5-6 忍者vsパワードスーツ
江戸時代、とりわけ農民の朝は早い。薄明の空の内から、囲炉裏の側には人数分の箱膳に入った朝飯が用意されていた。
雑穀飯と、味噌汁と、漬け物。この時代だとこれが朝飯のスタンダードらしい。
布団と床で眠っていた現代人四人も、出汁の香りで目を覚まし、すぐさま箱膳の前についた。
「あっ、一ノ瀬さんって千人同心だったんですね!」
カナタがそう言ったのは、朝飯を食べ初めて少しが経った頃、雑談の折でだ。マコトが勘十郎に仕事の事を尋ねて、返ってきた答えが『それ』だったのだ。
「what's the センニンドウシン?」
味噌汁を口にしかけていたリゲルが尋ねた。
「『七王子千人同心』。主に日光東照宮ってお寺の火の番とか、甲州街道の警備とか、あとは今で言う北海道の開拓とかをしてた、幕府直属の武士団のことだよ。普段は農業をしてて、何かあったら武士になる。って人たち」
「お前はよく知ってるなぁ。その通りだよ」
カナタの口からスラスラでた返答に、勘十郎は感心の様子。
「歴史博物館で勉強したんで、何年か前に」
それからも六人は黙々と朝飯を食べ進める。
「そちらの金髪の方は、どちらの出身で?」
きくが尋ねた。
「地下都市! the under ground city、さ」
「彼の言うことは深く捉えないでもらっても構わんぞ」
レイカが言った。
その裏で、リゲルがカナタに耳打ちをする。
「todayのmidnight、futureにyouのschoolがbuildさせる場所に行く、でどうだ?」
「ん、おっけ。釘原さんたちにも後で共有しとく」
**********
朝飯を食べ終えた頃には、太陽が空の低い位置で顔を見せていた。
六人はというと、佳境に入ってきた一ノ瀬家の田んぼの稲刈りを手伝っていた。
「――――ふぅ。疲れるなぁ、稲刈りって」
幕末でも、今は丁度秋、神無月の中頃だ。まだ涼しい時間かつ涼しくなってきた季節とはいえ、中腰での作業は疲れるものだ。
右手で鎌を持ち、稲を根の少し上辺りから刈っていく。
刈った稲は近くに積んでおいて、きくかレイカが回収してくれるのを待つ。
「昼前には終わりそうだから、昼からは脱穀の手伝いを頼むぞ!」
刈った稲を括り、『はざ』にかけて乾燥させる作業をしていた勘十郎が、そう大きな声で言った。
「はーい」と、マコトが返事をした。
「……ん?」
刈られた稲を回収していたレイカは、田んぼの近くに怪しげな人物が立っているのが見えた。その人物は、とても江戸時代にはそぐわない黒のレザージャケットを身に付けていた。ただ顔だけは、笠で隠れていた。
「釘原。あいつ、何者だと思う?」
「……見るからに現代人だな。江戸時代に革ジャンなんて無いだろ」
「だな。話しかけてくる」
「いや、ここは俺が」
そうレイカを制して、マコトは謎の人物のところへ歩み寄る。
「すみません。あなたってもしかして……」
仮に、その人物が現代人だった場合、超常現象対策課の身としては見逃せない事態だ。別にタイムパトロールを気取りたい訳ではない。純粋に、野生のタイムトラベラーに心を踊らせているだけだ。
マコトが徐々に近づく中、彼は組んでいた腕をほどき、口を開いた。
「あぁ。別に、只の処刑人だ」
笠からはみ出て見える、ミントグリーン色の髪。
少し前にカナタから伝えられていた要注意人物、刃那伊地タカトこと『TK-001』という機械人間の特徴と合致していた。何より、彼の口から飛び出た「処刑人」という言葉。
「貴様は……ッ」
タカトは自前の剣をマコトの腹に突き立てた。が、マコトは上半身を思い切り剃らして回避。そのまま後ろに手をついて、つま先を振り上げて剣を蹴りあげ、バク転で距離を取った。
「勘十郎さん! きくさん! 逃げてください、剣を所持した不審者です!!」
――――クソッ。『刀』は今家の中だ……!
