割れ人族の民はただ迷い祈るだけであった。ある時、王の祖先、後の建国王ヴェリタス一世が女神様の夢の啓示によりある遺跡を示された。啓示を信じ危険を冒してその遺跡に深く潜ると魔を祓う古代の聖剣が眠っており、彼はその強大な力を使うことで民を約束の地に導き人族をまとめ今日に続く繁栄を築いた。このように王家は女神に祝福された一族であり、王国の民は王家を支えなければならない――のような話だ。

 この他にも王家を讃える逸話は数多く存在し、ことあるごとに語られている。


 どれも子供のころから聞いている定番の話なのだが、隊長はなんだか少し複雑そうな顔をした。隊長は少しだけ周りを気にしながら言う。

「私は王国の聖騎士であることを誇りに思っているし、歴代の王家が偉大であるのはもちろんそうなんだが……、実際のところ王家を讃える逸話は年々脚色が強くなっていてな。特に最近は、もはや盛りすぎというかなんというか……」

 聖騎士は教会の催事の警備を担当することも多いため、自ずと催事で話されることは何度も聞かされることになる。隊長はその関係で新兵のころからそれなりに多く聞いてきたが昔のほうがまだ落ち着いた話だったらしい。

 隊長より年配の騎士たちも同じように語るので内容がどんどん大げさになっているのは間違いないようだ。


「お前も遠くからとはいえ叙任式典で聖剣の姿は見ただろう。あれがそんな強大な力を持っているように感じたか」

 サリアは騎士に任命されたときに儀礼で少しだけ掲げられた聖剣のことを思い出す。重厚で歴史を感じられる美しい剣ではあったが、たしかに伝説のあれこれを実現できそうかと言われるとちょっと違うかなとは思えた。

「古来から予言や啓示というものは鼓舞のための方便やそうであってほしいという願望からの解釈であると考えている。ほとんどのものはそれを為すだけの努力や実力、運があったから結果的に成就したものであって、予言や啓示が正しいからゆえにそれが為されたかというと違うと考えている」

 隊長はまあ魔法みたいなものがあるから絶対確実にないとは言い切れないが、未来視など時間に関する魔法はこれまで成功した例はないらしいと言う。少なくとも因果関係として予言や啓示があったからそうなったのではなく、結果が出たから遡及的に予言や啓示が正しいまたは存在したということになったのだろうという話だ。

 それなりに納得はできるが、それだとあんまり夢がないなとサリアは思った。


「まあ王国の秩序のためには王家の伝説を素直に信じている民が多いほうが都合がいいのは確かなんだが、そんな民の純朴さに付け込んで野良の自称予言者どもが好き勝手に予言だ啓示だを流布して騒動になることが何度あったかわからん」

 あいつらのせいで休暇が何度も取り消されたと隊長はすこし不機嫌そうに言う。隊長は職務熱心で上からの信頼も厚いが、生真面目ゆえに一度決めた予定が取り消されるのをすごく嫌がるところがある。


「私は啓示があったから王国が興ったのではなく、歴代の王家と民が尽力したからこそ今の王国があるということを信じている。そして女神様の啓示や祝福があるからではなく、民のための行動や政治があるからこそ王家を尊敬し信頼している。同じように我々は自らの力で事を為すことで女神様にも認められるべきだ」

 たしかに隊長は信仰とは祈りではなく行動であるとよく言っている。善なる状態を目指すために実際に行動することこそが隊長にとっての信仰であり生き方のようだ。


 サリアは隊長のような人がいたからこそ王国がここまで繁栄したのだろうなと思うとともに、だんだんと虚飾の増えていく王家の伝説についてを思い返し、少しだけ不安を感じていた。

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