5
ゆっくりと目を開けると目に入ったのは見慣れた天井だった。
「うあああああ!!!」
ベッドから起き上がろうとした瞬間、身体の節々に激痛が走る。
俺の叫び声は六畳ほどの自室に響き渡った。
痛みの感覚は筋肉痛に通じるものがあるが痛みの程は筋肉痛のそれとは比べようもないものだった。
俺の叫びを聞いてか両親が部屋に駆けつけた。
「大地!」
母さんの顔が目に映る……。
今にも泣き出しそうな表情が俺を見つめていた。母さんの後ろにいた父さんも心配そうな顔で俺を見つめる。
そんな二人を見た途端、涙が溢れ出した。
学校で起こしてしまった不祥事が頭の中によみがえった……。
俺はなんてことをしてしまったんだ……。
鏡を壊したことなんて可愛く思えてくる。
俺は突然湧いて出た強大な力でクラスメイトを殺したのかもしれないのだから。
母さんは俺の元へと駆け寄るとベッドの横に座り込んだ。
母さんの顔が目の前にくると否が応でもわかる。
目元が腫れている。
泣かせてしまったのだ。
俺の所為で……。
「……ごめん。……ごめんなさい。俺、俺、とりかえしのつかない事をしてしまったかもしれない。……俺、人を殺したかもしれない」
母さんの顔が溢れ出た涙で見えなくなる……。
俺は二人から罵倒されると思った。
自分の子供が人殺しになったのなら親は怒り狂い、見放し、絶望するに違いない……。
母さんが俺に手を伸ばした……。
俺は目を瞑りなすがままに身を任せた。
母さんの手は俺の頭に触れた。そしてその手は優しく俺の頭を撫でた。
「……あなたがそんなことをするわけないじゃない。あなたは私達の子よ。暴力を振るうにしてもそれはちゃんとした理由があるに決まってるじゃない……」
目を開けるとそこには優しい顔をした母さんの顔があった。母さんの隣に立っていた父さんも母さんと同じ顔色をしていた。
「だって、だって、俺は……」
涙が再び流れ出してくる……。
「大地が傷つけた子は亡くなってなんかいないわ。全身を打って打撲しているところがあるみたいだけど命には別状はないそうよ。さっきね、病院に行ってご両親と怪我をした息子さんに謝ってきたの」
母さんの言葉を聞いた俺は一瞬だけ安堵したが再び心を緊張させた。
太田に怪我を負わせたことに間違いはない……。
「人に暴力を振ることはとてもいけないことよ。でもね人間だからね。貯めてたものが爆発しちゃうことだってあるの。暴力を肯定するわけではないのよ? 私もね、お父さんを殴りたくなる時だってあるのよ? 実際、殴ったことだってあるし……」
母さんは微笑みながら父さんを一瞥すると父さんは苦笑した。
「でもね? 人は成長できる生き物なの。悪いことを一回したら反省して次はしないようにする。それが人なの。大地? あなたは私達の子供よ。私達の子供が理由もなく人を傷つける筈ない。私達はあなたのこと、あなた以上に知ってるつもりだし、あなたのことを誰よりも信じてるわ。だからね? 何があったのかちゃんと話してくれる?」
母さんの心地の良い声色の言葉。その言葉が俺が母さんと父さんに抱いていたしがらみの全てを解き放った。
温かい涙の粒が目元からこぼれた。