6-6 ハロウィン➁
スクランブル交差点の中心で暴れているパンプキンマン、もといハロウィンデーモンに向かって、カナタは走りながら変身した。この世界のカナタは初変身である『スピード+』に。
するとその瞬間、凄まじい速さで足が動いた。
「うわあっ!」
彼はこうなることを知らなかった。初見故に制御も難しく、直感でというわけにはいかなかった。
コスモは勢いよくハロウィンデーモンにぶつかった。その反動でハロウィンデーモンは歩道の奥の、大きな広告が張ってある壁まで吹っ飛んだ。
なお、コスモは交差点の中心に尻餅をついていた。
「いって~……」
――――これを使いこなすって、別世界の俺は凄い……
『ぅぅ、ぅぅ……』
ハロウィンデーモンは打ち付けられた背中に痛みを感じつつも立ち上がる。
「カナタ大丈夫?」
マキナが聞く。
「うん」
「彼は強い……のか?」
「いやぁ……そこまで強い感じは……」
ハロウィンデーモンは両手のバズーカのようになった茎にエネルギーを溜め、街灯ビジョンの一つに向けて、威嚇するように放った。爆炎を放ち、ビジョンは地面に向かって落下していく。
「強い……んじゃね?」
その時、マキナは思わずハロウィンデーモンから距離を取るように後退り。一歩、もう一歩足を動かそうとしたその時、「マキナストップ!」と、セルアが彼女の肩を押さえて動きを止めた。
「足下のクッキー、きっと踏んだらまずいぞ」
「確かに、これ変えられた人だもんね。じゃあセルア、回収お願い」
「分かった……けど、戦力的には僕とカナタの方がよくないかな」
「まぁ……たまにはカナタと二人で戦ってみたいし?」
それを聞いてセルアは口元を緩ませて「そうか」と呟いて、人が変えられたお菓子の回収に向かった。「Agilis/俊敏」で自身の動きの速さを著しく加速させて、彼らが戦闘に巻き込まれないうちに、だ。
一方、カナタ。
――――え、えーっ……マキナ、それはもう、告白なのでは……?!
ふと我に返り、スピード+のスーツ越しに右の頬を軽くパチパチと叩いた。
「こんな時になに考えてるの、俺!」
「どうかした?」
マキナが聞いたが、
「いや、なんでもない」
と冷静に返して、二人は並び立つ。
「行こう」
「うん」
二人は、交差点に足を再び踏み入れたハロウィンデーモンに向かって走り出す。
コスモの方がマキナよりも遥かに到達は速かった、それも一瞬だった。
ハロウィンデーモンは力一杯に腕をぶんぶん振り回す。が、コスモにそれは当たらない。最近鍛えている動体視力のおかげもあるが、なんてったってスピード+なのだから。
それと同時に、スーツの中ではスピード+の弊害も発生していた。
「やばい、脳が追い付かない……酔う……」
――――こうなったら……
もう一つの新フォームを使うまでだ。胸上のオーブにチェンジガンをかざして、スライドを五回引き直せば、ガード+になれる。
「……っ、重っ」
スーツは重いが、重い分パワーも出るはず。それに今のガード+のコスモは、ハロウィンデーモンの体格を凌駕していた。
拳を大きく振り上げて、落とす。後ろに避けられても、続けて二回目、三回目も振り下ろすが、避けられた。そんな中、注意がコスモに向いている隙に、
「Impetus flammae ex utraque parte!/挟み撃ち火炎放射! 焼きカボチャにしてくれるわ!」
マキナが魔術で、二方向から詠唱通り挟むように炎で焼いた。ハロウィンデーモンの肉体は植物でできていたこともあってか、よく燃える。
「う~ん、甘いいい匂い」
周りに漂った匂いを嗅いで、カナタは言った。