と、そこにチェンジャーを装備したカナタが合流した。
「ここは任せても構わないか?」
「うん」
タカトは目を手で覆って、あざ笑うように笑い。
「やはり立ちはだかるのはお前か。だが貴様はもう、私には到底適うまい」
タカトは剣で操作をし、戦士CODE:センチネルに変身を完了した。
「俺も新しい力、ゲットしたから」
それに対抗するように、カナタもゴニンコスモガード+に変身を完了した。
重い腕を振り上げて、センチネルを叩き潰さんと振り下ろす。
「図体が大きいだけあって、鈍いな」
後ろ向きに跳んで避けたセンチネルは呟く。
「殺しに来たんだよね?」
「言わずもがな」
「……悪いけど、いやそう言うのはおかしいな」
彼のメットの奥で淀んだ瞳に静かな殺意が宿し、その先の言葉を言うのは、やっぱり止めた。
その代わりと言ってはなんだが、コスモは大きく飛び上がり、全重量をかけてセンチネルにうつ伏せでのしかかった。
「やれては……やっぱりないか」
刹那、コスモは下からの大きな力に腹を抉られるような感覚を覚えた。彼は瞬く間に吹き飛ばされ、地面を数メートル転がる。
次に顔を上げて目に飛び込んで来たのは、普段の赤黒いセンチネルとは対照的な、紫と緑に光る人影。
『ニンジャ・サイバー』
そんな低くおどろおどろしい声が、どこからともなく聞こえたような気がした。
センチネルの姿は『ニンジャ・サイバー』の名に相応しいスーツになっていた。
「フォームチェンジするんかい……そっちがその気なら、バトルフィルム『ガンマン』、セット!」
チェンジガンの劇鉄部分から飛び出したパーツに映画の丸いフィルムのようなアイテムをセットし、手動で回転させる。そこからトリガーを引けば、コスモも西部劇のガンマンをイメージしたような『アーマード・ガンマン』にフォームチェンジだ。
そしてもちろん、ガンマンに欠かせないのが両手のリボルバーだ。
銃口をセンチネルに向け、右のリボルバー、左のリボルバー、右のリボルバー、と、交互に素早く発砲する。
しかし、センチネルは「ハッ、ハッ」と声を出して、短刀で弾丸を弾き防ぐ。
その時だった。
「なんだぁ?」
と、近くにあった納屋の陰から一ノ瀬家の近所に住む農夫が顔を覗かせた。
「やっべ見られた!」
カナタの判断は一瞬だった。リボルバーを投げ捨て、センチネルに捨て身で抱き着く。
「何……」
「ニコーラー! 足ジェット!!」
『そんなナマエじゃありませんが、はい!』
コスモの足裏にエネルギーが籠められ、次の瞬間には地面を強大な力で蹴り飛ばされ、二人は天高く飛んで行った。
「なんだったんだぁ?」
**********
二人が着地したのは、昨晩スピカとタカトが『扉』で転移してきた山の一角だった。
二人は戦闘を再開する。さっき投げ捨てたはずのリボルバーも再召喚され、適当に距離を取って銃撃。対するセンチネルは木々の間を、忍者お得意の潜伏術で駆け回りつつ、手裏剣を投げてくる。そのせいで中々命中してくれないし、手裏剣を避けているせいで照準が合わせづらい。
だが、ある時を境に手裏剣も足音も消えてしまった。
「あれ?」
カナタは森の中を、奇襲とまきびしにだけ注意を払ってセンチネルを捜索する。だが、一向に見つかる気配がない。
「どこー?!」
痺れを切らして大声で叫ぶ。だが帰ってくるのは、葉を揺らして森を抜ける風の音だけ。
――――逃げた?
結論から先に言うと、コスモとセンチネルが再び相対することはなかった。
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とうとう諦めたカナタは変身を解除し、山を下り、一時間弱をかけて一ノ瀬家の田んぼまで戻ってきた。だが、その場には誰もいなかった。その代わり、一ノ瀬家の周りには人だかりができていた。
「なんだろ」
カナタは人だかりをかき分けて、一ノ瀬家の中に入り込む。そこには、「御用」と書かれた提灯と十手を手にした三人の男がいた。
「岡っ引……みんな、なにしたの?」
カナタの視線の先には、両腕を後ろで縛られたリゲル、マコト、レイカの三人がいた。
「帰ってきてしまった、か」と、レイカは呟いた。
岡っ引の男はカナタを睨みながら歩み寄る。
「未来人を名乗っている者だな」
「え? まあ、そう言われればそうですけど」
刹那、カナタは岡っ引の男二人に飛び掛かられ、取り押さえられた。
「確保ォーッ!!」
――――えっ? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!




