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追放された無能テイマー、実は【大地の主】でした  作者: はぶさん


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第23話:サンの陽だまりオーラと、急成長する野菜たち

初夏の爽やかな青空の下、開拓地の畑が眩しい光の粒子に包まれていた。


「わほっ!」


元気に駆け回っていた黄金色の仔犬――サンが、畑の真ん中で空に向かって誇らしげに一声吠えた。


その瞬間だった。


サンの胸元の太陽の核から、まるで小さな朝日が地上に降り立ったかのような、柔らかな金色の光がドーム状にパァッと広がったのだ。

それは肌を焦がすような厳しい熱気ではない。

春の陽だまりの中で深呼吸した時のような、穏やかで、優しく、どこか懐かしい温もりに満ちた光だった。


「……わぁっ……!?」


モグが両前足で目を覆いながら、驚きの声を上げた。


「な、なんなのこの光は……!? まったく目が眩まないのに、すっごく温かいピョ!」


ピピもティルの肩の上で瑠璃色の翼を広げ、金色の光の波に包まれて目を丸くした。


「ぷるぅ……! ぽかぽかしてて、すっごく気持ちいい光ぷるぅ!」


ぷるが琥珀色の身体をぷるんと震わせ、光の粉を全身に浴びて喜んでいる。


ティルは目を見張り、サンの足元から広がる光の波をじっと見つめた。

その光は、ただ周囲を照らしているだけではなかった。

昨日みんなで汗を流して完成させた四つの畝へと、吸い込まれるように深く染み渡っていたのだ。


そして――信じられないような光景が、ティルたちの目の前で繰り広げられ始めた。


まず最初に変化が起きたのは、昨日種を蒔いたばかりの第四号畝だった。

ベルの完熟羊糞堆肥と、ぷるの団粒土がブレンドされた黒土の表面。

その土が、サンの黄金色の光を浴びた瞬間、まるで春の目覚めを迎えたように微かに波打ったのだ。


プチッ……プチプチッ……!