そして、ハロウィンデーモンはそのまま燃え尽き、デーモンコアが浮かび出てきた。
「逃げられる前に~」
コスモが、ガード+のフルパワーパンチで破壊した。
その瞬間、セルアが両手に抱え込んでいたお菓子たちが、元の人間に戻り始めた。思わずセルアは手を離す。バラバラと地面に落ちたと同時に、ポンッポンッポンッと元の人間に戻ると、訳の分からない状況に恐怖を覚えて一目散に逃げていった。
と、そこに避難誘導を完了させたゴルダンとラーシャも戻ってきた。
「この様子だと、倒したみたいですね」
「うん。かな~り雑魚かったけどね」
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一連の戦いの様子を、魔王軍幹部のまじない師クラハ・ステイシーは渋谷スカイから見ていた。
「ザッッッッコ!! 何だよあのデーモン! こんだけ手間かけさせておいて・・・」
その時、後ろから気配を感じ取り、
「ハズレ枠か、よ!!」
タカトから振り下ろされた、緑に光る電極が刃に走る剣を、彼は振り返って、体に触れる寸前で掴んで止めた。
剣から発される熱がクラハの指ぬきグローブを貫き、掌をじりじりと焼く。対するタカトはそのまま斬ろうと、強く押し付ける。
「キミが……例の『異世界からの処刑人』?」
「如何にも、だ!」
タカトは剣を思い切り引き、クラハの左手を焼き斬った。
「も~、痛いじゃん。機械のクセに。『発動:telekinesis/念力』」
クラハはの持つ固有魔術『telekinesis/念力』は、一般的に魔術で使える念力系の術よりも直感的に、かつ素早く、かつ自由度が高くコントロールができる、というものだ。
タカトを指で差し、指の動きとシンクロして彼の体を上に持ち上げ、そのまま自身の上を通過させて、ビルの屋上から放り投げた。そしてクラハ自身も、タカトを追って飛び降りる。
背中で風と重力を感じながら、地上二二九メートルから落下を続けるタカト。
――――流石にこの高さから落ちれば、いくら強化金属といっても、耐えられないだろう。
そう分析したタカトは、剣に綺麗な『鍵』を差し込んだ。
「変……身……」
タカトは『鍵』を捻ってセンチネルに変身を完了した。
「いいね~嫌いじゃないっ!!」
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「……ねぇ、今あのビルから人が落ちなかった? しかも二人……」
彼ら五人が「さてこれからどうしようか」としていた時、マキナは見ていた。タカトの落下変身と、その上から前傾姿勢で追って落ちるクラハの影を。
「えっマジ?」
「見間違いじゃねぇか?」
「そうかなぁ……」
その時、カナタは渋谷マークシティと渋谷駅を繋ぐ連絡通路のある方向から、何か『集団』がこちらに近づいてきているのを感じた。何の『集団』なのかは、陰で分からない。ただ、逃げたハロウィン参加者が戻ってきた、ということではなさそうだった。気配から違うのだ。何か、物々しいような……
「……前進」
数多くの足音が、彼らの耳に入った。さっきカナタが『集団』の気配を感じ取った方からだった。
その直後、「突入!」という男の叫び声とともにスクランブル交差点に飛び込んできたのは、黒い防護服を全身にまとい、サブマシンガンを持った特殊部隊だった。すぐさま、カナタたちは特殊部隊に囲まれ、銃口を向けられた。すかさずセルアたちは戦闘態勢に入るが、カナタが落ち着かせた。右胸に白い文字で「POLICE」ではなく「JNIA」と書かれていたため、味方だろうと判断したからだ。いや、銃口を向けて囲むのは味方のすることか……?
