第1話—さようなら、お母さん
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あの路地裏の暗闇の中、たった一人で、僕は指先でその滑らかな表面に触れた。
「冷たいな……」
頭の中で何かを反芻するように、何度も瞬きをした。いまいち、よく分かっていない何かを。
「じゃあ、これで全部解決するんだね?」
……
「分かった、受け入れるよ」
……
路地裏のすべての暗闇が僕を包み込んだ。僕の身体を、僕の意識を、その暗闇が……
「僕を飲み込んだ……」
……
……
……
(本当に気絶したのか? いや、違うと思う)
……
……
……
(思考はできる、でも……身体の……感覚が何もない)
……
……
……
(何だ、あれは……?)
……
……
……
「見つけた」
……
……
……
(何で僕の服、濡れてるんだ? いつから雨が降ってたんだ?)
……
「あいつ、頭がおかしいんじゃねえか」と、見知らぬ声が聞こえた。
大分遅くまでゲームをして目覚めた時のように、 identity瞼が何トンもあるかのように重かった。
「え?」
唾を飲み込み、目を開けた。今度は地面が違っていた。もっと固く、もっと無骨で、そして、すべてが濡れていた。
「雨が降ってる……どうして気づかなかったんだ?」
激しい雨のせいで、数メートル先も見えないし、音も聞こえなかった。でも、気づくにはそれで十分だった。それだけで、十分だったんだ。
「嘘だろ……」と、僕は膝をつきながら呟いた。
僕の視線は周りを取り囲む人々を彷徨った。群衆だ。多すぎる。誰もが僕にまともな関心も向けず、通り過ぎていく。
「嫌だ……嫌だ……嫌だ……」
猫耳、牙、ローブ、尻尾。間違いなかった。そして、その事実が僕をさらに怒らせた。
……
指が折れそうになるほど強く拳を握りしめた。でも、そんなのどうでもよかった。握るのをやめる理由にはならなかった。そして、僕は地面を殴り始めた。
「嫌だ……」
右拳でもう一発。拳の関節が熱く疼いた。こんなの望んでない。
「頼むから……」
左手の側面でもう一発、ちょうど小さな水溜りがある場所を叩いた。水飛沫が顔全体を濡らした。大嫌いだ、こんなの。
「嫌なんだよ……」
「頼むから……」
ファンタジー小説なんて、異世界転移ものなんて、あんなにたくさん読むんじゃなかった。心底後悔した。
「神様……お願いだ」
……
さっき、ヒチクの問いに答えた時は、自分の言葉に確信を持っているつもりだった。これ以上ないほど間違っていた。なんて浅はかだったんだろう。
転移すれば、もしかしたら自分の問題がすべて解決するかもしれないなんて思っていた。転生すれば、もう一度生き直すチャンスになるかもしれないなんて。本当に、愚かだった。
ブーツは地面を踏み鳴らし続け、雨は降り注ぎ、群衆は僕の周りを通り過ぎていく。世界は動き続けている。僕に起きていることなんて完全に無視して。僕の世界だけが、止まっていた。
……
「おい、ガキ。地面にへばりついてんじゃねえよ、通行の邪魔だ」
涙と鼻水に塗れながら、僕は声をかけてきた相手の顔を探した。そこにいたのは、その声の主だった。ハゲ頭で、いかにも荒くれ者といった風貌の、人生の全盛期はとっくに過ぎたように見える男だった。僕は一言も発さず、四つん這いで這いずり回り、彼の方へと進んで、彼のズボンの裾を力任せに掴んだ。
「おい、聞いてんのか? 立ち上がれよ」
「嫌だ……頼むから、嘘だと言ってくれよ」と、僕はまだ彼のズボンを引っ張りながら言った。
「お前、大丈夫か?」
……
「ほら、手を貸してやるよ」
……
彼の助けを受け入れるべきだろうか? いや、彼に僕を救えるわけがない。今頃、僕はラーメンの並んだ棚に囲まれているはずだったんだ。
「いえ……大丈夫です」
地面から立ち上がり、男の目を見ないまま、両手の甲で鼻水と涙を拭った。
(どうやってここに来たんだ……?)
