4-9 体育祭午前の部②
大縄跳び、ハチマキ・バトルロワイアル、五人六脚を経た、七王子西中学校の体育祭。
現在の総合順位は、
一位:赤団(一組)
二位:黄団(三組)
三位:緑団(四組)
四位:紫団(五組)
五位:白団(六組)
六位:青団(二組)
となっている。
次の競技は、二年生の学年競技『台風の目』。一本の棒を三人で持って、二つのコーンの周りを回ってスタート地点まで戻る、というものだ。
黄団、もとい三組の最初の組は、くじ引きの結果、向かって右側から、石川ケイマ、神島ビスケ、東マサルとなった。
「……うぅ……僕、大丈夫かな……?」
「大丈夫大丈夫。隣の赤団のやつ、一年生の時に一緒だったけど、足は速くないから。勝てるって」
「はいぃ……」
それでもやっぱり不安の抜けないマサル。そんなこともつゆ知らず、号砲は鳴らされる。
地面を蹴って最高速度で進む黄団、というよりビスケ。他のチームと大きな差をつけてスタートすることができた彼らは、まず一個目のコーンを右回りで一週。また走りだし、二個目のコーンを左回りに一週。マサルの決死の支えのおかげで、回転はスムーズだった。
ゴール兼スタート地点に戻ってきたからとはいえ、まだ終わりではない。端の二人で棒を持ち、待機列の人たちの頭上を通り、足の下も通す。最前に戻ってきて、ようやく次の組のスタートだ。
「三人とも頼むよ!」
「頑張ってください……!」
続く組は、向かって右側から春晴カナタ、遠藤ヒデキ、寿イオリとなっている。
「おう、任せろ」
先程のビスケたちとほぼ同じスピードでスタートを切ったイオリたち。
――――他のチームは今ゴールした辺り。差は完璧、勝てるよこれ!
早速一個目のコーン。重要な支えのポジションにいたのは、今なお体力面に不安の残るカナタだった。
「ぐうっ……」
腕の筋肉がはち切れそうになっても、なんとか耐えて回る。
この時点ですでにクタクタになってしまったが、コースはまだ半分以上あるわけだ。続く二個目のコーン、一個目のコーンとは回る方向が逆なので、必然的にカナタは外側になる。
「しっかり掴まっていろ春晴!」
「うん!」
しかし、カナタの体重と体感力では、遠心力には勝てなかった。
「うわぁ~」
回転と同時に、彼の体はふわりと宙に浮いた。飛んでいってしまわないように、がっちりと棒にしがみついて耐える。
だがこのままというわけには行かない。回転が終われば、膝から地面に胴体着陸してしまう。
――――立てっ、足!
なんとか地面に足をつけ、再び走り出すことができた。足が、普段のカナタではあり得ないスピードで動いていることを感じる。
ゴールまで近づいて、最後の大仕事。高身長のイオリに合わせて背伸びをして棒を持ち上げる。
前まで戻したら、カナタたちの出番はこれで終わり。列の最後尾後に並び座って、大きく息を吐き、大きく息を吸う。そうして呼吸を整え、落ち着く。
それからも競技は続き、男子の部が終わると女子にバトンタッチ。それも終わると、運命の順位発表。この目で見て分かりきったものとはいえ、ドキドキはするものだ。
《結果》
一位:緑団
二位:黄団
三位:白団
四位:赤団
五位:青団
六位:紫団
と、なった。
**********
「惜しかったなぁ」
まだ息の上がっているカナタが言った。
「四組に陸上部のエースいんの忘れてたわ」
「な」
その時、アナウンスが鳴った。カナタとエイタとビスケの三人は耳を傾ける。
『玉入れに出場する生徒は、入場門に集まってください』とのこと。
「行こっか」
「だな」
「そういや俺三連戦じゃん」
「確かに。あ、タカトのこと忘れてた。タカト行くよー、玉入れ」
「――――いなくね?」
今日は来ているはずの刃那伊地タカト。しかし黄団のテントの中には居なかった。
「先に行ってるんじゃないの」
「かな。つるむような他クラスの人もいないだろうし」
気を取り直して、三人は入場門に向かった。
**********
体育祭競技の四天王を挙げるとすれば、それはリレー、綱引き、組体操、玉入れではなかろうか。
今、その内の一つである玉入れが始まろうとしている。一部魔改造されて。
『それではこれより、玉入れ第一ラウンドを開始します。よーい』
パン、と号砲が鳴らされた。
白線の外側に待機していた出場生徒たちは、猛ダッシュで自分の団の色のカラーボールを広いに行き、それを籠に投げ入れる。ただ投げるだけではダメだ。籠は非常に高い位置にあり、そのために投げる角度や勢いを考えなければならない。
しかし、カナタはそれらを考えることはできても、投げるための体力は無い。先程の『台風の目』での消耗もあれば尚更だ。
そのため、彼は補球係に徹することにした。
「はい、持ってきたよ」
両手いっぱいに黄色のカラーボールを持ったカナタは、まずはタカトの所へ。
「助かる。貴様も役に立つのだな」
「それほどでも~。はい」
一球投げ終わったところで、すかさず玉を手渡す。
「ほっ」
また手渡す。
「じゃんじゃん」
「わんこそばか」
すぐとなりにいたエイタから鋭いツッコミが飛んできた。
「ふざけるのなら、今すぐこの場を戦場に変えてもいいのだぞ」
「ひぇっ。勘弁勘弁」
そのタカトの言葉を目にしたエイタはこう思う。
――――中二病なん?
