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プロローグ—感動的な別れ

皆さん,こんにちは!この物語に目を留めていただき、本当にありがとうございます。

誰もが一度は、すべての問題から逃げ出したいと考えたことがあるのではないでしょうか。他の世界へ逃避すること――多くの人にとってそれはただの夢に過ぎませんが、エリオット・ウォードにとっては、それが唯一の救いのように思えたのです。

これは、自らの心の嵐に囚われた少年が、運命のいたずらによってルールの一変した場所へと辿り着く物語です。しかし、過去の亡霊たちはどこまでも彼に付きまといます。果たしてその新世界は、彼にとって救済なのか、それとも欺瞞(ぎまん)なのか。

『第一章:新世界の欺瞞』へようこそ。彼が何を見つけるのか、ぜひ最後まで見届けていただければ幸いです。

□■■■◇■■■□



さて、どこから話せばいいんだろう? 多分……いや、別にいいか。僕の人生なんてどうでもいい。


エリオット、エリオット・ウォード。それが僕の名前だ。自分が持っていて、本当に良かったと思える数少ないものの一つ。両親がくれたものや、これまでの人生で得たすべてには本当に感謝しているけれど、正直、僕なんかじゃなく他の誰かに与えられた方が良かったんじゃないかと思っている。数々のチャンス、自由、有り余る時間……。

僕のような惨めな人間にこれほどのものがあっても、完全に持ち腐れでしかない。


僕は平成の時代に日本で生まれた。佐藤明里(さとう あかり)とバベル・ウォードという、本当に素晴らしくて優しい両親の息子として。亡くなった父は世界中にいくつもの会社を持っていたけれど、僕はそれが実際にどんな仕事をしていたのかさえ、気にかけるだけの殊勝さも持ち合わせていなかった。そのことを悔やんでいる。これまでの自分の人生、そのすべてを後悔している。


友達もいたし、子供の頃には恋をする機会だってあった。だけど、結局のところ僕は一人になった。母さんと、父さんと、僕だけ。学校には通い続け、努力も続けていたけれど、それでも周りの人間にとって僕は透明人間のように見えているらしかった。


そして、父さんが亡くなった今、クラスメイトたちが前より遠巻きに接してくるようになったり、ただちょっと僕をからかうためだけに近づいてくるようになったのを感じている。だから、少しずつ生きる気力を失っていき、好きだったことや、すべての夢、すべての目標……そのすべてをゴミ箱に捨ててしまった。


……


ある夜のこと。何時かも気にせず、オンラインの友達と一緒に朝方までビデオゲームに没頭するような、そんな夜の一つだった。女の子のような声をした僕の友達、ヒチクがこう言った。


「ねえ、OWWNK。もし異世界に行けるとしたら、行く?」


……


僕はほんの数瞬、手を止めて考えたけれど、答えは自然と口から出た。


「間違いなく行くよ」


「バカ言わないでよ!」


どうして僕がこの世界に留まらなきゃいけないんだ? 母さんがひどく落ち込んでいて、今すぐ僕の支えを必要としているわけでもない。そんなの、僕には本当にどうでもいいことだ。


「よし、決まった!」


僕の指がスマホの光る画面を3回タップした。すると、そのゲームで勝利を意味する電子音が響いた。病みつきになる勝利。僕が抱えていたような重苦しい瞬間において、麻酔のように機能してくれる勝利。


「やった! クリアしたね!」


「ああ……クリアしたよ……」


僕はそう呟き、スマホを置いて両手の甲で目をこすった。


「OWWNK、もう夜が明けてるよ!」


僕は友達の言うことが本当かどうか確かめるために顔を上げた。確かに、薄いカーテンの生地を通して朝の光が差し込んでいた。もう夜明けだった。気分が沈みすぎていて、気づきもしなかった。


「あ、クソっ……」


と、僕は苛立ちを覚えて目をこすりながら呟いた。


「どうしたの?」


「何でもない、もう行かなきゃ」


「え……」


別れの挨拶もさせずに、僕は通話を切った。夜遅くまで起きているのを見つかって、これ以上母さんを怒らせたくはなかった。


「はぁ……」


僕は毛布を首元まで引き上げながらため息をついた。


『5時間か……惨めだな』


ゲームを終えたその夜明けには、静寂が広がっていた。けれど、それは普通の静寂ではなかった。気まずい静寂。すべての悪いことを思い出させるような、もう誰かがいないのだと突きつけてくるような、そんな静寂。

泣こうと思えば泣けたかもしれないし、きっと泣きたかったのだろう。だけど、疲れすぎていた。それが自分に腹を立てた。泣くことさえできないなんて。僕は少し苦い表情を浮かべたまま眠りについた。


