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第8話 深紅の暴君

挿絵(By みてみん)

 時刻は13時10分。中央棟 - 地下 - 第2アリーナ。

 列柱に囲まれた広い楕円形の"闘技場"。薄暗い闇の中、足元の大理石タイルが厳かに輝く。神殿の如き白亜の空間。無味無臭の空気。決闘の幕が切って落とされるのを静かに待っている。

 アリーナを取り囲む観覧席には、既に多くの寮生が詰めかけていた。

 公式戦ではない。完全に個人的な模擬戦である。にもかかわらず、噂を耳にしたほぼ全ての寮生が、リンキの奮闘又は死に様を見ようと集まっている。

 ちなみに、MGPATRAは仮想現実環境での模擬戦であるため、試合中に観衆が実際に見るのは、アリーナそのものではなく大型画面に投影される、戦闘シミュレーションシステム【Halysidion】によるリアルタイム映像である。


(0▽0)『さあ皆様! 大変お待たせいたしましたぁ!』

 観覧席の大出力スピーカーから、威勢のいいアナウンスが飛び出す。

(0▽<)『MGPATRA春の非公式戦祭りの始まりだあああ! 実況は私、味野(あじの)モニ。そしてぇ!』

(U∧U)『玉柏(たまがし)アルゴの解説でお送りします』

(0▽0)『それじゃあ対戦者を紹介するよ! アライアンス寮、カエリクス工房からのエントリー! その名はぁ――――久々原ッリンキぃッッ!!』

 リンキの名がコールされ、それに応えてオーディエンスから「「うおおおおおおおおおおおおおお」」歓声が上がる。


「ほい行って!」・トンッ!・

 スズリに背を押され、リンキは控室からアリーナへ踏み出す。パッとスポットライトの白光が投射され、少し目が眩む。小さな挑戦者の入場に、どよめきの声はさらに大きくなる。


(U∧U)『使用するモデルは【ソードモデル・ショートソード】とのことですけど。正気でしょうか』

(0▽0)『と、いうとぉ?』

(U∧U)『ご存じの通り、ショートソードはビギナー向けの簡易版モデルとして設計されたものですので、単騎で本格的な戦闘を行うことはあまり想定されていません。ボーナスバルーンの蔑称はあまりにも有名ですね』

 実際、玉柏アルゴの簡潔な説明の通りである。ショートソードは誰にでも扱えるイージーさと安定性を備えている反面、戦闘能力の面ではどうしても他に劣る。それでもリンキとしては現状ショートソードしか使えるモデルがないのだから致し方ない。

(U∧U)『ただ、カエリクス工房の乙多見ユートがチューンしているらしいので、そこは期待ポイントだと思います』


(0▽0)『そしてぇ! 新参クソザコボーナスバルーン久々原の挑戦を受けて立つのはァ!!』

 実況の声に合わせて、リンキ対面側のエントリーゲートが開く。


 正装の堂々たる立ち姿。それは相手への敬意か威嚇か。静脈血のように深い緋色のリボンタイを締め、足元は黒檀の如く光るブーツ。そして儀仗用外套を肩にかけ、ライトに照らされながら颯爽とフィールドへと歩みを進める。濃紺のプリーツスカートと胸元の徽章が彼女の所属寮を誇らしげに示す。


(0▽0)『レイディアント・インダストリ所属! 泣く子も黙る【深紅の暴君】!!』

 待ってましたとばかりに、歓喜の声と万雷の拍手が観覧席に鳴り響く。


(>▽<)『皆様ご存じアライアンス寮長! 土師方(はじかた)メトラァッッ!!』


 メトラは軽く右手を挙げて歓声に応える。寮の代表を務めるだけあって、アライアンス寮生からの人気は凄まじい。実力に裏付けられた威厳。レイディアント社の歴史と権勢を体現するように、彼女の足取りは自信に満ちている。

