20
俺はしばらくの間、天井を見つめた……、見つめていた。
あまりの情報量の多さに思考が追いつかない。
ただ、一つだけ理解していることがある……。
もう、母さんと父さんはこの世に存在しないということ。
はたして二人が存在しないこの世界に生きる意味はあるのだろうか……。
いくら考えても生きる意味は見つからなかった……。いやそれ以前に俺は生きていると言えるのだろうか?
交通事故で死んだと告げていた綾乃。
もう……、とっくに死んでるんじゃないかこの身体は……。
途端に笑いがこみ上げた。
じゃあもう一回死ぬことなんて造作ないじゃないか……。
「…………ッ!」
俺は全身の激痛を堪えながらベッドから身体を起こした。
地面に足をつき、ゆっくりと立ち上がる。視界の先、扉を見据えた俺は足を踏み出した。
一歩、また一歩と足を進める。歩みを進める度に痛みが全身を駆け巡る。俺は歯を喰いしばりながらゆっくりと扉までの距離を縮めた。
「あっ───ッ!」
扉まであと数歩手前で俺はよろけて地面に倒れた。
「……ちゃんと動けよッ!」
普通の人間とは違っていた自分の身体。そんな自身の身体に腹が立った……。
俺は全身に力こめて床を這った。
扉の正面まで辿りつくと俺は扉に這いつくばりながらドアノブに手を掛けた。
扉が開くと同時にまた俺は地面に倒れた。
「あなた、どこに行くつもり?」
視界の角に黒いパンプスが目に入る。
俺は床に手をつきながら徐々に立ち上がった。
「なんで、いるんですか……」
「あなたのことだからすぐに抜け出すと思っただけよ」
「そうですよ! 悪いですか!」
「いえ、悪くなんてないわ。青空君にだって選択する権利はあるわ」
「えっ……」
意外だった。
てっきり否定されるものだと思っていた。しかし綾乃の口から出た言葉は違った。
「何よ……」
「いえ、冷酷非道な綾乃さんからそんな言葉が聞けるなんて意外だなと……」
綾乃は無表情なままだった……。無表情のまま、俺の足に思い切り蹴りを放った。
「イテぇぇぇ!!!」
俺は床に崩れ落ちた後、痛みに悶絶した。
「……何するんですか。ホントのこと言っ───あぁッ!」
皆まで言わせずに俺の身体を踏みつけた綾乃はおもむろに取り出したスマートフォンを耳元で押し当てた。
「……もしもし、馬鹿が部屋を抜け出したわ。私、一人じゃこの馬鹿を運べないからあなたも手伝いなさい。……あと霧咲、車椅子を持ってきてくれるかしら。……よろしく頼んだわよ」
通話を終えた綾乃はスマートフォンを上着のポケットにしまった……。
「……あの、足を退けてくれませんか」
「いやよ?」
「いやあの、今すごい身体痛いんですよ……」
「それがどうかしたのかしら?」
表情を変えない綾乃の目が俺を上から見下ろす。
「俺、綾乃さんに何も悪いことしてないですよね?────ッ!」
退けるどころか綾乃は俺を踏んでいる足に力を入れ始めた。
「うああああッ! 綾乃さん! その体勢だと下から見えますよ……、パンツッ!」
レディーススーツのスカートの下から見えそうになった下着のことを正直に伝えると綾乃は一瞬にして俺の身体から足をしりぞけ背を向けた。
通路の奥から足音が聞こえ始める。視界に映ったのはショットカットの髪型をした温和そうな女性の姿だった。




