22
俺は……。
俺はあんな化け物と戦うことなんてできるのだろうか……。いや、戦う意味があるのだろうか……。
生きる意味がないこの世界でそんなことをする理由が見つからない……。
もうこの世界は俺にとって無に等しい……。
だから、もういいんだ。
誰になんと言われようとももういいんだ……。
「……綾乃さん。やっぱり俺はあんな化け物と戦うことなんてできません」
「そう、わかったわ。……青空君」
「はい……」
「私はあなたのことを責めないし、あなたの選択を責められる者なんて誰一人だっていない。あなたは一人の人間として一つの選択をしただけだもの」
表情を変えない綾乃。
しかし彼女の言葉は不思議と温かかった。
彼女の発したその言葉が自然と心の中に落ちていった……。
「……青空君に謝らなければならないことがもう一つ増えたわ」
「えっ……」
「私はあなたを保護、拘束し政府に引き渡すはずだったの。でもあなたの選択でそれができなくなった……。だからあなたには死んでもらうしかないの……」
「…………」
そうか……。どっちにしろ。俺に自由はなかったってことか。でも……、いいか。早くいなくなりたいと思っていたこの世界から消えてなくなれる。それが早かったか遅かったかに過ぎない。
俺は目を閉じた。
「……わかりました。殺して下さい」
「………………」
しばらくたっても綾乃から返事が返ってくることはない。俺は耐えかねて目を開けた。
「あなたは何を言っているのかしら? 私はあなたなんか殺さないわよ」
「へ?」
普段にも増して冷たい表情をした綾乃が俺を見つめていた。
「何を勘違いしているのかしら? 誰が殺すなんて事を言ったかしら」
「いや、だって死んでもらうって言いましたよね?」
「言ったわよ?」
「ほら……」
「でも殺すとは一言も言ってないでしょ? 私は政府に保護拘束した青空大地が死んだということを報告するだけよ」
「それは屁理屈じゃないですか! なんだよせっかく覚悟したっていうのに……」
俺は安堵なのか心残りなのかどっちともつかない気持ちを浮かべた。
「死を覚悟するぐらいだったらあなたは生きなさい。あなたはまだ生きてる。生きられるのよ……」
「そんなこと言われたってもう俺に生きる意味なんか……」
綾乃が急に歩み寄り俺の顔に手を近づけた……。
はたかれると思った俺は瞬時に目を閉じた……。
しかし彼女は俺の頬をはたくことはなく、俺の頬に優しく手を触れた。
「生きる意味なんて探せばいいわ。そのうちにすぐ見つかるわ」
目を開けるとすぐ近くに綾乃の顔が映った。相変わらずの無表情の綾乃。しかし彼女のその手は温かい血が通っていた……。
※
「いくのね……」
「はい……。お力になれずすいません」
「気にしてなんかないわ。最初からあてになんかしてないもの」
「相変わらずの冷酷さですね」
「殴ってもいいかしら?」
「やめてください……。そして足を踏むのもやめてもらっていいですか?」
「あら? ごめんなさい。気づかなかったわ」
いや、完全に故意で踏んでただろうに……。
「青空君……」
「はい……」
「もし、もしもあなたが力が欲しいと願う時が来たらこれを使いなさい」
綾乃は懐から何かを取り出した。それは一世代前の電話機器であるスマートフォンのような小型の電子機器だった。
「……それは?」
「これは《ドライブモディフィケーション》。胸元に掲げてアースドライブと呼称しなさい。きっとあなたの力になるわ」
俺はスマートデバイス──《ドライブモディフィケーション》を綾乃から受け取った。
「……ありがとうございます。綾乃さん……、死なないでください」
「あなたに言われるまでもなく、私は死なないわ。まだやらなけれならないことがあるもの」
相変わらずの無表情が俺を見据えた。
「じゃあ……、行きます」
俺は綾乃に頭を下げて歩きだした。




