7-9 超次元すごろく➀
ついに師走に突入した日本、春晴家。三一ある夜の中盤辺りの一つで、春晴家の大人たちはピザパーティーという名の酒宴をしていた。深夜テンションもいいところで、ゴルダンが地下室からリゲルを引っ張ってきた。
「俺はalcoholをintakeしない」
「いいじゃねぇか。ほら飲めよぉ」
ゴルダンの勧めに押し負けた彼は、一滴にも満たない一口を啜った。その途端、パタリと意識を失ったように眠りに落ちた。
「……地下室に返してくるよ」
そう言ってセルアはリゲルを背負ってダイニングを出た。
彼らと入れ替わる形で戻ってきたのは、セルアらとはまるで酔い方が対照的なラーシャだった。なにやら大きな木箱を持っている。
「みーなしゃ~ん。持ってきゃしたよぉ~」
彼女はその箱をダイニングテーブルにドンと置いた。
「それが例の……」
「はぁぃ~『ふほーとーき』の謎の箱で~しゅ」
「これまた凄いものを」
と、そこにカナタが示し合わせたように降りてきた。
「あ! ピザとってる」
カナタはピザに気を取られていたが、その手前にある『謎の箱』にも気づいた。
「で、この箱何なん?」
「ラーシャが拾ってきた『不法投棄の謎の箱』、らしいぞ」
「なぁ~んかよく分かりましぇんけどぉ、文字がい~っぱい書いてましたぁ」
「文字?」
――――ラーシャめっちゃ酔ってる……ちょっとエッチかも。
そんな煩悩はさっさと頭の彼方に追いやったカナタはピザを一口かじり、恐る恐る木箱の蓋を開ける。中身はすごろくだった。中央にはサイコロが二つと、それを振るための『皿』がある。
「すごろくじゃん。しかも美品。こういうのは売ればいい値段するのに……」
『START』と書かれたマスの次のマスを、カナタは試しに声に出して読んでみる。
「『はじまりはいつもジャングル。全員で一マスすすむ』。ナニコレ?」
その時だった。色分けされた人数分のブロック人形のようなコマが『START』に出現し、家の中がジャングルに化けた。
「は?」
タイチはため息の後大きく息を吸い、
「またかーーーーっ!!!」
と叫んだ。
**********
【異世界すごろくのルール】
その一.順番が来たらルーレットを回し、コマを進める。やり直しは認めない。
その二.進んだマスのお題を完遂または試練に耐える。逃げることは認めない。
その三.ゲームは誰かがゴールするまで続く。途中棄権は認めない。
『以上がルゥルだ。俺? 俺はボォドゲェムデェモン。親愛なるお隣のプレイヤァさ』
「なんか出てきたぞ」
「先に倒しとく?」
カナタが聞いた。
「「倒そう」」
二人の男は銃と拳を構えたが、それぞれ水鉄砲と影絵のカニさんの手に変えられた。
『ルゥルその四、安全に仲良く楽しくプレイする。暴力は認めない』
「……ということなら、ゲームをいち早く終わらせるしかない、ってことだね」
『そゆコト~』
**********
プレイの順番は、カナタ、タイチ、ゴルダン、ラーシャ、そしてボードゲームデーモンだ。
まずカナタ。結果は『二』と『五』、合わせて『七』進む。進むと言っても、コマが勝手に動くのだ。
「えーと、『カンカン冷えの極寒地帯。雪崩に呑まれて一回休み』」
その瞬間、カナタの背後から大量の雪が押し寄せて、彼を呑み込んだ。
「ジャングルなのに雪って……」
文字通り雪だるま状態となったカナタは、次の次のターンまで物理的に動きを封じられることになった。
「なるほど。書かれた内容が現実になるってのか」
そうゴルダン。
『正解ッ』
次はタイチ。結果は『三』と『六』、合わせて『九』進む。
「なになに? 『チョービックリ! お化けに驚かされ三マスジャンプ』。やりぃ」
そう言っているのも束の間、タイチは出現したお化けにジャンプスケアを喰らい、椅子ごとひっくり返った。
続いてゴルダン。結果は『三』と『一』、あわせて『四』進む。
「どれどれ? 『ドカンと一発間欠泉。スタートに戻る』ぅ!?」
例に漏れず文字通り、ゴルダンは椅子ごと屋根を突き破り、間欠泉に空高く飛ばされて、近くの交差点に墜落した。
ポカンと天井に屋根に開いた穴を見て、ラーシャは「あ~」と声を漏らした。
「夕飯までには帰ってくきてくだしゃいねぇ~」
「この場合は『次のターンまでに』でしょ、ラーシャ」
「これ修理代いくらだ?」
タイチの方は顔を真っ青にしていた。
「次はぁ~あぁしですねぇ~」
さてさてラーシャ。結果は『五』と『二』、合わせて『七』進む。ということは……?
