7-7 ミスヤナギバGP①
マキナの通う私立柳葉高校に、学園祭が迫っている。
「牧奈ちゃん牧奈ちゃん」
机に両手をつき、身を傾けて喋りかけてくるのは、小鳥遊キイチに続いてできたもう一人の『親友』、鞍馬シブキという女子生徒。生粋の関西人である。
「なに?」
「マキナちゃんってミスヤナギバGP、出るん?」
「みす……やな? ごめん、なんのことか分からないわ」
「あー、マキナちゃん転校してきたから知らないんやったね。と、言っても去年から始まったんやけど」
シブキは教室の後ろに張ってあるポスターを優しく剥がして、マキナに見せながら説明を始めた。
「ミスヤナギバGPは、元々学園祭でやってたミスターヤナギバGPに男女平等の観点を入れて、始まったもん。でも、やることは至ってシンプル。普通のミスコンと同じやで」
「……ごめんだけど『みすこん』って、何?」
――――そこからかーっ!
『どこか抜けている』というのが、シブキのマキナに対する第一印象だった。並の人間とはまるで違うオーラを漂わせているにも関わらず、性格は至って真面目かつ明るくて、それでもって『どこか抜けている』。不思議ちゃんってこういうことだろうか。いや、ちょっと違うような。
「・・・というのが、ミスコンや」
「あー、つまり『ランク付けするファッションショー』ってことね!」
「大体それで合ってるで。……それで、出るん? ……あっ、ほら、うちミスヤナギバGPの運営委員で……」
マキナは少し考える。たった今知ったばかりの『ミスコン』というこの世界概念、大会。だが、興味はとてもあった。
「うーん……うん。出るわ」
「出場、でええな?」
「お願いね」
そう言うと、シブキは胸ポケットから一枚の折り畳まれた紙を出し、マキナに渡した。
「放課後ここにきーや。誰にも言うたらアカンで」
「わ……分かった、わ」
――――何するんだろ、一体。
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丸一週間後。柳葉高校の学園祭、その一般公開日が幕を開けた。
そしてそこにはもちろん、春晴家とそこに居候する者たちが全員来ていた。
「お前、ほんとに持ってきたのか……」
タイチが引いている理由。それは、
「うん。ありがたくお借りさせてもらいました、父さんの一眼レフ!」
そう、カメラだ。
最推したるマキナが学園祭のミスコンに出るということを聞きつけ、カナタのオタク心にも火が着いた。普段はスマホでの撮影だが、今日はこの一眼レフカメラで最推しの晴れ舞台を収めんと気合いを入れて挑む、というのだ。
「じゃ、俺は最前席確保してくるから」
学園祭がスタートしてからまだ一〇分も経たないというのに、カナタはカメラと共に講堂の方向へ消えた。周囲の模擬店には目もくれず一直線、だ。
「カナタったら。牧奈さんのことになると周り見えなくなりすぎでしょ」
「「同感」」
現代人三人は、なぜカナタがあそこまで情熱的になれるのか、ただただ不思議であった。まあそれが、『オタク』という生き物なのだろうが。
と、そこに彼がやってきた。
「兄さん!」
この柳葉高校の学校長にしてタイチの弟かつカナタの叔父でありサユコの義弟、春晴シオンだった。
「これはこれは校長先生。いつもマキナがお世話になっております」
「かしこまらないでよ兄さん」
「冗談だよ冗談。――――今日は、ガイドありがとな、校長先生」
「シオンで良いってば。開会閉会の挨拶以外、特にやること無いし」
二人は並び立って先頭を歩いていた。
ちょっとガサツな兄と、キッチリめな弟。一見対照的な二人だが、彼らの笑い合う顔は見れば見るほどそっくりだった。
「……で、彼らが」
シオンは後ろのセルアたちの方を向いて言う。
「ああ、異世界人だ」
タイチは続けて、後ろを向き直って紹介する。前に、
「サユコ、チハヤちゃん連れて先回っといてくれ」
と耳打ちした。彼女もそれを了承。どういう意味かは、言わずもがなだ。
「チハヤちゃん。パパたち、お話が長くなりそうだから、先行ってましょう」
「は~い」
カナタに続き、現代人の女性二人が一団から離脱した。
「……で、こっちから、騎士セルア、戦士ゴルダン、科学者リゲル、僧侶ラーシャ」
「司教です。何度言えばいいんでしょうか」
「んで元殺し屋刃那伊地タカトだ。ちなみにコイツとセルアたちは別の異世界出身」
「一口に『異世界』と言っても、沢山あるものなのか……」
「らしーぞ」
彼らは、本校舎の象徴の一つである大階段から二階へ上がった。
そこは、一年生がクラス単位で運営するゲームコーナーが広がっていた。七西中のそれとは規模が違う、私立の高校ならではの力の入りようだ。
本校舎の真ん中を貫く広場が廊下の窓から見える場所に来たとき、不意に、シオンは口を開く。
「この柳葉高校は、『あの木』から始まったんだ」
『あの木』とは、広場の真ん中の池のほとりにそびえ立つ、一本の不気味なほどに大きなシダレヤナギの木のことだろう。
「シダレヤナギの花言葉は『従順』『自由』『愛の悲しみ』。当時何かを探して旅をしていた私は・・・」
セルアは廊下の壁に掲げられていた『規律 自由 慈愛』の校訓を見つけた。
「『徘徊』な。しかも深夜、まともに学校にも行かずに」
「ものは言い様と言うだろう。……私は、この柳に魅入られたんだろう。当時教育に少しばかり興味はあって、それで一年半猛勉強して、教育学部に行った。見る度に思い出すんだ、そんな『青春』を。そして卒業して一〇年間高校教師をやって、独立して、ここに学校を建てた。その時の資金援助、今でも感謝してるよ」
「お、おう。いきなりどうした? にしても、お前のポエマー気質は変わってなくて安心したぜ」
「褒めてないだろ」
居候先の家主とその弟の語らいを遠くから眺めるという半ば虚無に近い時間を過ごしていると、放送がかかった。
『まもなく、講堂プログラム二番、ミスヤナギバGPが始まります。ご覧になりたい方は、講堂にお集まりください』
と。
「そろそろ行くか」
「案内するよ。みなさん! ちゃんと着いてきてくださいねー」
彼らは徐々に賑わい始めた校内を進み、ミスヤナギバGPの会場である講堂へ、向かっていった。