「……レイディアント……」リンキは何か思い出したように呟く。そうだ。スズリの命を狙っていたのも確か――。


(U∧U)『使用機は【ドラグーンモデル・スプライトブレイカー】。寮長の固有機ですね』

(0▽0)『ブレイカー型のドラグーンモデルとショートソードの一騎打ちなんて激レアな組み合わせ! 戦場じゃあお目にかかれないぃぃ!!』

(U∧U)『普通に考えれば、一方的に叩き潰されて終わりですからね……』


 アリーナの中央、3メートル程の距離でリンキとメトラは向き合う。

「まずは、逃げずに挑んできたことを誉めてやろう」

 メトラに相対して、リンキは気付いた。メトラの付けているアライアンス徽章が、自分の制服には無いことに。その視線からリンキの考えを悟ったのか、

「こいつが欲しいか久々原」

「…………」

「欲しければ己の力を示してみせろ」

「……言われずとも、そのつもりです」

「良い覚悟だ」


 天井から見覚えのある白い六角柱がゆっくりと下りてくる。戦闘シミュレーションシステム【Halysidion】無人機筐体だ。神々しいまでに純白の(はこ)が、これからリンキに悪夢を見せるのだ。

(0▽0)『それじゃあ両者、開始位置について! 準備はいいね?』

「ああ」「……はい」

 掛け声に応じて、2人は互いに筐体の前へ進み出る。


(0▽0)『これより、土師方メトラ対久々原リンキの非公式戦を開始します!』

(U∧U)『時間制限30分。移動範囲制限2.0km。フィールドは【The Megamall Lacustris】。勝利条件は【相手の無力化】』

(0▽0)『さあ! MGPATRA(えむじーぱとら)スタンバイ!!』


― ―― ―――――

_ブ_ゥ_ン_ 

 何かが低く唸るようなあの音とともに視野が暗転。一瞬にして意識が闇に引き込まれる。

――――― ―― ―


 再び視覚が戻ると、リンキは見知らぬ場所にいた。メトラの姿も、観客席も消えている。

「……くるま……?」

 代わりに眼前に広がるのは、広大な駐車場。コンクリートの四角い柱たちが、鉄骨やパイプの走る天井を支えている。LED灯の白色光に照らされて、薄闇に路面の白線が浮かぶ。並ぶ柱と車の間、遠くに屋外の自然光が見える。地下ではない。地上の立体駐車場だ。滞留する冷気や、油と排ガスの臭い。足音の残響。相変わらず仮想現実とは思えないリアルな質感と完璧な没入感。


 リンキは一度も訪れた経験がない故に、この場所が何か理解できていないが、要するに大型ショッピングモールの立体駐車場である。リンキとメトラはそれぞれ無作為に設定された開始地点に配置され、互いの位置は把握していない。


(0▽0)『さてぇ! 試合開始ですが、どんな展開になるでしょうね?』

(U∧U)『ショートソードでドラグーンモデルに歯向かった前例を見たことがないので、なんともいえないですね……』

 解説担当の玉柏アルゴも、この戦いの行方を読めずにいる。なお、当然ながら実況解説の声は、当事者のリンキとメトラには届かない仕様だ。


 リンキは薄明かりの中、自動車の窓に映る自分の姿を確認。深紅のセーラー襟。両目には星状虹彩(アストラルアイリス)。A-MGSG1 ソードモデル・ショートソード。乙多見から与えられた魔法少女の姿だ。

 スズリの言っていたことを思い出す。――「メトラが諦めるまで粘ることができれば、実質リンキの勝ち」――。制限時間はちょうど30分間。最後まで生き残ることができれば、それだけで目的達成。メトラから逃げ切るだけ。


 ただ、敵の位置は分からない。施設の構造も分からない。だから逃げようがない。闇雲に動けば、それだけ見つかり易くなる。故にこうして、車の陰に身を潜めて敵をやり過ごす。それが最適解だとリンキは判断した。


 コンクリート敷きの床にそっと腰を下ろし、車のドアに背を預ける。耳をすませば、機械類の低く鳴く音が聞こえる。微かな足音すら聞き逃してはならない。掌を床に押し付ける。視覚より聴覚の方が有用な場面は意外と多い。床の冷気が、手や尻を伝って昇ってくるような気がして、気付かないふりをしていた孤独感が心臓まで届いてしまいそうだ。自分の鼓動で自身を奮い立たせる。――いつか姉さんを取り戻すため、ここで負けるわけにはいかないのだ。