静かな畑に、耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな、愛らしい音が連続して響いた。

土の隙間から、鮮やかな黄緑色をした小さな双葉が、次々と顔を覗かせたのだ。

昨日蒔いたばかりの【蜜入り野イチゴ】の種が、わずか一晩で殻を破り、力強く芽吹いた瞬間だった。


「め、芽が出たッス!? 旦那、昨日蒔いたばかりの野イチゴの芽が出たッスよ!!」


モグが地面に鼻を近づけ、興奮のあまり尻尾をブンブンと振った。

「普通なら一週間以上かかるはずの芽吹きが、目の前で起きてるッス!」


「それだけじゃないピョ! こっちの豆棚を見なさいピョ!」


ピピが鋭い声で叫び、第二号畝の上空へと舞い上がった。


第二号畝では、ティルとモグが立てた頑丈なA型トラス支柱に抱きつく【カラカラ豆】のツルが、目を見張る勢いで節を伸ばしていた。

サンの光を浴びた葉は、淡い黄緑から深いエメラルドグリーンへと一瞬で色を変え、手のひらほどもある大きな本葉が幾重にも重なっていく。

さらに、ツルの節目節目から、白と淡い紫が溶け合った愛らしい花芽が、ポコポコと無数に膨らみ始めていた。


そして、第一号畝の【ゴツゴツ土大根】も同様だった。

土の表面から突き出していた白い首元が、トックリのように丸々と太さを増し、濃い緑の葉が空に向かって力強く手を広げている。

第三号畝の【シャキシャキ野草】と緑肥のクローバーに至っては、一面に白い小さな花を満開に咲かせ、開拓地全体に甘く爽やかな花の香りを漂わせていた。


「す、すごい……! 作物たちが、光を全身で喜んでいる……!」


ティルは膝をつき、瑞々しい若葉の感触を指先で確かめながら、深い感動に震えた。


第一号畝の土大根の葉を一枚そっとつまんで指先で揉んでみると、みずみずしい濃緑の汁が滲み、ツンと心地よい大根特有の芳香が立ち上った。

大地の魔素とサンの太陽光を浴びた葉は肉厚で、筋っぽさが一切なく、柔らかくしっとりとしている。

ちぎった小さな葉先をモグとベルに差し出すと、モグは「シャキシャキで甘いッス!」と頬張り、ベルも「なかなか上品なほろ苦さですわ」と満足げに咀嚼した。


朝露がサンの放つ温もりによってふわりと蒸発し、畑の上に幾重もの小さな虹が架かっている。

畑全体が、まるで生き物のように呼吸を始め、生命のエネルギーに満ちあふれていた。


ティルはそっと第四号畝の黒土に指を差し入れてみた。

すると、指先から伝わってきたのは、湿った冷たさではなく、春の陽だまりのような心地よい地温だった。


「……地温が上がっている。冷たい谷風で冷え切っていた土の奥まで、じんわりと温まっているんだ」


ティルが呟くと、背後からカラン、コロンと涼やかな鈴の音を響かせながら、ベルが優雅に歩み寄ってきた。

サファイアの瞳を細め、サンの放つ光と青々とした作物を値踏みするように見つめている。


「ベル、何かわかったかい?」


ティルが振り返ると、ベルはフッと誇らしげに口元を緩めた。


「わたくしの故郷の庭園にも、温室を管理する光属性の魔獣がおりましたわ。……ですが、あの仔犬の光は、あのような下品な人工光とはまるで違いますの」


ベルは前足でトントンと地面を叩いた。

「わたくしが提供した極上の羊糞堆肥と、泥スライムの作った土壌。そこにあの仔犬の柔らかな陽だまりが注がれることで、土の中の微生物と作物の葉緑体が、極限まで活性化されているのですわ。……メェ」


