5-10 妖《あやかし》
妖――またの名を「妖怪」。日本で伝承される民間信仰において、人間の理解を超える奇怪で異常な現象、あるいは、それらの現象を起こす不可思議な力を持ち科学で説明できない存在のこと。
(Wikipedia 妖怪 より)
「で、現代で出てきたのはゾンビなのに、なんで幕末では妖怪が出てくるわけ?!」
この場の誰もが思っていたであろうことを、コスモが大声でスピカに尋ねた。襲いかかってくる妖怪たちを蹴散らしながら。
「私がうっかり、祠を壊してしまったものでな」
「不本意なんかい!!」
そこにちょうどよく、刀を携えた勘十郎も合流した。
「よくここが分かりましたね!」
「武士のカンってやつだ! ……それでよぉ、」
どうやら勘十郎も、スピカの祠破壊報告を聞いていたようで。
「お、おめぇ……あの祠壊したんか」
「フン。ああ、壊したさ。だが、既に皆、私の手駒だ」
スピカは唐傘お化けを操って、まるでミサイルのように勘十郎に向けて飛ばした。だがそれはコスモによって蹴り落とされる。
「祠ネタなことは置いといて、それってなんかヤバいやつなの?」
コスモがまた、今度は勘十郎に尋ねる。
「ヤベぇもヤベぇ。江戸一帯の妖怪を、二五〇年前だかそんぐらい前に、どこぞの坊主が封印したところだからよぉ」
「大体江戸幕府が成立するごろか。なるほど」
「江戸を発展させるに当たってお祓いしたとでも言いたいわけ?」
両手に持った警棒を振るうレイカが聞き、コスモは「そゆことで~す」と軽く答えた。
その時だ。遠くからいくつもの足音が、地面を微かに揺らして近づいてくる。
「来たな!」
木々の間から姿を現したのは、刀を携えた男たち。すなわち、七王子千人同心の武士たちだった。
「一ノ瀬ーっ!!」
そう叫んだ男は勘十郎に「組頭!」と呼ばれた。
「きくは?」
心配を隠しきれない顔で、勘十郎は尋ねる。
「下の宿に保護してもらってる、一時的にな」
「ありがとうございます。増援、集めてくれたんですね」
「ああ。なんとか三〇〇人は集められたが……」
組頭は妖怪たちと戦うコスモたちの方を見た。彼の目は、やはり「信じられない」というのを物語っていた。
「おいらも、何が何だかですよ……ですがここは、一丁やってやりましょう」
「そうだな。化け物ごときに怯むほど千人同心は弱くない!」
その言葉で、武士たちの士気は最高潮に到達。雄叫びが山に響き、スピカの耳を刺激した。
「全く、五月蝿い男どもだ。やれ」
右手の指を鳴らす、と同時に千人同心の武士たちの方を指差すと、妖怪たちが束になって一斉に襲いかかった。
「いくぞぉ!!!」
武士たちも、闘志を全身に纏ってぶつかっていく。たちまち、辺りは乱戦となった。
この時、コスモは一つのことに気づいた。普段、ここではファンタジーワールド原作漫画のことを言うが、普段なら後方支援をしているはずのリゲルが、戦地に出ているのだ。
「リゲル! 何してんの危ないよ……って、ナニソレ?」
彼が持っていたのは、フィクションで宇宙人が持っていそうな、おもちゃにも見える光線銃だった。
「人呼んで『ghost-killing ray gun』だ。the underground cityでghost panicが起こった時にinventされたitemだ」
「なるほど。『ゴーストバスターズ』的なのね」
――――いや待てよ。あっちは捕獲だから、よく考えたら別物か。
七王子千人同心の武士たちにとって、提灯お化け、唐傘お化け、一つ目小僧、河童辺りは楽勝。刀の一振り二振り、マコトたちJNIA組に至っては拳銃一発二発で倒せる程度だった。
ろくろ首、鎌鼬、ぬりかべ辺りは少し苦戦した。絞められたり、切られたり、押し潰されたりしてしまい、戦線離脱を余儀なくされる者もいた。
これらとは別ベクトルで一際厄介だったのが、くだんと一反木綿のツートップ。未来予知で攻撃を回避するのと、空を飛ぶのの二つだ。「おじゃま虫」程度の認識で、倒すのを諦める武士がほとんどだった。
