第6話:大いなる旅人たちの雪の街を訪ねて
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「本当に? 異世界から来たっていうのか?」
キルヴァーは、まるでありふれた日常の一コマであるかのような涼しい顔で俺を見た。
彼の反応は、俺が期待していた「大いなるカミングアウト」へのリアクションとは真逆のものだった。
「ああ、そうなんだ……別の次元から来た。だけど、ちょっと待ってくれ。それって、この辺りじゃよくあることなのか?」
キルヴァーは答えるまでに少し間を置いた。まったく驚いている様子はない。
対照的に、ハナとカイトは猫のような好奇心に満ちた視線を俺に突き刺していた。
「まあ……」キルヴァーはうなじを掻きながら言った。「個人的には、面と向かって『転移者』に会ったのは初めてだ。だが、アルバードの爺さんは違う」
俺はすぐにその老人に顔を向けた。
「それ、本当ですか、アルバードさん?」
「ああ、本当だ」アルバードは頷いた。「かつて、額に二本の角が生えた冒険の相棒がいてな。そいつが転移者だった」
……。
(なるほどな。俺は特別なケースってわけじゃないんだ。そんなところでさえ、唯一無二の存在になる喜びを与えてはくれないらしい)
だが、どうしても腑に落ちないことがあった。
「どうしてそんなに簡単に信じるんです? 嘘をついている可能性だってあるのに」
キルヴァーが不敵な笑みを浮かべた。
「この辺じゃ、そんな嘘をつく奴はいないんだよ、エリオット。なぜなら……転移者ってのは、あまり幸せな結末を迎えないからな」
「幸せじゃない、結末……?」
その言葉に、胸の中に嫌な後味が残った。
気づけば俺たちは別の部屋に移動し、暖炉の温もりに包まれながら、アルバードやキルヴァーと話をしていた。
「あの頑固者は、最後まで本名を明かそうとしなかったな」アルバードが説明する。
「だから冒険者時代は、シンプルに『ツノ』と呼んでいたよ」
本名を隠す? もしかしたら、ツノには元の世界で複雑な過去があったのかもしれない。 興味を惹かれた俺は、質問するために手を挙げた。
「ああ、何でも聞いてくれ、エリオット」アルバードが促す。
「ええと……ツノとあなた、正確には何をしていたんですか? 元の世界に戻る方法を探していたりしたんですか?」
「まさか」アルバードは即答した。
「ツノは、元の世界から引っ張り出されたことを面白がっていたよ。よくそのことで冗談を言っていた。家族との関係が最悪だったって、いつも口にしていたのを覚えている」
……。
その点に関しては、ツノは俺とは違っていたのだろう。 それに、小説の読みすぎで、俺は「魔王を倒す」とか「帝国を救う」といった使命を背負って召喚されるお決まりの勇者像に慣れきっていた。一方の俺には、神からのお告げもなければ、チート能力もない。 むしろ、この完全な目的の欠如こそが、俺を「唯一無二」にしているのかもしれない。
「じゃあ、ツノには何か伝説的な使命とかはなかったんですか?」
アルバードは目を細めた。その深い皺と疲れた眼差しが、急に神秘的な雰囲気を醸し出す。
「もちろん、使命はあった。非常に重要で、伝説的なものがな……」
その声のトーンに、俺の肌に鳥肌が立った。
……。
「それは……何だったんですか?」俺は唾を飲み込んで尋ねた。
……。
……。
……。
(おいおい、どれだけ壮大な使命だからって、そんなに勿体ぶる必要があるのか?)