(0▽0)『おっとぉ!? 久々原が座り込んだぞ! 戦意喪失かぁ!?』

(U∧U)『土師方メトラ相手に動き回っても無駄という意味では、まあ正しい選択かもしれませんね』

(0▽0)『私は逃げた方がマシだと思うけどねぇ!』


 _...ゾン..._


「!!」


 聴覚に感アリ。

 後方。距離不明。

 足音ではない。爆発でもない。もっと巨大で、重い音。


 _ズン...__ズドン...__


 少しずつ近付いてくる。何の音か不明だが、メトラのものであることは確か。

 リンキは警戒しつつ、反撃に備えて傍らの小銃型戦闘魔法杖(バトルワンド)に手を掛ける。


 _ズドン!_


 近い。床が振動する。やはり何か重いものが落ちる音か。ガラスの割れるような音もする。

 そろそろ場所を変えるべきか。ただ、敵がどの程度の距離から、どんな攻撃をしているのか、現時点では皆目見当がつかない。

 精一杯の想像力で、その音の正体を突き止め居ようとしたリンキだが、

 直後に、身を以て理解させられた。


 >>#ズッッッッドゴァアァァァァァッッッッッッン!!#<<


 圧し潰される。圧倒的な力で。上から下へ。

「アガ…ッ」垂直荷重に脊椎が悲鳴を上げる。

 状況も分からないまま、咄嗟に乙多見の言葉を思い出し、身を守るように両腕を胸の前で交差させる。

 <<emergency protection>>

 機械音声。主キャパシタからの回路が閉じると同時に副へのバイパス回路が開き、すべての魔力がバリアコーティングとインナーストラクチャーを最優先として供給され始める。唸りを挙げるコア。星状虹彩(アストラルアイリス)は対閃光防御色。リンキの視界辺縁には、緊急防護状態と魔力欠乏を伝える文字が流れる。


 、・'##バッシャァァアァァッ##'、・

 車の窓がが割れる。1台じゃない。周囲の全てが同時に。

 サスペンションが限界を迎えたか、*ベギィッ*何かの破断する音があちこちで鳴る。

 天井の鉄骨は歪み、柱のコンクリートが剥離し鉄筋が露わに。

 床はドラムの如く振動している。

 壊れた天井のスプリンクラーが水を吐き出す。

 リンキの体は形を保っているものの、想像を絶する剛力で床に圧し付けられ、全く身動きが取れない。ミイラみたいなポーズでコンクリートの床に張り付けられたまま、成す術もなく降り注ぐ水を浴びる。


(0▽0)『すっごぉい! メトラの攻撃を耐えたぞあのショートソードぉ!?』

(U∧U)『定格100kRzでキャパが主副あわせて500kRzh程度のハズなので、カエリクスの技匠が本気でチューンしたうえで丸々防御に回すのであれば、ギリ耐えられる計算ですね』

(0▽0)『しかし二度目はないぞ久々原ァ!!』


 全身を押さえつけていた"力"が消え、ようやく自由を取り戻す。

 瞬時の判断と乙多見の的確なチューニングにより、なんとか初撃を耐えたリンキ。

 疑いの余地はない。魔術。メトラの攻撃だ。

 見上げる。天井があるのみ。あの巨大な力は、間違いなく”上”から襲ってきた。もしくは、床に圧しつけられたと言うべきか。考えろリンキ。重量物に潰されるというよりはむしろ、己の身体が極度に重くなる感覚。それは――、


「――――重力が、一瞬だけものすごく強い!?」


(0▽0)『大正解だぞ久々原ぁ!!』

(U∧U)『よく気付きましたね。雑魚にしては上出来です』


【疑似重力魔術[ATLAS-IMPACT]:特定の範囲に強重力を生ぜしめる】


 任意の領域を対象に、一定時間非常に強力な重力を疑似的に発生させ、万物を纏めて地に叩きつける、土師方メトラの得意技である。その有効範囲は最大で半径1,000m以上にも達し、いかに身のこなしが素早くとも、彼女の広域攻撃を避けることなど不可能。故に、メトラの駆る魔法少女モデルは【スプライトブレイカー】――即ち”妖精を破砕する者”の名を冠するのだ。


