魔王おばばと修行キャンプなのだ
「ぷぇええ……ぷぇえ!(うええええん! うえええ……ひっく!)」
「まあ。ピアディちゃん、今日はどうしたのですか?」
その日の夕食の席で、必死でピアディは聖女様を始めとした保護者たちに己の受けた屈辱を訴えた。
プー! プーって言われた!
が、しかし。
「この愚か者め! それで言いたい放題させて尻尾を巻いて帰ってきたのか? 貴様、それでも偉大なる進化した種族の魚人族か!」
「ぷ、ぷぅう……(だって。だって、ジューアおねえたま……うえええええん!)」
再び泣き出したピアディに皆はおろおろとして、聖女様を筆頭に慌てて慰めようとした。
だが、魔王おばばのジューアお姉様は甘やかしを許さなかった。
「このカエルもどきを甘やかしてはならん。おいピアディ、行くぞ!」
「ぷぅ?(ど、どこへなのだ?)」
「修行に決まってる。そのいじめっ子とやらを見返したくはないのか?」
「!」
泣いてぐずぐずにお顔が崩れていたピアディは、ハッとなってキリッと顔つきを引き締めた。
「ぷぅ!(みかえしたい! みかえして、しかえしするのだー!)」
ウパルパは決意した。
うむ、と頷いたおばばにぷにっと掴まれ、懐にイン。
「ではしばし、留守にする」
「ピゥ……(ピアディ、行っちゃうの……?)」
「ぷぅ(ハッ!? う、うんめい、そなたにはまだお出かけは早いのだ)」
先日生まれたばかりの綿毛竜の雛が、寂しそうに鳴いた。
こちらは勇者君のお膝の上からテーブルにぴょんと飛び乗って、大きな浅瀬の海色の瞳でうるうると、おばばの懐に収まったピアディを見つめている。
「ピュイッ(ベビー。おまえはまだ羽根が柔らかすぎて飛べないからお留守番だよ。ピアディはボクがお守りするから安心して)」
「ピゥウ……(おとうちゃんも行っちゃうのぉ……)」
悲しげな雛竜の引き留めに後ろ髪を引かれまくりながらも、魔王おばば、ピアディ、ユキノ君は修行に出かけるのだった。
かくして、魔王おばばに連れられて、大海原の孤島にこもること三日。
その間、ピアディの保護者筆頭の座を争う聖剣の聖者様と聖女様はもう心配で心配で仕方がなかった。
「あの二人、大丈夫なんでしょうか?」
「姉様が付いているから危険はないと思うが……。一応、仲直りもしているしな」
こっそり様子を見に行きたかった二人だが、魔王おばばのジューアお姉様からは「来てはならぬ」と釘を刺されている。
「ユキノ君も一緒だし、信じて待つとしよう」
「ピゥ……(ピアディ、はやくかえってきてー)」
一方のピアディは、絶海の孤島で魔王おばばと修行に明け暮れていた……
などということはなく、綿毛竜のユキノも一緒にアウトドアのキャンプ生活を満喫していた。
キャンプとはいえ、テントなどの設営はしなかった。
魔王おばばが魔法であっという間に小屋を作り上げ、快適な住空間を整えてしまったのだ。
しかもおばばの威光、いや威圧によって害虫や害獣は近寄りもしない。蚊の一匹すら見かけないのだから徹底している。
むしろ、魔王おばばの虹色キラキラを帯びた夜空色の魔力に触れて、ぱたぱたと害虫が地面に落ちていくほど。
(ジューアおねえたま、すごいのだ。われもこれぐらいできるようにならねば!)
おばばの弟の聖剣の聖者様が聞いたら、泣いてやめてくれと必死になりそうな決意を固めるピアディだった。
そのキャンプ生活の中で、ピアディは魔王おばばからサバイバル技術の伝授を受けた。
「もはや、先日のような不審者に追い立てられることはなかろうが……。いざというとき、身を守る術は持っていて困るものではない」
『無敵(海限定)』持ちの今のピアディなら、危険が迫ったら海に飛び込めばそれで何事もクリアできる。
けれど、陸上で何者かに再び襲われることがあったとき、『弱体化(陸上限定)』のピアディは危ないことが多すぎた。




