7-1 今後の方針
現在は一一月一日の、午前一時。
ハロウィンでの一戦を終え、そのまま東京タワー地下のJNIA本部で聴取を受けた、タカトを含むカナタたちと、家にいたサユコとリゲルと中野から帰宅していたタイチの計九人は、一つの小規模な会議室に集められていた。横向きにいくつも机が並べられた、セミナーでも始まりそうな雰囲気の会議室だ。
眠気を忘れるために「これから何があるんだろう」と雑談混じりに話していたら、そこにマコトとレイカ、清水ユウヤと天童モトキと観測課の加賀美ナツメ、そしてアーマーを脱いだ久我が一気に入ってきた。全員、カナタたちと何らかの関係がある局員たちだ。
「適当に座ってくれ」
マコトが言う。カナタたちはとっくのとうに前方に座っていたので、部下のユウヤやモトキに向けてだろう。
全員が適当な席に着いたのを確認すると、マコトはプロジェクターのスイッチを入れ、パソコンを接続し、オンライン通話を開始した。
一分も経たぬうちに、銀の短髪と長い髭の似合う、年を召した男が通話に参加した。
彼の顔を見るや否や、マコトやレイカたちは一斉に立ち上がった。それを見て、カナタたちも一応立ち上がる。
『夜遅くにも関わらず集まってくれて、どうもありがとう』
その言葉に、マコトたちは揃って頭を下げた。
春晴家の八人に至っては、さっさと寝たいところを起こされているので文句を垂れたい気持ちでいっぱいだったが、ここは我慢した。
男は話を続ける。
『君たちが、異世界人と、春晴カナタくん、だね』
どうやらこちらが見えているようだ。「どうしてそれを?」とは聞かなかった。マコトたちの態度や状況から察するに、JNIAの人間か、もしくは政府の人間か、というところだ。
「長官、彼らに自己紹介をお願いします」
『長官』とマコトに呼ばれた男は浅く頷き、口を開く。
『私の名前は百舌鳥。日本国家情報調査局の長官を務めさせてもらっている』
「長官……そんな位の高い方が、どうして僕たちに?」
カナタが画面越しに尋ねる。
『それはだな……こういうことだ』
ビデオ通話の画面は、百舌鳥側のパソコンの画面共有に切り替わった。そこには、かつて箱根での一件でカナタたちとは面識のあった局員、雨宮の顔写真があった。
『彼に、この国を脅かそうとしている組織と繋がりがあることが判明した』
「その組織というのが魔王軍、というわけだ」
レイカが補足する。
『彼だけではない。本部所属の局員一〇人と各地域分局でそれぞれ一人の局員、総勢六〇人に、その魔王軍との繋がりが見られた』
「それってつまり……」
「スパイ、ですよね」
カナタが言う。
「そんなに居たのかよ。どーなってんだJNIAさんはよ」
『不甲斐ないばかりだ。彼らについては既に『処分』済みだが、問題はそれだけではない』
画面共有は切り替わり、今度は五本の映像が同時再生された。粗い画質が、監視カメラの映像であることを物語っている。
『右上から順に、ロサンゼルス、シドニー、ロンドン、上海、リオデジャネイロで撮られた映像だ』
その映像には、逃げ惑う人々、交戦する警察や軍、そして大暴れしている謎の『怪物』が映っていた。そしてその『怪物』が何なのか、カナタたちは一目で分かった。
「これ、デーモン……?」
映像の中の『怪物』は全体的に赤黒く、何かしらの特定モチーフを禍々しく歪ませているというデーモン怪人と共通する特徴があった。
「そうだ。昨日の日本時間二〇時に、世界各国の複数都市で同時に出現した」
「二〇時と言いますと、渋谷で戦闘を終えて、クラハ・ステイシーたちも逃げて、この施設に到着したタイミング……ぐらいですよね?」
ラーシャは一つずつ振り返って確認する。
『……それで、これらの騒動を受けてCIAとMI6が動き出した。七王子西中学校文化祭の一件と箱根の一件を組織間で共有していたからな。そこから日本に原因があると踏んでいるのだろう』
春晴家の思うところはみんな同じだった。そもそも何故共有するんだろう、と。
『君たちに彼らの目が行くのも、時間の問題だろう。そこでだ。我々JNIAから君たちに、一つ提案がある』
またまた画面共有が行われ、PDFが映し出された。そこには『異世界人共同作戦』の文字があった。画面はスクロールされ、赤く色がつけられた大きな文字のところでストップした。
「『魔人ジャーズ』……? はい? 長官さん、これ……どゆこと?」
『釘原、この資料を作ったのは君だろう。説明して差し上げなさい』
「はい。『異世界人共同作戦』じゃあ堅苦しいかと思い、『魔』術を使う『人』と取って『魔人ジャーズ』、とチーム名を着けた次第です」
「いやチーム名は面白いからアリとして、そもそもどんな提案かって聞きたいんだけど?」
