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おぞましい物体が視界を覆う。
視界を埋め尽くした化け物に恐怖が募り身体が竦む。
得体の知れない生物……。
目の前で人の命を奪った存在。
視界の片隅に無残な姿になった田中が映る。
憎かっただけの存在だった……。
疎ましい存在のはずだった……。
はずだったんだ……。
でもあの笑顔をみた瞬間、全てが晴れたような気がした。分かり合えた気がした。
なのに……。
なのに何で……。
心の奥が締め付けられる……。
俺は泣いていた。
目の前に映った存在が俺に向け腕を伸ばした──。
近づく黒光りした禍々しい塊。
俺もここで死ぬのか……。
そう思った時だった。
地面を蹴る足音が耳に入った。
足音は次第に大きくなっていく……。
音がなる方へ顔を向けた。視界に入ったのは銃を持った自衛隊の男だった。
男は俺の背後に回り込むと腕を鷲掴み、俺の身体を後ろに放り投げた。
男の後ろに倒れ込んだ俺は顔をあげた。
〈三島〉ヘルメットに付けられたタグに視線が向かった。
三島は銃を両手で構えると化け物に向かって銃撃を開始する。
断続的に連写される銃弾が化け物の身体に無数の弾痕を穿つ。
銃声は空砲へと変わった……。
「……え!?」
目に映ったのは無数に空いた穴がみるみる塞がっていく光景だった。
「ちぃっ! 再生するなんて俺は聞いてねぇぞ!」
吐き捨てた言葉の後、三島は銃を投げ捨て、俺の肩を持ち上げる。
「立て坊主! 走るぞ!」
俺の身体を強制的に起こすと三島は指さした。
「あれだ! あの一番端に止まった車両まで走れ!」
背中を押された俺は車両に向かって走り出した。
「これでも喰らってろこのクソ野郎がッ!」
後ろを振り返ると深緑色をした球体を化け物の足元に転がす三島の姿が映った。
三島は瞬時に走り始める。そして数秒後に化け物の足下で爆発が起きた。
俺の背に追いついた三島は親指を突き立て得意げな表情を向けた。
次第に爆散した砂煙が晴れていく……。
「嘘だろ……」
三島の唖然とした表情が化け物を見つめた。
化け物の身体には傷一つ付けられてはいなかった……。
化け物が動きを見せたその時、銃弾の嵐が化け物へ注がれる。
三島と俺は端に止められた車両に辿り着く。俺は車両横に立っていた男に促され車両に乗り込んだ。
「神! 収容状況はどうなってる!」
「見受けられる者は全て収容しました」
「よしッ! 撤収だ!!」
三島の大声が校庭に響き渡る。三島の怒声が響いた後、停車していた車両群が動き始めた。
三島と神と呼ばれた男も素早く車両に乗り込んだ──。
車窓に目を向けた。
取り残された田中の死体……。
化け物が車両を追ってくる様子はない。化け物は田中の死体に顔面を埋めていた。
車両は校門を通過した……。
田中のあの笑顔が頭の中に蘇った……。
俺は田中を救うことはできなかったのだろうか。……太田に使ったあの力があればあの化け物を倒せたかもしれない……。
俺にもっと勇気があれば……。
後悔の念が頭を埋めた。
頭を抱えていると不意に記憶が蘇った。
あの化け物が発した言葉に意味はあるのだろうか……。
『お前の“ソレ”欲しい』
確かにあの化け物はそう言った。
俺が“ソレ”を持っている。
そういう意味に聞き取れるあの言葉。
“ソレ”とは何々だろうか……。
抱いた疑問に答えが出ることはなかった……。
突然、車内の女子生徒が泣き出した。
それを見ていた他の生徒や先生達の顔色が更に悪くなっていく。
もらい泣きしてしまう生徒や何かに祈り始める先生の姿、色々な形で恐怖と不安が目に見え始める。
俺もその感情に飲まれそうになった時だった……。
『ば、化け物が現れましたぁぁぁ!!』
突然、車内の無線から怒声が鳴った……。




