5-8 決闘
夜もとっくに更け切った時刻、高尾の山肌から大きく土煙が吹き上がった。
「ぐっ……」
どこか遠くから飛ばされて来たのだろう。タカトが変身するセンチネルは、地面に剣『コード・ブレイド』を突き立ててバランスを取りながら、着地の勢いを殺す。
彼の目線の先には、ゴニンコスモガード+のが不気味な雰囲気を醸し出しながら、構えて立っていた。
互いに走りだし、拳を交える。特にこれといった特徴のない、武術的でもない殴り合いが始まる。足も出たし、斬る、撃つもあった。
その折に、コスモはセンチネルに問いかける。
「でさ、一つ聞きたいんだけど」
「なんだ? 言ってみろ」
「タカトは、二〇二五年の一〇月一〇日以降から来てるんだよね?」
「如何にも。転送装置で過去へ旅立つ、お前たちを見かけたものでな。スピカ女史の発明した、時空間転移機能を持つ『鍵』とやらで追った。質問は、それだけか?」
――――やっぱ魔王軍と組んでたわけね……
「ううん。本題はこれから」
首を横に降ったコスモは小さく息を吐いて、問いかける。
「みんなを殺したことについて、どう思ってる?」
少しの沈黙が、二人の間に流れた。でも、センチネルの、タカトの答えは一つ。
「自らの仕事を、遂行したまでだ」
「……そっか」
コスモはチェンジガンに、バトルフィルム『レックス』をセットし、使用。すると、ガード+の装甲は一旦解除され、左腕は大きく膨れ上がり、拳は牙が銀に輝くティラノサウルスの頭部状になった。『アーマード・レックス』だ。
「絶対に許さない」
過去を変えれば、みんなの死の原因を根本から取り除けば、みんなは死なず、生きていることになる。故に、この復讐心に基づく行動は無意味。
そんなことは、カナタはとうに分かりきっていた。だが、抑えきれないのだ。目の前に日々を共にした想い人の命を奪った、言うならば仇がいる。許せない。とても許せたものじゃない。報復衝動が、抑えきれないのだ。
コスモの左の拳はタカトの右腕に噛みつき、スーツごと、アーマーごと食いちぎった。
血は流れない。機械だから。配線が、隠されたマシンガンが、露出するだけだ。
「はっ?」
「機械人間を、見くびるでない。武装なんざ、隠し放題だ」
刹那、一心不乱に弾丸が発射された。コスモは左肩に被弾。見てみると、着弾部が黒く焦げ、大きな穴ぼこのようになっていた。
――――これは何発も当たったらやばそ。
本能的にそう感じたコスモは、運良くすぐ後ろにあった岩に身を隠そうと動き出す。だがその際に背を向けてしまったためか、背中に五、六発被弾してしまった。うち一発はスーツを貫通、弾が帯びた熱が背中を焼いた。
「その程度で、隠れたつもりか?」
――――痛い痛い痛い……! あのサイズの傷をつけられるような弾丸となると……
「この程度の岩、すぐ壊せるんだろうな~……」
その時、チェンジャーのオーブがふわっと光った。ニコーラーだ。
『カイフクします!』
ニコーラーのその声と回復エフェクトのピコピコ音で、傷が少しずつながらも癒えゆく。
『それと、カナタサマ。こんなトキにとはオモいますが、"アレ"の調整がオわりました』
「――――ナイスタイミング、ニコーラー」
そこから一分近く経っただろうか、全くといって言いほど戦場に動きはない。
「降参のつもりならば、出てこい。痛みなく、逝かせてやる」
そう言っても、返事どころか物音一つ聞こえては来ない。
「――――よし、今から三つ数える。それまでに、出てこい。……一つ。……二つ。……三つ」
センチネルは岩の中心めがけて弾丸を高速で打ち込む。五秒も経ちきらないうちに、岩は粉砕された。
とその時、砕けた岩の破片を押し退けて、コスモが超高速で飛び出してきた。その様はまるで突風のような、一本の白い光の線だった。
「なっ……」
次の瞬間にはもう、光はセンチネルの目と鼻の先まで達していた。このまま正面衝突……かと思いきや、強烈な力の作用が、センチネルの頭部に加えられた。頭と体がそれに耐えきれず、地面に倒れた彼が見たもの。
それは金色の、異様なほどスラッとしたコスモだった。背中から伸びた、白いヒラヒラもなびいている。
「なんだ、お前」
「……『スピード+』。新フォームだよ」
『ゴニンコスモ:スピード+』は、その名が示す通り、ガード+とは対をなすスピード特化型の強化フォームである。昨日朝から満を持しての登場に、カナタも期待を寄せている。
「ほう……ほう。これは、殺しがいがある、ものだ。かかってこい、罪人めが」
**********
七王子城跡の裏山、現代では七王子西中学校が作られている場所に、リゲル、マコト、レイカの三人は急行した。もうスピカが来ていてもおかしくない頃だ。
「maybeこっちだ! hurry up!」
木々の間を縫うように、積もり始めた枯れ葉の音を鳴らしながら、地面を確かに蹴って走る。
