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ミランダは車両に乗り込んで以来、一言も口にせず目を閉じ腕組をしていた。
車内の空気に息が詰まる感覚を覚えた俺は窓の外を見遣る。
外の景色は閑散とし人の姿は一人として見えない……。
そんな廃墟と化した街に気が滅入った俺は視線をゆっくりと床に落とした。
綾乃さんは無事なんだろうか……。
さっきも感じたこの感覚……。
会ってまもない人にこれほどの気遣わしさを覚えるものなのだろうか。
他者に懐く感情よりも深い感情を綾乃にもっている。
彼女は何者なのだろうか……。
考えを巡らせていると不意にミランダが目を見開いた。
すると車内の無線に僅かなノイズが走った後に通信が入る。
『前方約四〇〇メートルに護衛部隊の車両を発見。損傷が激しく車内の状況は確認出来ません!』
「周囲の状況はどうだ」
ミランダの重く張り詰めた声。
『周囲に人影、敵影見当たりませ……、待ってください! 前方で発火炎を確認! ……いました! 護衛対象二名、部隊員二名を生存を確認……』
「対象まで可能なかぎり接近させろ! 戦闘準備!」
ミランダの怒鳴り声と共に車両が速度を上げる。そして急停車したと同時に車両に乗っていた兵士達が一目散に車外へと飛び出した。
俺とミランダも彼らに続き扉の外へ足を踏み出した。
四台の車両から飛び出した兵士達は一斉に自動小銃を前方に構え始める。
「あれが私達の敵だと言うのか……」
苦渋の表情を浮かべたミランダが呟いた。
その言葉を聞いた俺はミランダが見つめた方角へ視線を向けた。
「なっ……」
視界に映ったもの。
俺が今までに遭遇した奴らの姿とはあまりにかけ離れたものだった。
人の形に似せたというよりそれは完全に人の姿をしていた。
三〇代前後に見える男女。
着ていた服は真っ赤に染め上げられ口元にも赤い液体がべったりとこびりついている。
そして身体の一部が黒いヘドロ状の物になっていた。
人の姿をした化け物に釘付けになっているとミランダの声が耳に入る。
「綾乃その傷は深いのか……」
綾乃の名を聞いた俺は即座に声のした方へ顔を向けた。
そこには綾乃に寄り添う霧咲の姿と赤く染め上げた左腕を押さえる綾乃の姿があった。
俺の視線に気づいた綾乃は俺に一瞥をくれた後、再びミランダに顔を向ける。
綾乃の無事な姿に俺は大きく息を吐き、心を落ち着かせた。
「それほど深くはないとは思う。霧咲が手当してくれたおかげで止血も済んでいるわ。それよりもごめんなさい……、ミラ」
「……どうした? 何故謝る」
「間に合わなかったの……」
「なんだそんなことか。お前達が無事ならそれでいい。それよりも他の兵はどうした」
「私達をかばってくれた二人はあの化け物達に捕食されてしまったわ……」
「そうか……。各小隊は抗戦準備に移れ!。先陣は私が切る。第一小隊は私の後ろに続け! 第二小隊は後方支援!」
綾乃の元から立ち上がるとミランダは声を荒げた。
『アイアイサー!』
ミランダの叫びに呼応し兵士達が声を上げた。
「少年、念のためだ。これを持っておけ」
ミランダが手に持っていたものは拳銃だった。
「俺、銃なんか使ったことないですよ!」
「使い方は教えてやる。私の意に反したんだ自分の身は自分で守れ」
ミランダの鋭い眼光が俺を見据える。
「つ、使い方、教えてください……」
俺はミランダの放つ凄みに気圧されて彼女に従うほかなかった……。
「わかればいい。ここのセーフティーを外してトリガーを引くそれだけだ」
「わかりました……」
俺は彼女から拳銃を受けとった……。
「安心しろ少年。君にその銃を使う機会は与えないさ」
表情を和らげたミランダは俺の肩を軽く叩いた。
動きを止めていた二体が何かを察知したのかこちらに向けて動きはじめた
その時だった……。
化け物達の後方に乗り捨てられた車の影で何かが動いた。
「ミランダさんちょっと待ってください!!」
俺は化け物達の後ろに見える車まで駆けだした。