『これは失敬。つまりだ、読んで字のごとく、超常現象対策課を仲介役として、JNIAと君たちが正式に魔王軍壊滅のために手を組む、ということだ』
それを聞いて、彼らの頭には衝撃が走った。JNIAと組むことは、間違いなくこちらにとって有利となる。だが、この作戦は『得』だけではないことを、久我の言葉から知ることになる。
「それはつまり、彼ら九人を完全に我々の支配下に置く、ということでもありますよね?」
『如何にも。魔術や変身システムは、こちらで一括管理させてもらうことになる』
それ即ち、自由に魔術を使用したり変身したりができなくなるということだろうか。だとしたらそれは彼らにとってかなりの痛手だ。
ということで一旦審議の時間、名付けて審議ングタイムを設けたい。
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会議室からはマコトと百舌鳥を含む局員たちと両親を退出させられ、変身能力と魔術を所持する六人+リゲルの七人のみになった。
「で、どうするよ、あの作戦」
頬杖をついたゴルダンが話を始める。
「バックにJNIAがつくのはめっちゃ頼もしいと思うけど、管理下に置かれるってことは……」
同時に全員が思い浮かべる。日常で役に立つ系の魔術が許可がないと使えなくなる様子、デーモン怪人の出現で各地に派遣される様子、肝心の戦闘の時に許可が下りずに変身も魔術の使用もできなくなる様子……考え始めればキリがない。
だが、これらの問題と手を組むメリットを秤にかけたとき、秤はメリットの方に傾いた。特にJNIAが腐敗している印象も無いし、何よりマコトたちは信頼できる。
「とりあえず……手、組んどく?」
「「「「「「組んどこう」」」」」」
七人の方針が決まった。
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その方針を、帰ってたマコトたちと、オンライン通話を再開した百舌鳥に伝えた。
『そうか。そう言ってもらえて、こちらも安心した』
「お前ら、ホントに良いのか? 結構悩んでそうだったけど」
タイチが心配して尋ねたが、
「大丈夫。みんなでちゃんと考えた結果の判断だから」
カナタはしっかりその旨を伝えた。
『魔人ジャーズの指揮は、釘原に一任しようと思う。できるか?』
「お任せください」
これをもって、この会議は「春晴家とJNIAは正式に協力関係を結ぶ」ということで終結した。
会議室を春晴家の中で一番に後にしたマキナは、肩を回してから、後ろの仲間たちの方を向く。
「さ、帰って寝よっ」
「だね。僕も、一気に疲れが出てきた気がするよ」
「もうみんな家まで帰る元気も無さそうだし、今夜は近くのホテルに泊まってくか」
「名案ね、あなた」
ようやく、今日が終わったような気がした。
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魔王城、とりわけ謁見の間はただならぬ雰囲気に包まれていた。大魔王が数時間前に意識を失ったかと思えば、まるで人が変わったようなキャラで目覚めたのだからだ。
それに伴い、幹部と幹部補佐の計七人が彼の前に集められた。
「キミたちが……オレ様の部下、ってわけネ」
声色も以前とは違うような気がした。何というか、余裕をちらつかせている。
「じゃあ、まず最初の任務だ。オレ様の前に女と食い物をたらふく用意しろ!!」
「直ちに」
そう言ってジャイゴは退出する。
全員、今の彼の態度が気に入らなかった。私たちが忠誠を誓っていたのは以前の魔王だ。こんなにもチャラくて、自らの欲望に、下半身に忠実な男なんぞに忠誠を誓ったのではない。もっと実直で、頭の切れる「悪のカリスマ」だ。絶対的な「王」だ。一秒でも早く、以前の魔王様を返せと、今の魔王に言いたい。
だが、逆らえないのだ。本能が言っている、「逆らったらまずい」と。それだけ、彼から以前とは違う恐怖のオーラが出ているのだ。
「今日からはオレ様が、この魔王軍のリーダーだ。全員、オレ様の言うことをしっかり聞くんだな!」
返事は聞こえなかった。
「返事ぃーー!!!!」
彼は癇癪を起こし、椅子の肘起きをバンバンと叩き始めた。まるで赤子だ。
『……承知致しました』
この状況は、防げたことなのだろうか。確かに以前から『別人格』の話は聞かされていた。その『別人格』が自らの体を狙っていることも、何度も話されていた。だが間に合わなかった。以前の魔王は、死んでしまったのだろうか。これからの魔王軍は、どうなってしまうのだろうか。
そんなことを、幹部補佐であり一人の若いくノ一でもあるルナ・ウシマドは、自分の執務室に戻りながら考えていた。
――――あっ。
この件、『上』に連絡しておかないと。




