6-1 打ち上げ
カナタはタイチに送ってもらって、二年三組の打ち上げ会場となっている焼き肉屋にいた。いくつかの卓に分かれて座り、ドリンクも到着し、今回の体育祭のMVPであるエイタが音頭を取って言葉を述べていた。
「――――ということで、今日はよく頑張りました、乾杯!」
その合図で全員は互いにグラスを掲げあった。
示し合わせたかのように、肉も運ばれてきた。カナタやエイタたちのいる卓に運ばれてきたものはというと、カルビ、ハラミ、ウインナー、タン、タン、タン、タン、タン。
「ちょっと待てタン多くね? どんだけ頼んだ?!」
エイタは一番注文タブレットに近いビスケに、注文履歴を確認するよう指示を出す。
ピッピッと操作して表示された数を足して足して計算した結果、
「あっ……タン、一五皿……」
まさかの数に、彼らは声をそろえて驚く。
「この卓、六人だよね?」
カナタが一応、一目瞭然だが確認する。自分、エイタ、ビスケ、マサル、イオリ、ケイマ。うん、ちゃんと六人だ。
「これ、もしかして誰かケタを間違えてないか?」
イオリの推理に、一同は納得の様子だった。
「「「「「あり得る」」」」」
「てか全員タン別々で頼んでんじゃん」
と、その時、ライスが到着した。こちらはサイズに差があるものの、人数分だけちゃんとあった。
「とりあえず肉焼かね?」
「焼くか~」
肉が劣化する前にと、とりあえずカルビから焼き始めた。
「……で、どの順番で注文したっけ?」
肉の焼ける音にかき消されないようにと、カナタが言う。
「確か……時計回りに、俺、班長、ケイマ、イオリ、カナタ、エイタだったと思う」
一人一人、注文履歴の照会が始まった。
「まず俺、神島ビスケが頼んだのは、ドリンクバーとライス中とカルビだな」
次のマサルにタブレットが回る。
「僕が頼んだのは……ドリンクバーと、ライス小と、タンと、冷麺……です」
「班長序盤で冷麺いく派なんだ」
「あんまり肉は、油が回って食べれないので……」
次は学級委員長でもある石川ケイマの番だ。
「ドリンクバーと、ライス中と……んん???」
眉間に皺をよせて、彼はタブレットを睨む。
「どうした?」
向かいに座っていたイオリをはじめ、全員がタブレットを覗き込んだ。そこには、ケイマが頼んだものとみられるドリンクバーとライス中に続いて、タン、数量一〇の文字があった。
「あ」
「「「「「あ~」」」」」
タン一五皿事件の犯人、特定。
「何やってんだよ学級委員長」
「ごめん。一皿かと思ったらケタ間違えちゃってた」
当の本人も、以後笑い話になるような雰囲気を出していたが、ここでもう一つ、問題が発生した。
「これ、割り勘どうする? 予算は一人三〇〇〇円前後で連絡しているが……タン一〇皿となると、単純計算で四〇〇〇円だ。石川、所持金は?」
イオリに尋ねられたケイマは財布を開いて確認する。小銭入れも開いて確認したが、
「三五〇〇円しか持ってない……」
四〇〇〇円に対して所持金が少し足りない。その事実に一同は少し俯いて頭を悩ませた。
「あっ」
エイタが呟いた。
「何か、解決策が?」
「違う違う。カルビたちが焦げる」
彼は慌てつつも手早いトング裁きで、カルビを一気にひっくり返した。幸い、ちょうどよく火の通った焼き加減であった。
「あ」
今度はカナタが呟いた。
「今度こそ、何か解決策が?」
「うん」
カナタが口を開こうとしたその時、冷麵が運ばれて来た。
「有難うございます……ほら、東」
「ありがとうございます……」
マサルは受け取ったものの、いまいち食べ始める気分にはならなかった。
「……で、カナタの解決策ってのは?」
ビスケが話を戻す。
「もういっそ全員でシェアして全員で割り勘。今日は今現在頼んでる分だけ食べる。そうすれば、何とかなりそうじゃない?」
「「「「「……あ~」」」」」
「仮にそうすると……」
ケイマはスマホの電卓アプリで計算を始める。時々タブレットの注文履歴を参照しながら、ポチポチ打ち込む。
「一人当たり一五〇〇円とちょっと、まだ頼めるくない?」
「あ、なら俺レバー頼も」
そう言って、エイタはタブレットを取った。それからも、俺も、俺も、なら俺もと少しずつ追加注文があり、タン一五皿事件のことは、彼らの頭の中から次第に薄れていった。
各々が焼けた肉を皿に取り、タレをつけて食べている時、彼らの注目はエイタの「なぁ」という声に集められた。
「タカト、誘っても来なかったな」
「それな。ってかあいつ、スマホ持ってんの?」
その言葉で、カナタは以前タカトとしたやり取りを思い出す。彼は「スマホなど持っていなくても、この頭で、すべて完結できる」と言っていた。
「持ってないって、前言ってたよ」
カナタが答えた。
「そうか~」
それからも、打ち上げは雑談や写真や動画撮影を交えて進んでいった。そんな中で食べる焼肉は、心なしかいつもより美味しくて、たくさん食べられるような気がした。
と、ここで気になる会計の話だが、結論から言うと、ギリギリながらなんとかなった。彼らは安心して、誰かに借金することも誰かとのトラブルもなく、「また学校で!」と解散することができた。