誰も説明してくれなかった。
男の目を見た。彼も僕を見返してきた。その目は、憐れみを含んでいるようだった。だから、彼の心配を和らげようと、僕は笑ってみせた。笑って、彼の肩をぽんぽんと叩いた。男はまだ僕を見ていた。今度は困惑しているようだったが、そんなことはどうでもよかった。僕は寝返りを打ち、気づけば群衆の中に紛れ込んでいた。
歩いているうちに、別の変化に気づいた。幸い、それは世界の変化ではなく、僕自身、つまり服装の変化だった。
群衆の押し合いへし合いからようやく抜け出した時、すぐに自分の姿を映せるものを探した。
今、古めかしい中世の衣服店の窓の前に立ち、自分の身体を隅々まで観察し始めた。頭から足の先まで。変わっていなかった。足首のあたりまでは。そこから、黒くて、長くて、とても洗練されたローブが始まっていた。言わせてもらえれば、かなり僕好みのスタイルだ。それが僕をさらに混乱させた。
自分の映る姿をもう少し見つめた後、また歩き出した。
……
……
……
(母さんの料理のご飯……?)
その湿気の中に、どこか懐かしい匂いが混ざっていた。でも、それが「母さんの料理」であるはずがない。そんなの不可能だ。
匂いを辿っていくと、一つの窓の前に行き着いた。内側と外側の温度差のせいで、少し曇っている窓。
「これ……何て言うんだっけ……あ、酒場だ」
僕の目は、中の人々を値踏みするように動いた。この現実の、ほんの小さなディテール、ほんの小さな綻びでも捉えようとして。
「猫耳、牙……」
すべてが一貫していて、一つのエラーもなかった。それが僕をさらに追い詰めた。
引きこもり時代にたくさんの小説を読んできたから、この瞬間が来たら両手を広げて歓迎するだろうと思っていた。でも、いざ自分がそれを経験するとなると、もう同じようには思えない。これは「第二のチャンス」なんかじゃなく、ただの足枷にしか思えなかった。
ガラスから手を離し、左へ曲がって、一歩を踏み出した。だが、まともに足を着く前に、眉間に強烈で冷たい衝撃を感じた。
そのまま、仰向けに地面に倒れ込むしかなかった。
……
「ねえ、私の弟を見なかった?」
……
(この女、頭おかしいんじゃないか?)
目の前に立っている少女を見た。僕の頬を熱く火照らせ、眉間にこの痛みを引き起こした張本人のようだ。
彼女の青い瞳は、僕が視線を逸らした時、僕の目を探っていた。
「見てないんだね」
僕が答える時間さえ与えず、彼女は僕をそこにひっくり返したまま、酒場のドアを開けて中に入っていった。僕を完全に一人、火照る頬と共に残して。
「何なんだよ、あいつ」
膝に手を当てて、立ち上がった。
立ち上がった次の瞬間、激しい雨のせいで聞き取りにくかったが、遠くから石畳を踏み鳴らす革のブーツの音が、僕の方へと向かってくるのが聞こえた。振り返りもせず、僕はただ走り出した。
5分ほど走った後、走りながら後ろを振り返った。
さっきのハゲ頭の男が、奴らと一緒にいた。
(僕が何をしたって言うんだ、何で追いかけてくる?)