「やっぱりそうか……!」


ティルは前世の農業知識と照らし合わせ、深く合点がいった。


作物が育つために最も重要な要素は、「土」「水」「空気」、そして何よりも「太陽光(日照)」だ。

この開拓地は、巨大な大木とそそり立つ玄武岩の岩壁に囲まれているため、昼前後の日当たりは良いものの、朝と夕方はどうしても深い影が落ちてしまうという弱点があった。

影の時間が長ければ、地温が下がり、根の活動が鈍くなり、どれほど良い土と水があっても成長速度には限界が生じる。


だが、サンの放つ【陽だまりオーラ】は、その弱点を完全に消し去ってくれたのだ。

植物の光合成に最も適した波長の光を放ち、冷えやすい谷間の地温を、根が最も活発に活動できる適温(約二十度)に保ち続ける。

いわばサンは、歩く「移動式の天然温室」であり、「生きた太陽」そのものだった。


「王都の軍事特区の連中は、この力を『攻撃魔法が使えない役立たず』と切り捨てた……。だけど、命を育てる農業にとって、これほど尊く素晴らしい力はないよ!」


ティルは確信を込めて呟いた。


その時だった。


光を放ち終えたサンが、ハッと我に返ったように耳をペタリと倒した。

そして、恐る恐るティルを見上げながら、おずおずと後ずさりしたのだ。


「ご、ご主人様……? ぼく……変な光を出して、畑をびっくりさせちゃったワン……?」


サンの琥珀色の瞳に、不安と怯えの色が差していた。

「ぼく……また、いらないことしちゃったワン……? 怒られる……ワン……?」


軍事特区で、光を出すたびに「目障りだ」「役に立たない光を撒き散らすな」と怒鳴られ、蹴飛ばされてきた過去の記憶。

そのトラウマが、ふとした瞬間に小さな胸を締め付けてしまうのだ。


ティルは胸を痛め、すぐに膝をついて両手を広げた。


「サン、おいで!」


「くぅ……?」


サンが小走りで駆け寄ると、ティルはその小さな身体をぎゅっと力強く抱きしめた。

そして、泥の落ちたふわふわの黄金色の頭を、両手で優しく包み込むように撫でた。


「怒るわけがないだろう! 怒るどころか、とんでもない大活躍だよ!」


ティルはサンの額に自分の額をコツンと合わせ、満面の笑顔を向けた。

「見てごらん、サン。君の優しい光のおかげで、昨日蒔いた野イチゴが芽を出して、豆やお大根がこんなに元気に育ったんだ。君の光は、命を育てる最高の力だよ!」


「わ……ワン……!?」


サンは丸い目をパチクリと瞬かせ、ティルの腕の中から畑を見つめた。

青々と輝く大根の葉。元気に支柱を登る豆のツル。そして、黒土から顔を出したばかりの小さな野イチゴの芽。

そのすべてが、サンの放った光に抱かれて、嬉しそうに朝風に揺れていた。


「旦那の言う通りッスよ、サン!」


モグが駆け寄り、前足でサンの背中をガシガシと撫でた。

「俺の掘った土も、サンの光でポッカポカッス! 最高の弟分ッスよ!」


「そうピョ! アタシの水とサンの光が合わされば、ここは世界一の農園になるピョ!」


ピピもサンの頭の上に止まり、優しく頭の毛を突いた。


「サンちゃん、すごーいぷる! 畑がピカピカぷるぅ!」


ぷるも足元でぽよんと跳ねて歓声を上げる。


「……ふん。わたくしの堆肥の力を上手に引き出してくれたことだけは、褒めてあげてもよくってよ。……メェ」


ベルも澄ました顔をしながら、首元の鈴をカランと誇らしげに鳴らした。


仲間たち全員の賞賛と温もりに包まれて、サンの瞳から、大粒の涙がポロポロと零れ落ちた。


「うわぁぁぁん……! ぼくのひかり……役に立ったワン……! 怒られなかったワン……! ご主人様、みんな、ありがとうワン……!!」


サンはティルの胸に顔をうずめて泣きじゃくり、それから、ちぎれんばかりに尻尾をブンブンと振り回した。

体内の太陽の核が、心の底からの喜びと誇らしさでカッと温まり、サンの全身から、より一層澄み渡った優しい金色の光がぽかぽかと立ち上っていく。

ピンク色の舌を出してハァハァと息を弾ませ、ティルの顎を熱烈に舐め上げた。


「よし! サン、君に開拓地の大切な役目をお願いしてもいいかい?」


ティルが優しく涙を拭いてやると、サンは耳をピンと立てて胸を張った。


「なんでも言ってほしいワン! ご主人様のためなら、ぼく、なんでもするワン!」


「君に、この農園の『太陽の見張り番』をお願いしたいんだ。畑の周りをパトロールして、日当たりが足りない場所に、君の温かい光を届けてほしい」


「わかったワン! ぼく、太陽の見張り番ワン! まかせてほしいワン!」


サンは嬉しそうに「わほっ!」と一声吠え、元気いっぱいに畑のあぜ道をパトロールし始めた。


トコトコと軽快な足取りで畝の間を歩き、日陰になりがちな岩壁のそばで立ち止まっては、胸の太陽の光をふわりと広げる。

モグがサンの足が汚れないようパトロール用の小道を爪で綺麗に均し、ピピが上空から誘導し、ベルとぷるが見守る。

その足元で、野イチゴの芽が気持ちよさそうに葉を広げ、豆の花がふっくらと開花に向けて準備を進めていた。


「ふふ、本当に頼もしい見張り番ができたね」


ティルは手桶に冷たい湧き水を汲み、広場の木陰にサンのための水飲み場と、小さな日除けの寝床を整えてやった。


サンは手桶の冷たい湧き水をペロペロと美味しそうに飲み干すと、満足そうに鼻を鳴らし、ティルの長靴の上に前足を乗せてちょこんと座り込んだ。

足元から伝わってくるのは、まるで小さなストーブのような心地よいぬくもり。

冷えやすい夕暮れの荒野にあって、この温もりは何物にも代えがたい安心感を運んでくれる。


初夏の爽やかな青空の下、大地の豊かな黒土と、清らかな水路のせせらぎ。


土を掘るモグ。

水を司るピピ。

土を育てるぷる。

草を刈り、肥やすベル。

そして、光と熱を届けるサン。


五匹の魔物たちの力が完全に結びつき、開拓地の農園は、誰も見たことのない理想的な調和と実りの季節を迎えようとしていた。



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