「ぐごふぇぇ」
彼女も、雪に埋もれて一回休みとなった。
最後はボードゲームデーモン。『三』と『五』、合わせて『八』進む。
『ふぅむ。『ケンケンパでワニの上を渡る。成功したら罰はなし』』
と、リビングがワニが何匹も泳ぐ沼になった。家具たちはもちろん、沼の底だ。
「もう滅茶苦茶だよ」
ボードゲームデーモンは椅子から立ち上がり、沼へ向かう。
『よぉし』
彼は首をポキポキ鳴らし、勢いよくワニの上を飛んでわたり始めた。踏みつけたワニが怒って追いかけてくるがそれは気にせず、テンポを保ったまま往復して帰ってきた。陸に着地して、完成のポーズを決める。
「……」
相手は敵怪人。カナタは気にせず動こうとしたが、雪に埋もれて一回休みなことを思い出した。
というわけでタイチの二ターン目。結果は『二』と『四』、合わせて『六』進む。
「『食人植物に要注意。次のターンまで町内を逃げろ』!?」
キッチンと廊下を繋ぐ引き戸を突き破り、巨大なハエトリグサが入ってきた。
「ヤバいヤバいヤバい!!」
タイチは火事場の馬鹿力の要領で動くワニの上を渡り、玄関から逃げ出した。
さて次はゴルダンのターンだが、まだ帰ってきていない。
「戻ったぞぉー……」
勝手口からゴルダンが帰ってきた。
『ハイ、次はアナタです』
やけにフレンドリーなボードゲームデーモンは、ボロボロの彼に二つのサイコロを手渡す。それを立ったまま、中央の皿で振る。結果は『五』と『六』、合わせて『一一』進む。
「よっしゃ! 大躍進! 『カニさんカニさん大行進。遠くに運ばれ二回休み』……」
机の下から小さな赤いカニが大量に現れた。まるでオーストラリアのクリスマス島だ。カニたちは椅子を持ち上げ、窓ガラスを割り、ゴルダンを連れ出した。
「何でオレだけ二連続でこうなんだよー!!」
ゴルダンが見えなくなったところで、次はラーシャのターンだが、
『なんで……こぉり溶けてるんです??』
「えぇぇ溶けてますぅ??」
――――酒で体温、上がったのかな……?
カナタはそう睨んだ。
ともかく、氷が溶けたのなら休みもナシだ。ラーシャはサイコロを振る。結果は『二』と『六』、合わせて『八』進む。
「えーっとぉ『カニしゃん……こーしん』?」
ラーシャもゴルダンに続き、カニに拉致された。
意外にも早く来た二度目のボードゲームデーモンのターン。結果は『一』と『四』、合わせて『五』進む。
『ふむふぅむ『テントで過ごす砂嵐。堪え忍べたら一マス進む』となとな』
途端、部屋の中を砂嵐が襲った。右から勢いよく流れてくる砂の粒はカナタの雪から出た頭をチクチク刺激する。
――――いいなぁ。ボドゲデーモンはテントあって。
ミッションに書かれていた通り、彼にはテントが支給された。
砂嵐は三分続き、晴れてすぐにボードゲームデーモンは一マス進んだ。
つづく




