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「お待たせ致しました。あやの……様? どうかなさったのですか……」
俺と綾乃がいる場所までたどり着いたショートカットの女性は俺に背を向けた綾乃のことを気にかけている様子だった。
「なんでもないわ……。彼を車椅子に乗せるわ。手伝って」
「かしこまりました」
綾乃とショートカットの女性は俺の両脇に立つと互いに俺の肩を持ち上げた。そしてゆっくりと俺の身体を車椅子へと導いた。
「すいません。ありがとうございました……」
綾乃は礼を受け取る素振りを見せず、矢継ぎ早に話を進める。
「青空君には知っておいて欲しいことがあるの。だから付き合ってもらうわ。いくわよ、霧咲」
綾乃は話を終えるとすぐさま廊下を歩き始めた。
「かしこまりました」
ショートカットの女性は綾乃に言葉を返した後、俺に頭を下げた。
「綾乃様に仕えております霧咲と申します。以後お見知り置きを」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
「霧咲、早くしなさい」
立ち止まった綾乃がこちらを振り向いた。
「ただいま参ります」
霧咲は綾乃に返事返すと車椅子の後方に回った。
「では、押しますね青空様」
「はい……」
しばらく二人は廊下を進んだ。
黙々と歩く二人……。
特別気になったことではなかったが無言の間に耐えかねて俺は霧咲に話しかけていた。
「あの、綾乃さんとは知り合ってから長いんですか?」
「私と綾乃様ですか? そうですね……」
霧咲が話し始めた瞬間のことだった。突然、綾乃の足が止まった。同時に俺の乗る車椅子も動きを止める。
振り向いた綾乃は俺と霧咲を見つめた。こちらを見つめている二つの目はとても鋭くそしてとても冷たかった……。
「申し訳ありません青空様。私は周囲のことを他言できる立場にありませんので今のご質問にはお答えすることはできません」
感情を殺した冷たい返事だった。
綾乃は視線を進行方向に戻すと何も言わず再び歩きだした……。
しばらく進むと綾乃はある扉の前で足を止めた。懐からカードを取り出すと扉横のカードリーダーにカードを通す。
単音の電子音が鳴った後、解錠音が辺りに響いた。
扉を開けると綾乃は扉を押えて『入りなさい』と一言、口にして部屋の中へ招き入れた。
殺風景な部屋の中に一際目立つ黒い塊が部屋の中央に鎮座していた。
「……なんですか、あれ」
「我が社のスーパーコンピュータよ」
綾乃はそう口にすると巨大な黒い箱に向かって歩きだした。
巨大な黒い箱の横にパソコンが備え付けられている。パソコンの正面に立った綾乃はキーボードを叩き始めた。すると俺の視線の先にホログラフィックの画面が突然姿を現した。
画面に映し出されたのは透視化された人体。透視化された人体の胸の中に心臓とは異なったものが映っている。八面体が収まった球体。球体の回りを異なった角度で配置された二つの輪が不規則な動きで自転している。
「これは……」
「これがあなたの身体……。そして胸の中心にあるのがアースドライブよ」
戻ってきた綾乃がそう話した。
「なんでこんなデータあるんですか……」
「それは、アースドライブを開発し、青空君の身体に移植したのが私の父だからよ」
「どういうことなんですか」
「この会社を設立した私のお爺様は政府にとって影響力のある人だった。アースドライブの転用方法を立案したのは私のお爺様なの」
俺の身体を人間ではないものに変えたのがこの人の父親で立案したのがこの人のお爺さん……。
「俺が選ばれた理由は知っているんですか……」
「あなたの身体はアースドライブとの適合性が高く拒絶反応が少なかったためよ。でも少なからず拒絶反応は起きた……。記憶よ。あなたの記憶喪失は拒絶反応によって引き起こされたの」
拳が怒りによって震えだす。
「綾乃さんが知っていることはそれで終わりですか……」
「あなたの身体のことについてまだ話してないわ」
「身体……」
「あなたの肉体はアースドライブのエネルギーに耐えられるよう強化されているわ。あなたの身体は人の数十倍の力と驚異的な新陳代謝を備えているの。今感じている痛みも直に消えるわ」
もう何も言うことはなかった。
この人達が俺を生き返らせて好き勝手にいじくった挙句、俺は記憶を無くし、そして人ならざるものに変わった。
「綾乃さんは俺のことを知って何も思わないですか……」
「人の身体を私の父が兵器に変えたことは残念なことであり釈明の余地はないと思っているわ。本当にごめんなさい……」
綾乃は深々と頭を下げた後、言葉を続けた。
「青空君。あなたには選択する権利がある。そして私はあなたの意見を尊重するわ」
最後の言葉は今までに聞いた彼女のどの言葉よりも人間を感じた……。