俺の脳内はすでに妄想でいっぱいだった。ツノが姫を救い、ドラゴンを討伐し、世界の闇を払うために熱いスピーチをぶちかます姿が浮かぶ。
……。
……。
「そいつの使命は……ワシを笑わせることだった」
……。
……。
俺のファンタジー脳が、一瞬にして崩壊した。
「なるほどな」キルヴァーが口元を緩めて言った。「その答えにがっかりしたのが、俺だけじゃなくて安心したよ」
「黙れ」俺はアルバードに吐き捨てた。
俺のそのリアクションを見て、老人はこらえきれなくなった。豪快に大笑いし始めたかと思いきや、急にむせて激しく咳き込みだした。 因果応報が秒速で彼を襲うのを見ておかしくなり、俺も笑い出したが……案の定、俺も自分の唾でむせる羽目になった。 キルヴァーは、苦しそうにのたうち回る俺たち二人を、助けるそぶりすら見せずに冷ややかな目で見つめていた。
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ようやく息を整え、俺たちは話を再開した。
「じゃあ……あんたたち二人は、ただの仕事もしないろくでなしコンビだったってわけですね」
アルバードは不満げに鼻を鳴らし、腕を組んで俺に背を向けた。 まあ、働いていない人間のことをとやかく言える身分じゃ、俺もないんだけどな。 俺はキルヴァーに話しかける方が賢明だと判断した。
「キルヴァー、ツノがどうやって死んだか知ってるか?」
青髪の青年は、一瞬考え込んだ。
「そうだな……」
「アルバードさんは、凍死したって言ってた」俺が口を挟む。「粉々に砕け散るほどに」
アルバードは俺の視線に気づくと、苛立たしげにため息をつき、それ以上詳細を語るのを拒んだ。
「俺……自分がどうやってここに転移してきたのかすら、覚えてないんだ」俺はため息混じりに打ち明けた。
キルヴァーが横目で俺を見た。
「最後に覚えていることは?」
「ええと……母親に『行ってきます』って言って、インスタントラーメンを買いに出かけたこと、かな」
その話題には触れたくなかった。郷愁は胸を締め付ける。だが、みんなに信頼してもらうために心を開く必要があるなら、そうするつもりだった。
「エリオット」キルヴァーが呼びかけた。彼の冷ややかな笑みが、今は不思議と温かく感じられた。
「まだ言わなくていい。それは、全員が集まった時のために取っておけ」
彼の言う通りだ。彼の気遣いに感謝しながら頷き、俺は休むために立ち上がった。
「それじゃ、おやすみなさい、アルバードさん。おやすみ、キルヴァー」
眠りにつく前に、この奇妙な隠れ家をもう少し探索しようと通路へ出た。 この場所の構造はかなり風変わりだった。普通の扉から入るのではなく、街のポータルとして機能している、あの大きなルーン文字の刻まれた岩「モノリス」を通って入るのだ。
メインホールは巨大な石の球体のような空間だった。右手には2階へと続く階段があり、そこは古い本が詰まった本棚が並ぶバルコニーのようになっていた。 そのホールから伸びる長い廊下の両側には、それぞれ10個ずつの扉が並んでいた。扉の奥にはそれぞれ役割を持った部屋があるようだったが、その大半は魔法で封印されていた。
開放されている6つの部屋を回ってナナミを探したが、5分ほど探しても彼女の姿はどこにもなかった。 すっかり疲れ果て、諦めて寝ようとしたその時、キルヴァーが俺の横を通り過ぎた。
「おやすみ、エリオット」
青髪の彼はそのまま2階へと上がっていった。どうやら上階を個室にしているらしい。 空いている部屋に入って眠ろうと振り返った、その瞬間――
「ばぁ!」
襲いかかる睡魔のせいで、俺はかろうじてしか反応できなかった。
「それ、やるの二回目だぞ。俺を心臓麻痺で殺す気か?」
目の前で悪戯っぽく笑っていたのは、アルバードの孫娘だった。認めざるを得ないが、彼女はかなり美少女だ。その鼻につく態度が台無しにしていることが多いが。
「あんたを心臓麻痺にさせて、私に何の得があるのよ! 私はただ、ちょっとからかいたかっただけ!」
「大成功だよ、おめでとう。だからもう寝かせてくれ」
そのまま通り過ぎようとしたが、彼女が相手だとそう簡単にはいかない。
パシッ!
彼女が俺の頬に強烈な平手打ちを食らわせ、俺はそのまま床に倒れ込んだ。
「一体何するんだよ!?」俺は頬を押さえながら抗議した。
「まだ行かせないわよ! おじいちゃんとの話が終わるのをずっと待ってたんだから。あんたに見せたいものがあるの!」
「一体何なんだよ……」俺はうめいた。まあ、おかげで一瞬で目が覚めたが。
彼女は俺が立ち上がるのを手伝うと、廊下の部屋の一つに向かって走り出した。
「ほら、ついてきて!」
彼女の後を追って部屋に入った。中は真っ暗で、開いた扉から差し込む光だけが頼りだった。
……。
……。
突如、アルバードの孫娘が床に四つん這いの姿勢をとった。 彼女が身につけていた白い白衣がまくれ上がり、目の前で彼女のお尻がかなりきわどい角度で強調される形になった。
(おい、ちょっと待て……何なんだこれ……!?)
彼女が肩越しに俺を振り返った瞬間、猛烈な羞恥心に襲われた俺は慌てて視線を逸らした。なぜ彼女は俺をここに連れてきて、こんなポーズを取っているんだ?
文句を言おうと口を開きかけたその時、彼女の手元で魔法陣が輝き出した。 部屋中が、目を眩ませるほどの強烈な光で満たされる。
目を開けると、そこはもうあの石の隠れ家ではなかった。広々とした、豪華で、まったく異なる部屋が広がっていた。 そして、それだけではなかった。
「……で、そいつは誰?」
低い声がした。 部屋の向こう側、ソファに腰掛けた俺たちと同世代くらいの少年と少女が、いかにも不機嫌そうな顔でこちらを睨みつけていた。
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