制限時間の三分はあっという間だった。集計は、玉を空高くに投げながら行われた。
《第一ラウンド 結果》
一位:紫団
二位タイ:赤団
二位タイ:青団
三位:黄団
四位:白団
五位:緑団
「なるほどね……」
「次だ次。第二ラウンドで巻き返そうぜ」
「だね」
続く第二ラウンドでは、籠が「逃げる」。それを追いかけて、各チーム指定の籠に投げ入れる。
パン、二度目の号砲で第二ラウンドは幕を開ける。
それと同時に、籠を背負った生徒は全力疾走。彼らと対極の位置になるように配置された「玉を投げる側」の生徒たちも駆け出す。
「前後左右から挟み込もう!」
道中の玉を拾いながらカナタが叫ぶ。
それに応えるように「ああ!」「おう!」「うん!」という言葉が、黄団のあちこちから上がった。と、同時に籠役は「そうはいくものか!」という顔を浮かべた。彼自身、玉を入れさせたいのは山々なのだが、与えられた役割は役割だ。全力で、逃げるのみ。
痛む足と上がる息を最大限無視し、肉体に鞭打って食らいつく。籠役に自分の最大限近づいて、以前ビスケに教わった通り、ふんわりと投げてみる。もちろん弾道を計算した上で。
――――よし、これは……入る!!
確信の瞬間、玉は籠の真ん中めがけて飛び込んだ。
「っしゃ!」
すかさずガッツポーズ。
他のチームを見回しても、なかなか苦戦しているようだ。だが、黄団は別。四方攻め作戦のお陰で、既に五点近くを稼げていた。
「この調子で行こっ」
カナタは玉を拾いながら籠を追いかけるのを再開した。さらに点数を稼ぐために。
しかし、それを良しとしない者がいた。彼女は、カナタの進行方向に割り込んだ。白いポニーテールを揺らしながら。
「ちょいチハヤ! どいてよ!」
「やーだよっ。運動でカナタに勝たれるのは、なーんか癪なんだよね~」
「癪って……ならこっちも負けてらんないや」
「ははっ。かかってこ~い!!」
本来の目的そっちのけで、二人の戦いが始まった。カナタの進路を妨害しながら走るチハヤと、チハヤを追いかけて走るカナタ。どちらが原因なのかが分からなくなってきたところで、イオリがカナタの肩をガシッと掴んだ。
「春晴。お前が追っかけるべきものは何か、言ってみろ……!」
苛立ちを限界まで隠しているようだが、抑えきれていない顔で問う。
「籠です。ハイ」
その時、チハヤはイオリの背後から、カナタに見えるように変顔で挑発した。
――――あいつぅ……!!!
「冬雪さん、だっけか? 君も競技に集中したまえ。そんな顔をしている暇があったらなぁ!!」
「へひっ……」
「あと一分半ある。お互い、正々堂々競い合おうじゃないか」
そう言い残してイオリは競技に戻っていった。
二人の間に無言の時間が流れる。
それを壊すようにチハヤは息を吸って、「よいドーン!!!」と叫んで走り出した。
「待っ……いやいやいや」
――――俺が狙うべきは、籠!
チハヤのことは一旦忘れ、籠のいる方向を向いて走り出す。
籠にもう一度近づき、位置や角度をざっくり計算して、今度は三つの玉を連続して投げた。
結果は成功。意外にも「えーいっ」といった気持ちで投げたので、嬉しさは倍増だ。
「この調子で行こう」
玉を拾っては、投げる。勿論入らないこともある。しかしそれを気にする前に次の玉を拾って投げる。
そうして気づいた頃には、終わりの号砲がグラウンドに響き渡っていた。
集計、及び結果発表の時間だ。先の第一ラウンドと同じようにして、籠に入った玉が空高くに放り投げられながら数えられてゆく。
《第二ラウンド 結果》
一位:黄団
二位:青団
三位:白団
四位:紫団
五位:赤団
六位:緑団
**********
「念願の一位、やったな!」
テントに戻る途中でエイタがそう話しかけた。
「な! やっぱり……俺のおかげ? 一番投げ入れたと俺は思ってる」
「えぇ? 幼馴染ちゃんと遊んでたのに?」
ビスケがうっすら笑いながら言った。
「――――まあまあまあ。……で、次の競技何だっけ?」
「何だったかな……あ! こんなところに野生の競技表が!」
エイタが指さしたのは、本部テントの柱に貼ってあった『競技進行予定表』だった。
「どれどれ……ほぉ、三年生の学年競技だってさ。綱引き」
「あー綱引きか。王道来たな」
「別に今までも王道じゃね? ハチマキ・バトルロワイアル以外」
その時、グラウンドの方から大勢の足音が聞こえてきた。
「あっ、もうすぐ始まる。見よ見よ」
三人は職員用テントの隙間から、先輩の綱引きを観戦することに決めた。
それが終われば、体育祭は昼休憩に入る。
《総合順位 午前の部終了時点》
一位:紫団
二位:黄団
三位:赤団
四位:緑団
五位:青団
六位:白団




