6
夜がふけた下町。
千鳥足で歩く背広を着た中年の男がいた。
男は町からのらりくらり歩きながら脇道に入っていく。
連なる住宅に挟まれた道……。
道路を歩く通行人は一人も見当たらない。
独り言をつぶやきながら歩いている男の足が止まる。
男の目線の先、道路の真ん中に何かがあった。
両目を右手で擦り、再び得体の知れない物体を凝視した……。
ため息をつき呆れたような表情をすると再びおぼつかない足で男は歩きはじめた。
男がよたよた歩いた先には道端の中央にスーツを着た男が横たわっていた。
「もしもーひ……ヒックッ、こんな所で寝てると轢かれるぞ〜ヒックッ」
横たわる男性は男の声に反応する素振りを一つも見せなかった。
「ちぇっ、めんどくせぇーなー……」
男は男性の前で屈むと男性の身体を揺すり始めた。
「おきろぅ〜。おきろぅ〜…………ダメだこりゃ〜」
ため息をついた男は男性の頭をはたいた。
「……お客さん、終点ですよッ!」
ケラケラ笑いながら男は男性の頭を数回はたく。
「ダメだにゃ〜……」
再びため息をついた男は男性の懐に手を入れ男性の身体を反転させた。
「うわ〜、コイツ、ゲロした後かよ……」
両手に不快な感覚を覚えたのか、男は両手に視線を移した。
「……え?」
男の両手に付いていたもの……。それは男性の吐物ではなく、べったりとこびりついた赤黒い液体だった。
男の顔がゆっくりと横たわる男性に向けられていく……。
「うっ!」
男の表情が一瞬にして歪み、消化していた食物を一気に吐き出した。
男性は生きていることを微塵も感じさせない身体をしていた。
胸部から腹部にかけて無惨にも引き裂かれており、臓器の数々が破裂し、開かれた身体から引きちぎれた大腸の一部が飛び出していた。
男は慌ててアスファルトの地面から立ち上がると一目散に走り出した。男は一心不乱に走り続けるのだが自分以外の人間を見つけることはできない……。
男はしばらくの間、走り続けたが次第に徐行し、そして立ち止まった。
肩を大きく上下させ呼吸する男の目の前に人影が映った。
電信柱の影で人影のようなものが不穏な動きをしている。
呼吸を落ち着けると男は歩き出した。
次第に人影の姿が男の視界に移り始める。街灯の光が逆光し鮮明に見えないが影は二つあるようだった。
二つの影は交わりあい、今も尚、片方が怪しい動きを続けている。
「はぁ〜……。お盛んなのはいいけどさぁー、こんなとこですんなよ……」
男は二つの人影に近づいていく……。
コンクリート塀に背を向けているのは女性のようだった……。
一歩、一歩近づくにつれ、女性の顔が男に見え始める。
見えてきたのは虚ろな目をした若い女性だった……。
そして不気味な動きをしている影……。
「ひぃぃっ!」
男は地面にしりもちをついた。
女性を覆っている人影は影そのものだった……。
黒い塊。
黒い人の形をした塊に人の頭がついている……。
動きを止めた黒い人影が振り返った。
顔中を真っ赤に染めた顔面が男を見つめる。
「オ、オ、オ、オ、オマエ、オ、オ、オイシイ?」
音飛びしてしまったCD音源のような音声が不気味に響く。
振り向いた顔は、先程死んでいた男性のものだった……。