だが、そんなことを言っている場合ではない相手もいた。天狗、輪入道には全く歯が立たなかった。理由はただ一つ、常識外れに強かったから。その二大妖怪には、リゲルの光線銃さえも通用しなかった。
「よし。こいつらはprocrastinate、『後回し』だ」
彼がそう判断を下したその時。真上から、釘打ち機の発射口を向けたスピカが降ってきた。
「なっ……」
彼女はそのまま馬乗りになって、リゲルの眉間に発射口を突きつけた。
「バイス峠以来か、久しいな。地下都市の犬、忠犬、リゲル・ルゥア」
「youなんかにdog呼ばわりはされたくないな」
そのやり取りを、遠目にコスモは見ていた。
カナタは知っていた。リゲルとスピカ、二人の因縁について。
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かつて、二人はファンタジーワールド世界においての科学先進都市、通称『地下都市』にて、共に国家機密レベルの研究を任されていた。
だがある日、スピカが研究データや開発データを大量に盗み出そうとした。だが、それはリゲルに目撃されていた。彼は部屋の電気を点け、声をかけた。「何をしている?」と。それに彼女はこう答えた「スカウトが来た。私が、私のしたい研究ができる場所だ」と。
彼女は魔術を使い、彼の目の前からデータと共に一瞬で、消えた。
翌日より彼女は指名手配された。懸賞金もかけられた。だが、彼女が人前に姿を現したのは、それから三年後のことだった。
ここから先は、ファンタジーワールド原作本編の内容になる。もしアニメ化するのなら、第三期の序盤辺りだろうか。
大型魔獣の被害に遭って孤立した集落に物資を運ぶ、という任務を任された、リゲルを含むセルアたち六人。道中、バイス峠という山間の道を通るのだが、そこをスピカが襲撃した。戦いの最中、彼女は逃亡以降、自らが魔王軍に所属していたことを告げたのだ。
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――――俺は……ms.スピカが好きだった。はじめのうちはsimpleな同僚程度のrelationshipだった。だがgradually、かつてのherの物静かで、凛とした立ち姿に、気高い雰囲気に、惹かれていった。なのに、why? こんなことになってしまったのだろう。
ただ今は、発射口の先にある彼女の顔を見つめることしかできない。即座に抵抗しようという気は、なぜだか起きなかった。
「なにか言ったらどうだ? 私の目に向かって、さっき散々光線撃ってきただろ。お陰で今とても見えにくい。言うことの一つや二つ、あるだろう?」
「……nothingだな」
ニヤリと口角を上げながら言われたそれを聞いて、スピカはさらに発射口を強く押し付ける。
「ハッ。shootingしない癖に」
「――――そんな態度をとっていられるのも今のうちだぞ。じきに・・・」
刹那、コスモが飛ばされてきて、地面を勢いよく転がった。
「ほら見ろ」
彼女の冷たい声が、彼の焦りを加速させる。
「なぜnew formじゃない!?」
『カナタサマが『すぴーどもーど』でヨったせいですね。キュウケイチュウです』
「マジめに俺のせい……」
コスモは立ち上がる。目の前に立つ最強の妖怪、酒呑童子を倒すために。
酒呑童子の見た目は「鬼」、赤鬼そのものだ。威圧と恐怖を周囲に振り撒く真っ赤な顔と、巨大な図体。普通の鬼とは違う点を挙げるとすれば、古びた着物を大胆に着ていることだろうか。
「フォムチェンしよ」
コスモが取り出したのは、やはりフォームチェンジに必要な映画フィルム状のアイテム『バトルフィルム』。これは今までに見たことない色合いのものだ。
「バトルフィルム『フォーミュラ』セット!」
チェンジガンにセットし、手で回転させ、トリガーを引く。
すると、銀ピカのガード+を一度経由し、手足と胸にフォーミュラーカーのような意匠を見に纏った。
「さあ、行くぞ赤鬼!!」
だから彼は単なる赤鬼ではなく酒呑童子、日本三大妖怪の一角でもある酒呑童子である。
コスモが勇ましく突撃していったのと同時に、コスモはスピカの不意を打ち、鼻を殴って跳ね起きた。
