7-18 驚異のロボット召喚 〜クリスマスの勇者オメガタイタン〜
気がつくと、二人はオメガタイタンの操縦席にいた。頭部、目の中だろう。外には巨大サンタクロースデーモンがいる。待ってくれているのか、はたまた不具合か、動いてはいない。
「じゃあ、私は右に乗るから。カナタは左ね」
「おっけ」
椅子は硬かった、乗り心地もクソもないほど。二人は操縦桿を握る。ペダルもあり、遊園地のゴーカートのような感覚だ。
「じゃあ行くよ」
『せーの!』
二人は同時にアクセルペダルを踏む。左右同時に足が前に出る、ということはなく、まず右足、次点で左足、とちゃんと前に進み続けた。
オメガタイタンの動きに反応したのか、巨大サンタクロースも後退りして距離を取る。
その時、前方に二コーラーが現れた。
「わあっ! ビビったぁ。何の用?」
『シンニュウセイコウです。カナタサマとマキナサマのシジのみで、このろぼっとはウゴかせるようになりました!』
「えーいきなりお役御免みたいじゃん」
「私が乗る意味、あった?」
『まあまあまあ。ナゼだか、ワタシのドクダンじゃウゴかせないんで・・・』
カナタが遮って、
「バリア展開!」
『はいっ!!』
サンタクロースの拳は、普段コスモが展開しているバリアと同タイプのバリアによって防がれた。
『ってなわけで、サイゴまでよろしくおネガいします!』
巨大戦が幕を開けた。だが、生活道路で暴れ回るのはあまりにも危険すぎる。オメガタイタンはサンタクロースを持ち上げ、近くの高校のグラウンドに、プロレス技のオクラホマ・スタンピードで叩き込んだ。
高いフェンスと校舎が囲む、町中のリング。
「試合開始……!」
心の奥でゴングは鳴った。
「いってみよう! 百裂スパイクパンチ!!」
『はーい!』
繰り出されるは目にも止まらぬパンチの嵐。拳は技名の通りスパイクだ、これは痛い。
「えーっと……flamma/炎 !」
『マジュツはナいのでこっちで!』
今度は大外刈からの、全身に張り巡らされた電熱線を用いてのアツアツボディプレス。着実に追い詰めることができている。
だが、サンタクロースも一筋縄ではいかない。再びレーザー、液状化、重力操作を総動員して対抗してくる。
だが、そこに、彼らは現れる。グラウンドの一角を切り取ったような浮島に乗って。
「微力ながら協力させてもらいます!」
「助太刀しよう」
「イッスンボーシ大作戦だ!!」
「小さいから、とて、侮るな、よ」
彼らはオメガタイタンの肩辺りに掴まって、サンタクロース側に渡れるタイミングを見計らう。
「俺らが気を使うにしても限界があるから、そっちで巻き込まれないように注意してね!」
カナタの声が、耳裏のスピーカーから響く。
「Tonitrus fremat/雷よ鳴り響け」
マキナの操縦席での詠唱は、二コーラーによって適宜オメガタイタンの持ち合わせている技に置き換えられる。この場合、目からのサンダービームだ。
ビームと言えば、サンタクロースも負けず劣らずだ。ただ、巨大化してからは遠距離でのビーム攻撃だけでなく、近距離での『背中から生える無数の手』によるパンチ攻撃も行われる。基本的に、避けきれることはない。抱きしめられて圧殺されてないことが、不幸中の幸いだろうか。
「……そうだ。二コーラー! ライトセーバー出して!」
『ラ……あー、ふらっしゅトウのことですね』
「そうそれフラッシュ刀」
オメガタイタンの背中から、青く光る蛍光灯のような、短刀が出てきた。逆手で用いて、間合いを詰める。刃がサンタクロースの身に触れる度、『ブン』という音を立てて血飛沫が飛んだ。肉と服が、一体化しているのだろうか。
そんな戦い方を続けていたら、ついにサンタクロースの脇腹に隙を見つけた。そこを、刃を横に向けて突く。
「今!」
チャンスがやってきた。突き立てられたフラッシュ刀を橋にして、サンタクロース側に急いで渡る。今まさに、『イッスンボーシ大作戦』が始まろうとしていた。だが服の中に潜り込むのではなく、首から上を集中攻撃する、という作戦だ。
男性陣三人の攻撃は、まるでスズメバチがチクチクと猛攻しているようなものだった。嫌そうに、サンタクロースも身をよじる。
注意がそっちに逸れている隙に、
「ドリルパンチ! 腹に!!」
『よいしょー!』
右腕の肘から下がグルグル高速で回りながら、サンタクロースの肥満腹に突っ込んだ。これでお通じ改善……という話では、ない。サンタクロースは後ろ方向に押し動かされた。
そんな戦いの光景を、マコトとレイカは敷地の外から眺めていた。
「まさか、巨大ロボットまで出てくるとは。思ってもみなかったな」
「同感だ」
この状況で自分たちの出る幕は無さそうだ。でも、事後報告をしなければならないので、一応残って戦いの行く末を見守ることにした。
そこに、ラーシャから「早く帰るように」と言われているはずのチハヤとタイチが並び立った。
「これ……何が起こってるんですか?」
チハヤが困惑たっぷりに聞く。それもそうだ。現実では有り得ないことが二度三度四度と目の前で起こっているのだから。
「そこは俺たちにも……まあ、『巨大ロボ戦』としか」
