穴
私のクラスにも『穴』は設置されている。
文部科学省の命令で、今ではどこの学校のどこのクラスにも設置されているのだ。
心の中に膨れ上がった怒りや、苛立ちや、その他色々な負の感情を吸い取ってくれるから『穴』というように呼ばれている。
『穴』は、その真っ黒な色で生徒達のストレスを吸収してくれる。
ちなみに、この黒色は、元々は違う色だったのをクラスのみんなで協力して染めたのだ。
自分たちの手で黒く染めるのは、みんなで使おうということを意識するための儀式みたいなものらしい。
実際にも、みんなで仲良く使っている。
休み時間には、みんなで殴ったり蹴ったりしてストレス解消をしていたり、外遊びに持って行ってサッカーボール代わりに蹴って遊んだりしている。
『穴』は、こういう使い方もできるから便利なのだ。
他にも、放課後には暗めの女子が、ノートにびっしり書いた罵詈雑言を『穴』に向かって叫んで、ストレスをスッキリさせていた現場に出くわしたこともある。
何食わぬ顔をしていたけれど、私に見られてちょっと恥ずかしそうだった。
こういう風にストレス解消ができるから、昔と比べて、生活の質なども向上している。
勉強や運動に集中して打ち込めるから、そこの成績もだ。
文部科学省によれば、『穴』設置前と比べて設置後は、ストレスが80%以上減少。
運動能力が13%以上上昇。
知能が22%以上上昇と、『穴』の効果は数字にもしっかり出ている。
こんな素晴らしい『穴』なのだが、最近私のクラスでは一つの問題が起きている。
放課後、クラスに設置されていたはずの『穴』が、窓から外に落ちて、壊れてしまったのだ。
『穴』は、意外なほどに繊細で、それだけで使い物にならなくなってしまったのだ。
おかげで、私のクラスは異様なほどにピリピリしている。
みんなストレスが溜まってしまっているのだ。
朝の会の終わりがけ。
担任の先生が、転校生の紹介を始めた。
「ーー君です、みなさん仲良くね」
先生はつとめて明るく言う。
「ーー君か、新しい『穴』の名前は……」
私は溜まってしまっていたストレスをどう解消しようか考え始めた。




