4-8 体育祭午前の部①
ついにやってきた体育祭の当日。現在はその朝だ。
春晴家には、慌ただしい足音がいくつも鳴っている。
「おはよ! ご飯!」
その足音の一つ、体操服姿の春晴カナタはダイニングテーブルの椅子に滑り込んだ。
「はいはい。できてるわよ」
彼のもとにトーストが置かれたと同時に、マキナがダイニングと廊下を繋ぐアーチから顔を覗かせた。
「サユコさん、『びでおかめら』ってどこにあります? タイチさんに探すよう言われてて」
「ビデオカメラ? えーと、どこだったかしらねぇ……」
「父さんの部屋のウォークインクローゼットの中にあったのを、この前見たよ」
『ワタシもミてます!』
ニコーラーの声と同時に、カナタはトーストをかじる。口の中に広がるのはいつもと同じ、バターの塩味だ。
「分かった。見てみるわ」
とたとたという可愛らしくて軽い足音が、再び廊下に反響した。
「そういやセルアは? 起きてから見てないけど」
「バイトなんだって。商品たくさんが届いたらしくて、その準備って言ってたわよ。それで、今日は何時出発の予定?」
自分用の麦茶をコップに注いで、サユコも椅子に座る。
「いつも通り、八時には出るよ」
『あの、イマがそのジコクですが?』
「マジ?」と呟いてスマホで時間を確認する。ニコーラーの言った通り、やはり八時ジャストだった。
「早っ。もうこんな時間~」
残りのトーストを口に詰め込み、リビングのソファに置いていた通学リュックを手にとって、急いでリビングを出ていった。
「気をつけるのよー」
「んー!」
直後に、玄関のドアが開く重い音がした。
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自転車を飛ばして、学校に定刻通りに到着したカナタ。教室に入ると、既にクラスメイトたちのほとんどが集まっていた。普段は遅刻してくるような人も、転校して以来、昨日まで学校を休んでいた彼も。
「タカト、今まで何してたの?」
「すまない。諸用でな」
「ふーん」
「ハチマキが机の中に入っている。つけるといい」
「ん? あ、ほんとだ」
机の中に手を伸ばしてハチマキを取ると、サッと頭に巻いた。
「どう?」
「どうでもいい」
その時、タイミングよく登校してきたエイタ、ビスケと駄弁り、朝のHRを終え、また駄弁っていれば、いつの間にか開会式も目前の時間になっていた。
「やべ~、もうすぐ始まるんだな」
校舎からグラウンドに向かう道中に、エイタはカナタにそう話しかけた。
「ね。この日のために積み上げてきた練習……! 絶対勝とっ」
「おう」
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いくつものテントと保護者のカメラが並び、見慣れた白線にも特別感を抱くグラウンド。
団、学年ごとに整列した生徒たちの前のお立ち台に校長が現れれば、開会式が始まる。
でも開会式の様子をたらたら書いたって、みんな見ないでしょ。よって、カット。
開会式を終えた生徒たちは、各自の団のテントに戻る。無論、それはカナタたちも例外ではない。
「――――ふう。あ、エイタエイタ」
ハチマキを巻きなおしていたカナタは、入場門の方へ歩いていくエイタを呼び止めた。
「どうした?」
「これから競技だよね。釜井くんが休んで、回されて」
「そうなんだよ。練習も無気力そうだったし、迷惑なやつだよな」
「ん~、まあ……まぁまぁ、頑張って!」
「おう! そういや、ビスケも変わるんだってよ。五人六脚に」
「えービスケも?! 玉入れ俺一人は心細いなぁ」
「大丈夫だって。カナタも、頑張れよ」
「頑張る。いってらっしゃい!」
「おう!」
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『大縄跳び』……その名の通り、巨大な縄跳びを大人数で跳ぶ、チームワークが大切な競技だ。
この七王子西中学校の体育祭においては、「何回跳べたか」「どこが多く跳べたか」の基準のもと、全三ラウンドで勝敗を決定する。
ちなみに、カナタたちの所属する二年三組からは、エイタの他にも佐藤アカネと石川ケイマが出場した。
『いち! に!』と声を張って、ペースを合わせてタイミングよくジャンプする。途中で引っかかったってノープロブレム。制限時間五分のうちならば何回でもやり直せる。
負けられない、負けてたまるかという気持ちを反復させ続けて、跳び続ける。疲れたって跳び続ける、だって勝ちたいのだから。
引っかかってしまってもあきらめず、がむしゃらにロープに噛みつく。
しかし、意気は意気、結果は結果。六チーム中で三位という微妙なところに終わった。
「くっそー。もう少しで二位行けたんだけどなあー」
悔しそうな顔に汗を受かべながら団のテントで休むエイタに、カナタは彼の水筒とタオルを差し出した。
「お疲れ様」
「あーサンキュー」
水筒の水を流し込み、「次何だっけ」と目の前のカナタに聞く。
「一年生の学年競技」
「あー! あれか。『ハチマキ・バトルロワイアル』。懐かしいな」
「ハチマキバトルロワイアルとはなんじゃいな」
「ああビスケ。転校してきたのが体育祭の直後だから知らないよね」
「転校してきたとはいえ一学期だったから」
「あー、去年は文化祭と体育祭、やる時期逆だったよな」
「んね。で『ハチマキ・バトルロワイアル』ってのは、一年の生徒全員が一斉に出るやつで、やることは敵のハチマキを取るだけ。取られたほうは脱落。混戦具合がなんとも面白いんだよ」
「へ~。俺もやってみたかった」
「はは。あ、もう始まるよ」
「おっ。見ようぜ見ようぜ」
こちらの結果は振るわず、順位は五位となった。
その直後に始まった、ビスケの出場する『五人六脚』。
五人の足を特別なバンドで結んで、よーい、パン。
『いち! に! いち! に!』と声を合わせて、一歩ずつ前に確実に動かす。練習の時には何度も外れてしまったバンドも、この日はがっちり繋がっていた。
往復五〇メートルと少しのコースも、断トツの一位を維持して折り返し地点のコーン目前のところまで来た。
――――このままゴールへ……!
しかし、ハプニングは起こる。
「あっ、バンドが!」
例に漏れずと言うべきだろうか、足と足を繋ぐバンドが取れてしまった。
「直そう」
イオリとビスケを繋ぐ部分だったこともあり、イオリがかがんで対応にあたる。
そうしている間にも、他のチームは追い上げてくる。
「イオリやばいって」
「分かっている! だから急かすな」
結んで、結んで、ギュッ。
「これでもう取れる心配はないだろう」
――――追い上げられたか。
「ペースを上げる。いいな?」
「おう!」
再び歩みを進める彼ら。目の前にライバルの姿は無い。あるのはゴールただ一つ。
『いち! に! いち! に! いち!! に!!!』
ついにゴールの白線を越えた。ハイタッチでゴール、次の五人のスタートとなっているので、それを忘れずに行えば、晴れてゴールだ。
さて、この『五人六脚』の順位は、なんと堂々の一位。総合順位も二位にまで追いついた。
「お疲れ! ビスケにイオリ。一言いい? ナイス一位!」
「俺もナイス一位!」
カナタとエイタ、二人の笑顔の「グッド」をビスケもお返しした。イオリも、親指を立てた右手をコツンと二人の拳に優しく当てた。
さて、次の競技は二年生競技の『台風の目』だ。体育祭は、まだまだ続く。
キャラクター全員を活躍させたいんだけどね




