6-2 キャンプファイヤー(庭)
火が弾ける音だけが、庭に響く。焚き火台の薪に灯された火は暖かな光を放って、キャンプファイヤーを囲む彼らを優しく包み込むように照らしていた。
「ほっこりするわね」
マキナが誰に向けるわけでもなく、呟く。
「ほんとそれな~」
五人の間に、また静寂が流れる。
今日は電気設備の点検の都合で、不動台一帯は停電することになっている。おかげで春晴家の近隣は街灯一つ点かず、家々から漏れ出る光もない。キャンプファイヤーと秋の星空を堪能するには絶好の機会だったわけだ。
「楽器の名前山手線ゲ~ム」
唐突にカナタが言い出した。異世界人に現実の楽器の名前が分かるのか? という疑問なら心配ご無用。さっき「世界の楽器特集」をテレビのバラエティーでやっていたからだ。メジャーな楽器からマイナーな楽器まで、今の彼らはよく知っている
カナタ「時計回りで好きな楽器の名前言ってって。被りはナシね。じゃあまず俺から。フルート」
マキナ「トロンボーン」
ゴルダン「チューバ」
ラーシャ「ホルン」
セルア「サックス」
――――意外とスムーズに行けたな。
カナタ「トランペット」
マキナ「カスタネット」
ゴルダン「クラリネット」
ラーシャ「コルネット」
セルア「スピネット」
――――「ット」縛りでいい語感。
カナタ「ドラム」
マキナ「ギター」
ゴルダン「ベース」
ラーシャ「キーボード」
セルア「エレキギター」
――――バンド組めたな。
カナタ「馬頭琴」
――――スーホの白い馬、懐かしい。
――――バトーキンって何……?
マキナ「オカリナ」
ゴルダン「クラリネット」
ラーシャ「コントラバス」
セルア「フーシェルド」
「ちょっと待てい」
カナタが山手線ゲームを一時止めた。そして尋ねる。
「フーシェルドって何?」
「シラ王国の伝統的な楽器よ。よく式典で演奏されてるわ」
と、マキナが答えた。
カナタ「ならいっか……。じゃあ再開! ビブラスラップ」
それからも楽器山手線ゲームは一〇周ほど続き、とうとうレパートリーが尽きてきた。
カナタ「クロマチック・ニッケルハルパ……」
流石に疲れてきている様子だ。
マキナ「あー……えと、もう無い……わ」
これを以て、五人の山手線ゲームはマキナの負けで終了した。そして再び、火の音しか聞こえない静寂の時が訪れる。
「マシュマロ、というものを焼いてみたいな」
今度はセルアが唐突に言い出した。
「あ~、いいね。分かる」
カナタはキャンプファイヤーでマシュマロを焼いた経験が、実はあった。
「この間商店で働いてる時に、お客さんの会話が聞こえてね。何でも、めっちゃトロトロで甘いらしい」
「なら、今から買いに行きます? 近所のコンビニに置いてあった……あ、閉まってるんでしたね」
「今夜は停電だからな」
再び、静寂。
「サユコさん、今頃何してるんでしょうねぇ」
「別府かぁ。いいなぁ、母さん」
実のところ、サユコは昨日から友人らと大分県の別府に旅行に行って、家を空けているのだ。
その時、ガチャリと門が開く音がした。タイチが、飲み会から帰還した。
「おかえりなさい」
「うぇーいただいま~」
かなり酔っているようだ。
「どんだけ飲んだ?」
カナタが呆れたように尋ねる。
「杉村にえげつない量飲まされたわ。ったくもぉ~」
杉村とは、タイチが経営する会社の副社長である。
彼は右手提げていたビニール袋に手を突っ込んでを乱雑にまさぐり、お持ち帰りしたものが入っているであろうパックを取り出した。
「なんですか、それ?」
セルアが尋ねる。
「焼き鳥だよ。もも皮ねぎまぼんじり、四×五本ずつあるから、仲良く食えよ~」
そう言いながら、タイチはキャンプファイヤーの台に焼き鳥の串をセットしようとしたが、すんでのところでカナタに止められた。
「気分ぶち壊しだから、トースターでやって」
「トースター今使えねーだろ……」
「なら朝にして。俺ら今キャンプファイヤーでほっこりタイムだから」
説得されたタイチはいかにもめんどくさそうな顔をして、家の中に入っていった。
再度、五人の間に静寂が流れた。
「そういやリゲルの奴、いつになったら来るんだ? もうあれから三日だぞ?」
「確かに。どこかで行き倒れていないか、心配だ」
――――行き倒れ……かぁ。まあ、リゲルのキャラなら……大丈夫そうでもあるけど。
カナタは何気なく椅子に体重をかけて、夜空を見上げた。今夜は星が、いつもより鮮明に見えた。