するといずれ見えてくる。月明かりが差し込む、広く開けた場所が。
「あの髪色は……!」
マコトとレイカには思い当たりがあった。「勉強」と称してファンタジーワールドを一気見した時に、出番が少ないながらも随分と印象的だった、女科学者の敵幹部。
「yes……。herこそが、スピカ・ターヴォだ」
……待て、何かがおかしい。彼女はとっくに気付いているはずだが、こちらを向かない。それどころか、何かと話し込んでいる様子だった。
翼のついた、推定二メートルあるかないかの「何か」。それは、いつかの戦いで動員されていた、ウイングデーモントルーパーだった。
「ありがとう……で、貴様らはどうするつもりだ?」
スピカはリゲルたちに向かって問いかける。花柄の着物を来たきくの頭に、釘打ち機を突き付けながら。
「人質を前にして」
と、彼女は不適な笑みを浮かべた。
その時だ。リゲルたちの背後から「きく!」と、男の声がした。
振り返ると、そこには刀を携えて鎧を着た勘十郎がいた。
「どうしてここに?」
レイカが尋ねる。
「家に戻ったら、きくが空飛ぶ妖怪に連れ去られちまって、追っかけてみたらこの状況だ。んで、釘原さん。こいつぁ、どういう状況だ?」
「あの女はここで大量殺戮の準備をしています。それを防ぐのが我々の役目なのですが……彼女はそれ対策の人質のようです」
「人質たぁ、なんて卑怯なやり方だ……」
勘十郎の顔がどんどん怒りに満ちていくのが、暗がりながらも分かる。
「とりあえず、mr.一ノ瀬はdescending the mountainして、サムライのfellowをbringしてきてくれ」
幕末の日本人に英語がわかるものか。勘十郎は何も理解できず、固まっている。
「山を下りて、千人同心の仲間を連れてきてください。緊急事態です」
多言語に精通したレイカが助け船を出し、それを勘十郎も飲み込んだ。
「おう、分かった!」
そう言って、彼は来た道を全速力で戻っていった。
スピカと三人の間で、緊張が伝播し、反復する。ぐりぐりと発射口が人質の頭に押し付けられている以上、無茶な手出しは、できない。
できるのは、ただ構えて応援を待つことと、人質救出の作戦を練ることだけだ。
**********
スピード+に変身したコスモは、その圧倒的なスピードでセンチネルを翻弄し、追い詰めていた。
「やるでは、ないか」
「まあね」
――――ギアチェン。
心の中でそう念じることで、コスモのスピードはもう一段階上がる。
センチネルも「ここだ」というタイミングで剣を振ったり、右腕のマシンガンを撃ったりししているが、コスモがスピード+にフォームチェンジしてからというもの、かすりもしていない。
「なかなかやるものだな」
センチネルは距離の空いたコスモにそう言い放って、再びマシンガンを乱射する。
だがコスモはそれをものともせず、動く瞬間すら見せず、センチネルに接近。超高速のパンチを顔面に向けてお見舞いしようとしたが、まさかの左腕で防がれ、はね除けられてしまう。その勢いでコスモは後ろに飛んだものの、上手いこと着地。
パンチを受けた箇所のアーマーは、バチチと電気音を立てて割れ、ヘコんでいた。
「ふむ」
コスモの方も諦めることなく、果敢に攻撃を繰り返す。
「今までも、処刑対象となった人物には毎回、何度も抵抗された。だがここまでのものは、ここまで手こずるほどのものは、初めてだ。……私も質問させてもらう。なぜお前は、強い。なぜお前のような奴等は、罪を犯してなお、生き続けようとするのだ。理解が、できない」
「分かってないよ……」
次の瞬間、コスモはセンチネルの持つ剣を天高く蹴り飛ばし、そのまま彼を押し倒した。
冷たい夜風が、シャツに傷痕から漏れ出た血がいくつも滲む背中を、スーツ越しに刺激する。
カナタは荒ぶる息を整え、これまでの感情を全て乗せて口を開く。
「お前は……分かってない、知らないんだよ。本当の『悪』が誰なのか、なんなのか! 目ぇ、いい加減覚ませよ!! 俺の話も……ちょっとくらい聞けよ!!!」
「分かってない」「話を聞け」その言葉に、タカトは思考回路に電流が走ったような感覚を覚えた。
――――なんだ、この感覚。
『全く、お前は分かってねぇなぁ』
父親のような、たくましい男を前にした情景。
『人の話は最後まで聞くものよ』
母親のような、優しくも厳しい女を前にした情景。
この二つが、立て続けにタカトの脳裏にパッと浮かび、脳裏にこびりついて離れない。
「私の頭脳に……何をした……」
センチネルが尋ねるが、カナタはきょとんとした顔で「えっ」と呟いた。
「俺、なんかしたかな?」
「とぼっ……けるな……ぁ」
視界が、カメラが歪む。バグの自己対処プログラムが作動する。だが次の瞬間に表示された『NO SIGNAL』。