「……みなさんは、なんでここに?」
カナタが勇気を出して尋ねてみる。すると、
「なんでだと? 惚けるのはいただけないな、春晴カナタ」
そう言いながら銃口の森の奥から姿を見せたのは、数多くいる一般隊員よりも幾分か重厚感のある武装を身にまとった、アサルトライフルを手にした男だった。
「あなたは?」
カナタが少し威圧されつつも尋ねる。
「JNIA特殊急襲部隊『JAT』指揮官の久我だ。この騒動の重要参考人として、お前たちを連行させてもらう。全員、武装を解除してこちらへ渡せ。それが終わったら順番に、これから来るバンに乗ってもらう」
急に二つ三つと言われたが、それらがどういうことを意味するか、彼らは分かっていた。仕方ない、ここは従おうと動き始めたその時だった。スクランブル交差点に、センチネルが飛ばされてきた。
「ぅええ!? タカト!? なんでここに?!」
「偶然、東京の街を歩いていたら、奴に出くわした、というわけだ」
センチネルの目線の先には、余裕そうにスキップを刻んでこちらへ向かってくるクラハの姿があった。
JATの隊員たちは、彼が発する脅威的な気配を全身で感じ取り、一斉に銃口を向けた。
「……ん~、みんな敵対してるなぁ」
久我が今度は、気だるげに頭を掻くクラハに対して、アサルトライフルの銃口を向けながら前に出る。
「釘原から話は聞いている。『魔王軍幹部』の者だな? ご同行願おう」
「やだよ~。めんどくさそーだもん。てか、キミらの方こそ自分の命は大事にした方がいいよ?」
そう言って、クラハは先ほどタカトにしたのと同じようにJATの隊員たちを指で差し、
「『発動:telekinesis/念力』」
と唱えた。
「気をつけろ!」
センチネルの咄嗟の呼び掛けもむなしく、隊員たちは空高くに持ち上げられ、頭から地面に落とされた。カナタたちを中心に円を描くような陣形をとっていた隊員たちを、時計回りに上げては落としてゆく。
一周したら、今度は全隊員をまとめて上げて、高いところから落とす。しかもそれを素早く三回連続で、だ。
全員が等しく四度も地面に打ち付けられたJATの隊員たちは、いとも簡単に壊滅寸前にまで追い込まれていた。
そんな光景を目の当たりにした久我は、怒りを抑えられそうもなかった。日頃から可愛がっている部下たちをいとも簡単に蹂躙され、JAT指揮官としてのプライドを踏みにじられた久我の怒りは尋常ではなかったのだ。
「……よくも、やってくれたな!」
怒りに体を支配された久我は、クラハに向かって一心不乱にアサルトライフルを連射した。彼の射撃精度は驚くほどに高く、中口径弾はクラハの体を確かに撃ち抜いていた。
だが彼が血を流したとしても、倒れることは決して無かった。その事実を目の当たりにした久我は恐怖を覚え、目を丸くし、射撃を止めた。
このままではこの男がクラハに殺られてしまうかもしれない。そう考えたセルアたちは、久我の肩や腕を掴み、後ろへ下げた。
「ねーもう終わりー? つまんねーの」
全身血と銃創だらけであるにも関わらず、子供らしく口を尖らせるクラハ。
その瞬間だった。東の空から、凄まじい速さで何かが飛んできた。
「来た来た~」
それはクラハの真上で止まり、白い煙を足の裏から吐きながら、腰に手を当てて誇らしげな顔を見せる彼の背後に着地した。非常に大柄な、『鎧兜』そのもの……
「クロノス・マドゥ……」
「カナタ、知っているのか?」
「うん。魔王軍の……参謀!!」
協力な助っ人を呼び出して、先ほどよりも得意げな顔を見せたクラハ。さぁ、このままクロノスも交えて戦闘、になるかと思いきや、クロノスはクラハを小脇に抱えた。
「ちょっ……クロノス! 何すんだよ!!」
「何とは何だ、今は緊急事態だ…………失礼した」
彼はそれだけ言い残して、再び、今度は不貞腐れたクラハを抱えて飛び立った。だが、それを追おうとする者は、誰一人として居なかった。
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例に漏れず、その後は『あとしまつ』が行われた。一瞬にして負傷者多数となったスクランブル交差点一帯は一時封鎖され、多くの救急車、そしてスーパーアンビュランスが呼ばれることとなった。
今回の一連の騒動は『ハロウィン参加者による集団ヒステリー』として処理、報道されることになった。無論、ネット上にアップされたハロウィンデーモンの写真や映像は削除された。
そしてカナタたちはというと、その後しっかりJNIA本部に連行され、話を聞かれることになった。ここでもう一つ、彼らに告げられたことがあるのだが、これはまた別のお話……
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魔王城に帰る道すがら、道というより上空でも、クラハは相変わらず不貞腐れた態度を貫いていた。
「その態度、そろそろ改めろ。何度も言うが緊急事態だ。仕方ないだろう」
「緊急事態って、具体的には何なんだよ! 折角春晴カナタたちと戦えそうだったのに」
「魔王様が危篤だ」
クロノスは間髪入れずに答えた。
「……は?」
「正確には『人格が』だろう。いよいよマズい状況だ」
「――――分かった。なら、仕方ない」
二人は、遥か遠くの空に消えた。
次回からクリスマス編です!




