いじめっ子やーなのだ
夏休み子ども冒険者教室も終盤のある日。
飛び入りで駆け込んできた男の子がいじめっ子だった。
名前はマキノ君。年は、ピアディのお友達になった頼もしいサナちゃんと同じ五歳。
茶色い髪と目の、気の強そうな男の子だ。
パパもママも冒険者で、これまでの夏休み期間は他国のダンジョン探索に連れられていて、昨日帰国したばかりらしい。
両親は家でお休みしているが、本人は有り余る子どもパワーを持て余して、首都の冒険者ギルドで開催中の子ども教室に参加しに来たというわけだ。
元々、冒険者の両親と一緒にダンジョンに潜っていただけあって身体つきも同じ年頃の子どもたちより大きめだし、腕も立つ。
典型的な乱暴者男子は、皆と自己紹介し合った後で、子どもたちに混ざるピアディに目をつけた。
「なんだよーウーパールーパーなのに『ウパウパ』って鳴かないのかよこいつー」
「ぷ、ぷぅ?」
「ほら、鳴いてみろよー。ウパウパウパウパ!」
「ぷ、ぷるぅ……ぷ、ぷぷっ」
「ダセー! もうおまえ、ピアディなんてかわいい名前もったいない。プーだな、プー!」
これが地雷だった。
実は今朝、おうちでちょっとした悶着があったのだ。
おいしい朝ごはんの後、ご機嫌で鮭の人に懐きながら、勇者君や聖女様にデートのお誘いをかけていたピアディ。
そこに、勇者君の親戚のお兄さんが突っ込みを入れてきたのだ。
このお兄さんは見た目は勇者君と同じ黒髪黒目で端正な顔立ちのイケメンだが、背格好はずっと大きめで、何よりちょっと理屈っぽい。
「ピアディ殿。恋多きウーパールーパーなのもよろしいのだが、ハーレムを維持できる甲斐性が貴殿にはあるのか?」
「ぷぅ?」
「まだ幼いとはいえ、今の貴殿は無職、無収入。いわゆるプーというやつだ」
「ぷぅ!?」
とこんな出来事があったので、プーと呼ばれることだけは我慢ならないピアディだ。
ついでにいえば、愛らしい己の鳴き声を否定されたかのような、アイデンティティの危機の予感。許せぬ!
(われプーじゃないもん。カーナ神国の守護者ぞ、ちゃんとお仕事してるのだ、無職でもないのだ!)
ただし、収入はお小遣い制だし、自分では持てないから聖剣の聖者様にお財布ごと預けてあるのだけれど。
なお、ピアディに余計なことを言った勇者君の親戚のお兄さんは、皆には極寒の白い目で見られ、聖剣の聖者様には「うちの子にはまだまだ早すぎる話だ!」とお説教されていたことを付記する。
「ぷ、ぷぷぅ……っ」
ピアディは必死に頑張った。
今までこんないじめっ子は周りにいなかった。周りの保護者たちは皆、ピアディに優しい人たちばかり。
そのため強く押し付けるように言葉を言われることなんてなかったから、しなくてもいい頑張りを頑張ってしまった。
だが、どれだけ頑張っても『ウパウパ』と鳴くことはできず、しまいにはぷるぷる震えて、大きな青い目からぽろぽろ涙をこぼしてしまった。
そんなピアディを放っておく周りではない。
「ちょっとあんた! ピアディさまをいじめるなんてサイテー!」
「な、なんだよ。いじめてねえよ、ちょっとあそんでやってるだけじゃん!」
マイフレンドのサナちゃんがいじめっ子マキノ君に食ってかかっている。
そんなこんなで、本日の子ども冒険者教室は雰囲気の悪いまま終わってしまったのである。