現実世界に起こったこの状況を説明しろと言われても、難しいものだ。
そんな会話をしている内に、戦いは過去類を見ない大チャンスを迎えていた。それも、セルアが剣で某巨人漫画の如く、頚椎の辺りを『斬った』ことで。その際に、スピカが魔術発動のために撃ち込んだ『釘』が血肉とともに抜け落ちたらしい。今度は某探偵漫画の如く、体から煙を上げて小型化が始まった。
だが、サンタクロースは諦めない。脇腹、腹、腿、といった体の空いた部分至る所から、腕を無数に生やし始めた。その一つ一つがオメガタイタンのあちこちを強く掴み、チリツモ合算のパワーで、グラウンドのフェンスの外に放り投げた。その瞬間に、サンタクロースデーモンは力を全て使い果たしたのか、爆散した。
「ヤバい! 二コーラーなんとかして!」
『イマやってます!!!』
完璧に投げ飛ばされた。足での着地はもはや不可能。尻もちを勢いよくつくだろう。真下には、マコトたち、通りかかった車、そして家々。
「させません!」
小型化に巻き込まれて落下中のラーシャが叫んだ。
「psychokinesis inducta/誘導念力 !」
念力がオメガタイタンを包み、一本釣りをするように杖を振る。まさしく釣られたように、胸が跳ね上がった。そのままバランスを取り戻し、なんとか誰にも危害を加えず着地した。
車も急ブレーキを踏んだだけで、無傷だ。運転席から、状況を理解できない中年の男が降りてきた。
「どういう状況……なんですか?」
「巨大ロボ戦、としか」
「……へ? きょだい……? ともかく、助かったよ。危うく潰されるところだった」
タイチは、運転手の顔に覚えがあった。
「……! あなたは……」
と、そこに、セルアたちが走って戻ってきた。腕の中には白いヒゲの老人、サンタクロースがいた。デーモン怪人の素体にされた『本人』だろう。ぐったり、気を失っている。
「釘原さん! 後、お願いします」
「ああ、分かった。今は一旦、家に連れて行っておいてくれ」
「オレが行く」
サンタクロースの身体はセルアからゴルダンにバトンタッチされ、春晴家に一時避難させることになった。
その時、カナタとマキナが『ライド・オフ』してオメガタイタンから降りてきた。直後に、オメガタイタンは空に溶けるようにして、消えた。
「ロボットが……消えた……」
いや、きっと元の世界に帰っただろう。
「お疲れ様、みんな」
カナタは、すぐ側に棒立ちしていた運転手に気づいた。
「この方は……?」
「たまたまここを通りかかって、ロボに潰されかけた参田社長だ」
タイチはそう紹介する。それで向こうも思い出したのか、
「あっ、あなたは春晴商事の……!」
「その節はどうも」
仕事上で関わりがあったらしい。二人は握手を交わした。
「良い雰囲気のところ、申し訳ないんだけど……」
セルアが口を開いた。
「向こうで、問題が、発生している」
「問題……?」
一同は高校のグラウンドに戻った。
サンタクロースデーモンが爆散した跡に、無数のプレゼントが散らばっていた。赤い正方形の箱から、リボンのついた青い袋、キャラクターのラッピングがされたものまである。
「これ全部……」
量的に、七王子市中のパパママ、いや、サンタクロースたちが愛する我が子のために買ったプレゼントたちだろう。
「どうするべきなんだろ……」
「拾得物として我々が預かる、という方法もあるが……」
朝起きて、あるはずのプレゼントが無い悲劇を想像してみる。泣きじゃくる子供、困り果てる親、寂しい寂しい、プレゼントが消えた悲劇のクリスマス、なんて御免だ。
「どうにかして、元の家に戻せないかな?」
「一応、『動かした物を巻き戻す』魔術はあるけど……」
「あ、魔術って言っちゃった」
すぐ隣にチハヤもいるのに。カナタは彼女の顔を見る。そこに、驚きは無かった。それどころか、納得の表情だった。
「……バレてた?」
「とっくにだよ。あたしもバカじゃないんだから」
――――反射で言いそうになったけど我慢我慢。
「いやバカでしょ」とでも返したかったのかもしれない。
話を戻そう。クリスマスプレゼントを、元の貰うべき子供たちの手に渡らせるための作戦。ちょうど、この場に適任がいるじゃないか。
「もし良ければ、お手伝いしましょうか? いえ、させてください」
参田社長が名乗りを上げた。
「今、うちの本社でクリスマスパーティーをやってるんです。酒類も今年はありませんし、我々で良ければ……!」
これが、事件の円満解決に繋がる最初の一手だ。
「じゃあ、この量ですし、総動員でお願いします」
タイチは頭を下げた。
「いやいや、当然のことですよ。まぁ、今後ともよろしくお願いしますよ」
参田社長は、本社に電話をかける。
「緊急で仕事だ。どうやら、サンタクロースの仕事を手伝わなきゃいけないらしい。全員、不動台高校まで来てくれ!」
電話の向こうから聞こえてきたのは、快諾ノ返事と、まるで通報が入った消防士の如く着替える音だった。
このタイミングで、ゴルダンも合流した。
「よし、じゃあみんな、プレゼント届けるぞー!」
『おー!!』
かくして、深夜のサンタクロース作戦が、地元企業の参田運送協力のもと、始まったのだった。