「しかも結構広い……!」

 ざっと見渡しただけでも、フロア全体の自動車が攻撃に巻き込まれたようだ。

「どこから――」 

 攻撃の正体が分かったところで、リンキには敵の姿すら見えていない。辺りを見回せど、圧壊した自動車と崩れそうな柱があるのみ。見えない敵から一方的に攻撃される恐怖。恐慌状態に陥る寸前で、リンキはなんとか正気を保とうと足掻く。

 持てる魔力の全てを防御に回したはずだ。なのに、一撃を喰らっただけでキャパシタの魔力がほぼ空に。スズリの全力でさえ2発は耐えたというのに。自分は今、とんでもない化け物を相手にしているのかもしれない。そう考えると手が恐怖で震える。あと一発でも攻撃を受ければ、あの車たちと同じように潰されてしまう。

 最善手は何だ? 潰れかけたクルマの陰で、脳をフル回転させる。目的は生き残ること。敵を倒すことじゃない。メトラとの接触だけは避けなければならない。


 足音で感づかれないよう慎重に、かつ素早く移動を開始。

 リンキは床を蹴り駆け出した。とにかく敵から遠ざかるように。

 目の前。ガラスの砕けた自動ドア。ショッピングモール店内への入口が見える。リンキは迷わず飛び込んだ。


(U∧U)『ようやく久々原が移動しましたね。戦意は感じられませんが』

(0▽0)『がんばって逃げてねーっ!』


 無我夢中で走る。1メートルでも敵から離れるため。パワーアシストが無効になっているせいで、スピードは常人のままだが、それでも走る。

 石材風タイルの上を駆け抜ける。店内に人の姿はなく閑散としている。ショーウインドウや棚の商品はどこか色褪せて見える。照明も大半が消えており、夕闇のように薄暗い。吹き抜け部分の広い空間には、天窓から差し込む自然光が、滞留する薄い粉塵の中、光のカーテンとなって揺らいでいる。自分の足音と息遣いだけが聞こえる。


 どこまでも続くように見える、長い長いメインストリートの両側には、無人の店舗が立ち並ぶ。ここを奥に向かって駆け抜ければ、最速でメトラから距離をとることができる算段だ。多分。きっと。残り時間はまだ20分以上あるだろう。慌てるな。落ち着け。

 

 背後からメトラの攻撃音が聞こえる。とりあえず音とは逆方向へ移動していれば、当面の間は遭遇せずに済むはず。

 吹き抜け部分から下方を伺う。ここは3階フロア。駐車場と違い、視線を遮るものは少ないが、障害物もないので、もし追いつかれても、まっすぐ走って逃げれば助かるかもしれない。

 できるだけ楽天的なマインドで正気を保とうとするが、内心怖くて仕方がない。戦場ではいつもレンカが隣にいてくれた。でも今は違う。独りで巨大な建物の中、未知の敵に追い回される恐怖。


 少し立ち止まって、耳を澄ます。

 音が聞こえる。まだ遠いが、確実に近づいている。床が震える。

 床の震えが心の震えを増幅させる。逃げなければ。

 あの時点でトドメを刺さなかったということは、メトラ側も自分の居場所を把握できていないということに違いない。それなら、この広い店内、一定の距離を保って移動を続ければ、時間切れまで逃げ切れる可能性は十分にある。