……


……


……


「エリオット、起きて、あなた」


『そう、それが僕の名前だ……。そして、これは僕が愛する人、母さんの声だ……』


「どうしたの、母さん……?」


目をあけると、それが見えた。母さんの顔、その皺、垂れ下がった目。彼女のすべてが、僕に冷酷な現実、僕の冷酷な現実を思い出させた。


「もう随分遅いわよ、何か食べないの?」


「お腹空いてない」


……


僕の言葉を聞くと、母さんはベッドの脇に腰掛け、その細くて温かい指を僕の額に置いた。


「エリオット。お父さんのことで辛いなら、私に言ってちょうだい。力になるから」


僕は首を横に振り、込み上げてくる涙を必死に堪えながら、毛布を強く握りしめた。


「私たちは一緒に乗り越えるのよ」


母さんの目を見ることができなかった。彼女を見ることはすべてを、すべての悪いことを思い出させる。だから僕は別の場所に目を向けた。


「大丈夫、元気だから」


無意識のうちに、僕の手は額にある母さんの手を探し、それを軽く愛おしそうに撫でた。母さんは微笑み、彼女の指が僕の手を包み込んだ。その瞬間、彼女は頷き、ベッドから立ち上がって部屋を出て行った。


『僕はどうすればいい……?』


天井を見つめながら、ベッドの空いている側でスマホを探した。3回目でようやく掴むことができた。そして、スマホを目の前に掲げ、画面を点けた。


「1時……30分か……」


僕は目を細めながら、画面に表示された時間を呟いた。

これ以上時間を無駄にしないよう、毛布をはね除けてベッドから起き上がり、部屋を出た。


2階の廊下を歩き、短く遅い歩みでわずか5歩。洗面所のドアの前に着いた。中に入り、洗面台の前に立って蛇口をひねる。水が勢いよく流れ出し、止まることなく、途切れることなく流れ続けた。


……


『どうして僕は、同じように流れることができないんだろう?』


……


当然だ。僕のような状況にあれば、誰も「流れる」ことなんてできない。僕は立ち往生していた。底の見えない感情の沼に嵌まり込んでいて、深く沈めば沈むほど、光が届かなくなる。普通の人間なら、自分の力で気分を盛り上げようとするのだろう。だけど、『こんな惨めな人間に、元気を出すことなんてできっこない』。


……


鏡に映る自分を見つめながら、歯ブラシを左右に動かし、前夜の食べ残しを落としていく。ブラシを動かせば動かすほど、泡がゆっくりと作られていった。

汚れを落とし終えた後、歯ブラシの毛先を蛇口から落ちる水の下に晒し、親指と水の力を借りて泡をすべて洗い流した。そして、綺麗になった歯ブラシを元の場所に戻した。

両手を合わせて蛇口の水を少し汲み、その水を口に含んで、残りを排水口へと捨てた。口の中の汚れと泡をしっかりと剥がし終えると、水をすべて吐き出した。最後に、鏡に映る自分の姿を見て、歯を見せて笑ってみた。

それから、シャワールームの引き戸に近づき、タオルを手に取って中に入った。シャワーの蛇口をひねると、裸の肌に水が降り注ぎ始めた。僕は額と壁のタイルの間に拳を挟み込んだ。


「父さん……僕はどうすればいいの……? 会いたいよ……」


目は閉じていたけれど、そこから涙が溢れそうだった。泣きたかった、本当に泣きたかったけれど、そんなことをすれば母さんを余計に心配させるだけかもしれない。

洗面所を出たとき、髪は濡れていた。僕はその感覚が好きだ。爽やかで、心地よくて、清潔な気分。だけどあの瞬間、その感覚はただの「感覚」に過ぎないような気がした。


……


部屋に戻り、服を着替えた。その爽やかな感覚を保ってくれる白いタンクトップと、お気に入りの黒くて薄い生地のパンツを穿き、一足しかないサンダルを履いた。髪は梳かしもしなかった。そんな必要は感じなかったし、僕の髪にはいつも自分の意志に反する癖毛があるから、やってみても意味がない。

階段を降りて1階へ行き、玄関のドアノブを掴もうとしたその時、母さんが僕を呼んだ。


「エリ、どこへ行くの?」


母さんはキッチンにいて、おそらく僕のために何か作ってくれているところだった。だから僕はこう答えた。


「コンビニに行ってくる、母さん。インスタントラーメンか何かを買うから、ご飯は作らなくていいよ」


母さんの方を振り返りもしなかった。そうすると胸が痛むから。


「エリ」


ドアノブを引こうとした瞬間に、母さんが再び僕の名前を呼んだ。だから、振り返らずにはいられなかった。


「何、母さん?」


「愛してるわ」


……


「僕……僕も愛してるよ」


ドアノブをそっと引くと、僕の顔に本物の笑顔が浮かんだ。


「すぐ戻るよ。一緒にラーメンを食べよう、待ってて」


……


そうして家を出た。さっきまでの気分を考えれば矛盾しているけれど、胸の奥が喜びで少し弾むのを感じていた。


夏の太陽の光が青白い肌に突き刺さり、強い熱気を感じさせたが、今のところ近くに日陰はなかった。妙なことに、僕が街灯の下で立ち止まると、それが何度も点滅した。


「ん?」


街灯の不具合が収まると、僕は前を見た。通りには完全に人影がなかった。時間と日差しの強さを考えれば無理もないことだ。


「おい……」


見知らぬ声。路地裏から僕を呼んでいるような、そんな声だった。



■□□□□□◇□□□□□■

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