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鴉は少女と肉を喰らう。  作者: 詩徒
第四章 世界の中心

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第四十二話 対談

 狩人協会本部の二階に位置する、本来であれば幾重の認証と許可を以って初めて入室できるその部屋で、髑髏(しゃれこうべ)は突如やってきたにも関わらず、鴉頭を歓迎していた。


「久方ぶりだな、鴉頭。息災か」

「そうでもない。ついさっき鉄仮面の奴にも殺されかけたところだ」

「……ほう、彼奴もここに来ていたのか」


 赤頭巾にとって初めて出会うランカーⅠ、髑髏は立ったままの鴉頭と旧友のように軽々しく会話を続ける。

 鉄仮面の名前を聞いて更に驚く受付嬢を髑髏は手で払うと、彼女は深々と頭を下げて執務室を後にした。


 閉まる扉を見て、邪魔者が居なくなったとばかりに鴉頭は髑髏の対面に腰を落とすと、赤頭巾を自身の横へ手招く。


「赤頭巾、座れ」

「お、恐れ多いんですけど……!」


 ランカーⅠを前に鴉頭は平常運転だったが、赤頭巾はそうも行かなかった。


 目の前の髑髏。白い鎧に面頬だけでなく目の部分まで真っ黒い影を落とす仮面はその名の通り髑髏を思わせ、鉄仮面とはまた違った厳かな態度に赤頭巾は完全に日和っていた。

 加えて無視できない仰々しい肩書の数々に、もはや赤頭巾が立ち竦んでいると髑髏もまた鴉頭に続いて赤頭巾を手招きした。


「気にする必要はない。座るといい」

「か、鴉頭さん」

「なんだ」

「この人優しいですね!」

「……そうだな」


 ようやく横に来たと思ったら小声で髑髏を褒める赤頭巾に、鴉頭は呆れたような声で否定を諦める。

 相変わらずちょろい赤頭巾を半目で睨む鴉頭に、髑髏はさっそく話題を切り出した。


「それで?わざわざ其処許(そこもと)がここまで来た緊急の用とはなんだ」

「言いたいことは山ほどあるが、まず最初に言っておく事がある。……バケツ被りを殺した」


 獣の女王についてから話すと思っていた赤頭巾の予想と違って、鴉頭はまずバケツ被りの殺害について話し始めた。


 だがこれには鴉頭なりの髑髏への気遣いが含まれてのものだ。

 協会の長である髑髏にとって、バケツ被りは曲がりなりにも組織の部下である。

 部下という点では鴉頭も同じだが、それでも彼の戦力を自ら殺害したことを真っ先に報告するのはせめてもの礼儀だった。


「……そうか」


 しかし腐っても上位ランカーであるバケツ被りの死亡を、髑髏は飽くまで冷淡な反応に留める。

 てっきり多少なりのペナルティがあるものだと思っていた鴉頭は、確認も兼ねて髑髏へ疑問を示した。


「それだけか?」

「無論狩人同士の私闘は認められないが、それを理由に其処許を排斥しても本末転倒だろう」


 鴉頭の考えも理にはかなっていたが、髑髏もまた別の思惑からバケツ被りの殺害を黙殺した。

 歯止めの効かない獣の出現に狩人協会は今もなお手一杯の状況で、悠長に鴉頭を罰していられる余裕は無いのだ。


「一応聞いておくが、どちらから仕掛けた?」

「バケツ被りだ。お決まりの理由でな」

「ならば尚更、(それがし)から言えることはない。不問とする」

「ああ。分かった」


 鴉頭が気にしていたのは髑髏の会長としての体裁だったのだが、その髑髏本人が不問に付したのならそれ以上追求する事も無かった。


 一通りバケツ被りの襲撃について話したところで、髑髏は肩透かしだったとでも言うように鴉頭へ確認を入れる。


「これが緊急の用か?」

「いや、本題はここからだ。そのバケツ被りが獣と結託していた」

「…………ほう」


 バケツ被りの襲撃と死亡にはさしたる感情を見せなかった髑髏だったが、上位ランカーと獣との結託には初めて興味を示した。

 その反応も織り込み積みだった鴉頭は、結託するに至ったであろう元凶について話し始める。


「何を吹き込まれたのかは知らないが、バケツ被りは獣の女王とやらと組んでいたらしい。末端の雑魚が吐いた」

「ふむ、女王と来たか」

「……知っているのか?」


 女王と聞いて意味深な反応を示した髑髏に対して、鴉頭は彼が既知であった事に驚く。

 獣の女王などと大層な名前だが、鴉頭はケルンの町の件が起こるまでは聞いたことが無かったし、その情報を狩人協会に報告もしていない。ましてや髑髏に共有したのも今が初めてだ。

 その髑髏が女王を知っていたとなると、次に疑問なのは協会がなぜ女王について狩人全体に共有していないのか、ということになる。


 鴉頭の猜疑心が混じった質問に、髑髏は飽くまで淡々と答えた。


「其処許こそ薄々感づいているのではないか?我々の悲願、大獣害の元凶が……」

「それらしいのは名前だけだ」


 髑髏の言わんとする事を察した鴉頭は、しかし理解した上ですぐさま否定をする。


 大獣害の元凶――つまり獣の起源。人間を獣へ変貌させた存在こそが獣の女王ではないのか?

 獣の根絶を求める狩人にとって避けられない可能性を、鴉頭はそこまで楽観的に考えていなかった。


「もう大獣害が起こって十三年だぞ?今更出てくる理由はなんだ」

「……それも、其処許は及びついているのだろう?」


 そう言って髑髏が視線を向けたのは鴉頭の横、ちょこんと座っている赤頭巾だった。


 突如ユナイド・ステイリア連邦に訪れた鴉頭が新たに連れて来た少女。

 鴉頭が無意味にそんな事をするとも思っていない髑髏の、ある種信頼の含んだ言葉に鴉頭は反論を失う。

 

 まんまと図星を突かれた鴉頭は観念したように、敢えて伏せようと考えていた情報を口にする。


「その女王が、器だとか言って追っているのがコイツだ」

「は、はい!狙われてるらしい赤頭巾と申しましゅ!!」


 てっきり髑髏と鴉頭の会話に自分が入り込む余地など無いと思っていた赤頭巾は、鴉頭の突然の指名にどもりながら、更に若干舌を嚙んで髑髏へ自己紹介をする。

 顔を真っ赤にして頭を下げる赤頭巾に面を喰らったのか、少しの間を置いて髑髏が口を開いた。


「器……か」

「どういう意味なんでしょうね?」

「この通り、俺も赤頭巾も器についてはよく知らん」

「それは……ううむ」


 器という言葉が何を指すのか。

 女王に狙われる理由すら曖昧模糊とした赤頭巾の状況に髑髏は珍しく顎に手を当てて唸りを上げる。


 そして一頻り悩んだかと思うと、意を決したように鴉頭へ目を向けた。


「一つ、手がある」

「手だと?」

「だがこれは政府の重要機密に当たるため、某から其処許へ教える事はできない」

「なんだそりゃ」

 

 自ら手があると宣っておきながら、それを話せないという。

 結局何を言いたいのかよく分からない髑髏の態度に、鴉頭は呆れたように突っ込みを入れる。

 だが、髑髏の話はそこで終わりではなかった。


「故に、代弁できる者の居場所について教えよう」

「代弁できる者?」


 国家機密を簡単に漏らせる人間などいるのか、という鴉頭の真っ当な疑問に、髑髏は簡潔かつ納得に足る()()の名を言った。


「ランカーⅣ、ドクターだ」


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