「……っ……やってくれたな……」
「weaponを置け。fistでの、真剣competitionだ」
「面白い。乗った」
リゲルとスピカ、二人の因縁の決戦が、戦場に幕を開けた。
「うおおお!!」
一方のコスモは、右の拳の、フロントウイング状の武装で強く酒呑童子を殴り付ける。続けて即座に左の拳、また右の拳、左の拳、右の拳……と繰り返す。
酒呑童子も怯まず反撃。腕の一振は非常に重く、ガード+のアーマーでも内部に重い衝撃が伝わってきた。
「やるね。でも、これでどーだ!」
コスモはオーブリンク、からのスライド一〇回、と操作した。すなわち、単なる大技などではない、必殺技の合図。
『ショット・フィニッシュ・ショット・フィーバー!!!』
エネルギー弾着弾の後、酒呑童子の周りには爆炎が立ち上った。
「やったか?」は言わない。フラグになるからだ。だが実際のところ現実は、フラグ云々関係なく、悪いことはやっぱり起こる。
炎の中から、無傷の酒呑童子が出てきた。歌手がコンサートでリフトに乗って、ウィーンと上に上がるように、だ。
「……は?」
カナタも、まさかこんな風に出てくるとは思いもしていなかった。
しかもよく見てみれば、酒呑童子は骸骨の手の平に乗っているではないか。
「……え?」
その時、また地面が大きく揺れた。カナタの直下から、また何か来る。
「危ない!!」
センチネルが力強く、カナタを横から引っ張った。
新たな『何か』が出てきたのは、その直後、ほんとに直後、光の速さレベルで直後だった。
今度は、さっきの細々とした妖怪たちの渦とは打って変わり、一つの大きな妖怪だった。
カナタはそれを恐る恐る見上げた。
「なっ、が、が……」
月明かりに影が浮かぶ、大きな頭蓋骨、手、肋骨。
「がしゃどくろ……」
その場で戦っていた誰もが鍔迫り合いを止め、闇夜に佇むがしゃどくろを唖然と見つめた。
「うそ……でしょ……」
レイカも普段の落ち着きを失いかけていた。
「wow……mega skeletonはthis worldにも存在したのか……」
そんな彼らとは裏腹に、スピカは不適な笑みを浮かべていた。
「来たか! これで私は……!」
彼女は、どこからか取り出したデーモンコアを、天高く掲げた。
「勝ったも同然だ」
ブラックホールの如く、コアは周りで蠢く妖怪たちを吸収し始めた。
全ての妖怪を吸収し切ったコアは、くすんだ紫色に輝く。
「なにするつもり?!」
コスモが尋ねる。
「最強の怪物を作る」
スピカは大きく振りかぶって、がしゃどくろの手の平の上にいる酒呑童子めがけて、コアを全力で投げた。コアは見事酒呑童子の左肩に命中、にゅるりと埋め込まれた。まばゆい光を放つと同時に幾多もの妖怪が飛び出し、がしゃどくろに肉としてくっついていった。
「何を企んでいる……スピカ・ターヴォ!!」
センチネルが叫んだ。だが彼女に耳を傾ける気はさらさら無かった。目をかっ開いて、自らの研究の成果とも呼べる怪物が出来上がっていく様に釘付けだった。
そんな怪物に恐れ慄き、千人同心の武士たちは思わず逃げ出してしまった。
「おっ、おめぇら!」
勘十郎は逃げ走る組頭の腕を掴んで引き止めた。
勘弁してくれ、とも言いたそうな怯え顔で組頭は小刻みに首を横に振った。
「頼む一ノ瀬。あれはやべぇ、ここは撤退だ!」
「なっ……組頭、あなたそれでも武士ですか!」
「逃げるわけじゃねぇ。増援呼んで、体勢を立て直すんだ」
組頭は、勘十郎の手を引いて、その場から走って立ち去った。
戦場から武士たちが居なくなったのと時を同じくして、怪物はマコトやコスモたちの妨害も虚しく、完成してしまった。
全高は二五メートル前後だろうか。白にも灰色にも見える肉付きの良い図体の、そこかしこから妖怪の意匠が顔を見せている。
スピカはそんな怪物の頭上に飛び乗った。
「さあ出発だ、妖入道。歴史に、名を残してやろうじゃないか!」
妖入道は雄叫びを天に響かせた。
「全速前進」
その命令で、妖入道は右足を上げ、前に出した。足の着地点には、コスモたち。