 音に背を向け、薄暗い回廊の先を見据える。

 とりあえず、行けるところまで行って、時間を稼ごう。

「……よし、いくぞ……!」

 そう己に言い聞かせ、静かに走り出、



、・'##ドッッッッッ、、シャァァアアアァアアッッ!!##'、・


 リンキの眼前、床が崩落した。



 *;メ゛ギギギギィギギギギギギギギギギギギギギ;*


 地獄のような軋み音を上げながら鉄骨が折れ曲がり、崩れたブリッジに引きずられるように、足元の床が急激に傾斜していく。

「おああああああああああああああ!?!?」

 半ば放り投げられる形で、リンキの体が床を滑る。なんとか手すりにしがみつこうとするも、その手は虚空を掴むだけ。

 制動をかけられず、ゴミ箱やベンチとともに落下。5メートル下にあったはずの2階回廊は既に崩れ去っており、リンキは3階から地上階までノンストップで落ちてゆく。


 そのさ中、宙を舞いながらリンキは、己の目を疑った。


 メトラだ。

 土師方メトラが、すぐ下に。


「 み つ け た 」


 獲物を見上げるおぞましい笑顔が、大脳辺縁系から恐怖の感情を呼び覚ます。

 どうして。

 どうしてそこに。


 メトラが長大な杖を振る。

 避けられぬ重力の嵐が襲い掛かる。

 落下速度が急激に上がる。


 ・'、##ドムゴャッッ!!##√'、`・

 コンクリートや木片の散らばるフロアに44m/sで激突。強烈な衝撃が脳を揺さぶる。

「ウブェァハッ!」圧搾される肺。

 それは魔法少女すら地に平伏させる圧倒的なパワー。実に通常の10倍の負荷がリンキの全身にかかっているのだ。

 身体に力が入らない。朦朧とする意識の中、リンキは敵の姿を仰ぎ見た。


 自らの手で叩き壊した上階の瓦礫を背に、悠然として立つ長身の魔法少女。

 暗く埃のたちこめるショッピングモール内。崩落の残響が空間を満たす。破壊を免れた照明が薄闇の中照らし出すのは、禍々しさと神々しさ、威厳と残忍さとを兼ね備えたシルエット。


 【A-DRG02-4 ドラグーンモデル・スプライトブレイカー】


 両手足を覆うのは、生き血を吸ったかの如く深紅の重装甲。黄金の枠に収められた赤い水晶状コアが胸元に鎮座し、定格出力3,480kRzという驚異的な勢いで魔力を生み出し続ける。長い柄に二振りの大刀を背中合わせに結合したような形の魔導錫杖は、空間と重力を統御する魔術の象徴。記念碑然として天を衝く二本一対の黒い感覚角。爛々と標的を見下ろす両眼に星状虹彩はなく、代わりに柘榴石(ガーネット)琥珀(アンバー)上下二分割の龍の目が、遺伝子に刻まれた絶対的な破壊能力と勝利への確信を、無言のうちに物語る。

 異常なまでに高い性能水準で知られるドラグーンモデルの中でも、特に広域殲滅攻撃に特化した【ブレイカー型】の一機である。大出力コアが供給する圧倒的な量の魔力を惜しみなく振るい、歯向かう存在を空間ごと粉砕する。塵ほどの情け容赦もない戦い方から【深紅の暴君】の異名で知られる。その強さの代償として、資格者は龍の血を身体に刻む遺伝子改造を必要とする。選ばれた者のための、約束された力である。


「……どう、して。そこに」

 リンキの理解が目の前の現実に追いつかない。自分は確かに、メトラから遠ざかるように、ここまで走ってきたはず。攻撃音は間違いなく背後から聞こえていた。それなのに、なぜ眼前にメトラ本人が立っているのか。


「私は初めからここで君を待っていたぞ」

 メトラが足元のコンクリート片を脇へ蹴り飛ばし、リンキの方へ歩み寄る。石ころがカラリと壁で跳ね返る。

「君の居場所が分からなかったからな。私はただ、導いただけだ」

「……導く……?」

「建物を端から順に叩いていけば、隠れた敵も炙り出されて、いずれここへ辿り着くだろう」

「…………」

「今の君のように」

 つまりメトラは、初期位置から一歩も動かず、リンキを誘い出すために疑似重力攻撃のジャブを遠方へ向けて撃ち続けていただけだということ。それは圧倒的な射程距離の為せる技。リンキが追われていると感じていたのはメトラ本体ではなく、実際には徐々にメトラの方へ追い立てるように巧妙に調整された、連続する遠隔攻撃の音だったのだ。