……
走りながら、ある路地裏の横を通り過ぎた。
路地裏をちらりと盗み見ると、二人の男と、奥に一人の少年が見えた。僕より年下に見えた。
立ち止まって見ることも、ましてや助けることもしつけず、僕は走り続けた。
しばらく走った後、息を整えるために立ち止まり、壁にもたれかかった。
ようやく後ろを振り返る。
……
「撒いたか……。あいつら、あの路地裏に留まったんだな」
あの路地裏で何が起きていたのかは正確には分からない。でも、きっとあの少年が関係しているのだろう。あの男たちが僕を追うのをやめて、そこに留まるほどには、十分に悪いことが。
「僕が突然現れたから追いかけてきたのか……」
分からなかったが、今のところそれが一番論理的な説明に思えた。僕の到来は派手でも大騒ぎするようなものでもなかった。だから、目的を持った何かというよりは、現実の裂け目のようなものだったのだろう。
(目的……)
少し考えた後、恐ろしい矛盾に気づいた。誰からも目的を与えられた記憶がなかった。自分の人生で何をすべきか、ずっと分からなかった。そして今、異世界にいる。間違いなく、それが僕を苦しめることになるだろう。
この騒動から頭を冷やしたいと思い、顔を上げた。
目を上げると、遠くに城の白い城壁が見えた。
「城だ……」
……
正直に言って、とても美しい城だった。本物を一度見てみたいと思っていた。でも、これが最高の「初めて」ではなかったことは確かだ。
城はいつも、優雅さ、秩序、そして権力を感じさせた。すべてが等しく、非常にうまく計算されていて、僕はそれが好きだった。自分に欠けているものすべてがそこにある気がしたから。
城の正門に目を留めると同時だった。
そして、一歩を踏み出した。
城が、粉々に爆発した。
……
遠くでガラスが割れる音が響き、それと同時に巨大な衝撃波が僕に向かって押し寄せてきた。僕はただ呆然とした表情を浮かべることしかできず、その瞬間に衝撃波が僕を直撃した。
内臓が激しくかき混ぜられるのを感じた。胃液をぶちまけないように必死に耐えたが、無駄だった。足の力が抜け、地面に膝から崩れ落ちた。顔が石畳に激突するのを防ごうとしたが、腕の力も入らなかった。すべての力が失われていた。
「くそっ……最悪だ……」
痛い、痛い、痛い、痛い。死ぬ、死ぬ、死ぬ。
間違いなく死ぬ。頬に触れる石畳の感触が、それを思い出させていた。爆発に巻き込まれた人たちも全員、きっと死ぬだろう。爆発の近くにいた人たちは、何が起きたかも分からずに死んだはずだ。僕はそんなに幸運じゃなかった。
震える手で頭を押さえようとした瞬間、視界が赤く染まり、耳を刺すような高い金属音が頭を満たした。それを静めようと、僕は頭を地面に何度も打ち付けた。
「くそ……、この――」
言い終わる前に、口から大量の血が噴き出した。歯を食いしばり、呼吸をしようとした。
息を吸った瞬間、自分の血で溺れそうになり、恐怖に駆られて必死に息を吸い、吐いた。
(死ぬ……嫌だ……母さんに、もう一度会いたい……)
……
肺の中にどんどん血が溜まっていく。もう後戻りはできなかった。限界点、いや「デッドエンド」に行き着いてしまったのだ。実のところ、この世界に辿り着いた瞬間から、そこに行き着いていた。
……
肺が自分の死の色である赤で満たされていく中、僕の目はそれを見ていた。自分の死を。その一瞬、取るに足らない一瞬の間に、僕の精神、僕の脳は、僕を安心させ、リラックスさせようと、最後の足掻きを見せた。記憶を呼び起こしたんだ。
記憶。
「すぐ戻るから、一緒にラーメン食べよう。待ってて」
一瞬の記憶。
「また明日ね」
……
目まぐるしく。
……
あまりに速くて、僕の意識を消し去っていった。僕を疲れさせ、すり減らし、初めてそれを経験した時のように僕を窒息させた。
「一緒に行く?」
……
「行きたい? 行くよ、一緒に行く」
安らぎを感じた。でも……どうしてだ? 僕はまだ人生の目的を見つけていない。何をすべきかも分からない。母さんのところにも戻っていないし、バカだったことを謝ることすらできていない。なのに……どうして安らぎを感じるんだ? 僕に安らぎを感じる権利なんてあるのか?
死ぬ直前、脳は人生で最も重要だった瞬間、最も苦しかった瞬間、最も美しかった瞬間を再生すると聞いたことがある。なら、どうして今、安らぎを感じているんだ? 僕の人生はすべて無駄だったはずだ。少なくとも、僕はそう思っていた。
極めて、極めてゆっくりと、僕の意識と、僕という存在のすべてが、その安らぎに包まれていった。その、どこか強制されたような安らぎに。
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