(0▽0)『マジカル追い込み漁だ!!』

(U∧U)『マジカル追い込み漁ですね』


「空間攻撃は高次元魔術だ。射程内であればどこへでも届く」

「そん、、な」

「ハ、――やはりその程度か……」

 失望を露わにするメトラ。

「さて」

 身動きできないリンキを見下ろして、巨大な魔導錫杖を軽く掲げると、


 ##ズドギャッッッ##>>


 リンキの胸へ、杖の柄を突き立てた。

 `'・*パギャァアンッッ!!*'、`・

 コア粉砕。無数の透明な破片となり飛散。

 バリアコーティングの抵抗限界を優に超えた一撃。

 魔力源と制御能力を喪失し、ショートソードのシステムそのものが完全に沈黙。星状虹彩(アストラルアイリス)が消え、全ての防御機能が停止。もはや魔力欠乏警報すら鳴ることはなく。


「君のように弱い人間は、戦おうなどと思わないことだ。もう二度と」


(0▽0)『っとぉ!? バリアをものともせず、コアを一撃で粉砕だぁッ!!』

(U∧U)『これ"寸止め"ですね。本気なら床までブチ抜けたハズです』


 コアを破壊され、魔法少女の力を失ったリンキは、最早ただの非力な人間。

 敵を目の前にしながら抵抗する術を持たない、哀れな生贄。

 投降しろ。もう無理だ。負けを認めるしかない。――観衆の誰もがそう思っただろう。

 だが、

「……まだ、――」

 だが、それでもなお、

「――負けられないんだ」

 リンキは再起を試みる。


 感覚のない下半身を引き摺るように、腕力で上体を起こす。コアの破片がパラパラと零れ落ちる。先の一撃で陥没した胸骨が肺を圧迫し、呼吸が苦しい。アドレナリンの大量分泌が痛覚を封じている。

 傍らに転がるコンクリート片を握る。歯を食いしばり、膝を立てようと試みるが、両足に力が入らない。腰椎に深刻なダメージを負っているようだ。

「まだァ……ッ」

 リンキは左腕を伸ばし、その手でメトラの魔導錫杖の柄を掴む。まだ使える上半身の筋肉を総動員。敵の杖に(すが)るように、気合で自身の体を引き上げる。

「負けていないッ!!」


 *ゴンッ!!*

 右手大きく振りかぶり、握りしめたコンクリート片を、メトラの胸元、スプライトブレイカーのコアに叩きつける。鈍い音がするも効果はない。

 メトラの口元から笑みが消える。身じろぎすることなく、眼球だけを動かし、じっとリンキの顔を見下ろす。その目は、その心は、何を感じ、何を思うか。

 魔法の力を失ってもなお、死力を尽くして立ち向かってくる、その姿に。


「もういい。やめろ」

 *ガシッ* メトラはリンキの右手首を掴む。

「己の非力を受け容れろ」

 #グォオンッ#↑↑

 そして力任せに放り上げた。

 高く高く。紙きれのようにリンキの体が宙を舞う。キラキラと煌めくコアの破片を撒き散らしながら。

 3階付近まで飛ばされたリンキは、フワリと一瞬の無重力を感じた後、何ひとつ抵抗できず自由落下。天井を見上げながら落ちてゆく。

 数秒前と同じ構図。しかしそこに魔法の加護(バリア)はない。


「 終わりだ 」


 落下してきたリンキの首筋に、

 メトラが膝蹴りを叩き込む。


 ># メ ギ ィ ッ ッ ……#<


 ガクンと頭部が背中側に折れ曲がる。明らかに可動域を超えて。

 頸椎骨折。脊髄断裂。

 0.6秒後、両の目を見開いたまま、リンキは絶命した。


 ドサリ。

 骸が床に転がる。

 

(U∧U)『久々原、バイタルサイン消失。【無力化】判定です』

(>▽<)『決ッッ着ぅ! 勝者、土師方メトラぁ!!』


「「うおおあああああああああああああああああああああああ」」

 試合終了を告げる声とともに、観覧席が沸き立つ。

 その熱狂の陰で、乙多見は頭を抱え、スズリは膝から崩れ落ちていた。


「なにやってんだリンキぃいいいいいいい!!」

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