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希望の夜明け

〈翠《みどり》の宿〉の部屋着を着た灯里《あかり》が目覚めると、彼女は自室のベッドの中に居た。もちろん、亡き伯母の薫と一緒に暮らしていたアパートである。

 ベッドの横のサイドテーブルに置かれていたスマートフォンには、今日は【2026年12月29日 7:15】だと表示されているようだ。


 異世界の国から日本に帰ってきて間もないからか、灯里は時差ボケのような状態で、自分のガウンなどを抱えたまま、しばらくボーとしていた。

 数分後に、彼女は何とかベッドから出ると、ドレープカーテンをゆっくりと開けたようだ。


 点々と立っている小さなアパートや一軒家《いっけんや》、薄っすらと雪が積もっている広大な田んぼ、たまに道路を通過する自動車や自転車……。

 柔《やわ》らかな朝日を浴びながら、見慣れた平地にある田舎《いなか》の景色を眺《なが》めていると、ようやく灯里は、少しずつ日本に戻ってきた実感が湧《わ》いてきたらしい。



 ……と、石油ファンヒーターがついていない部屋の寒さに耐えられなくなって、灯里は思わず布団の中に入った。

 ふと再び自分のスマートフォンの画面を見ると、よく使っているSNSのアプリに二件のメッセージが届いていたようだ。



 ✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒

 良江さん:こんばんはm(_ _)m

      もし大晦日《おおみそか》に、あーちゃんの

      体調が良ければ、一緒に家で

      夕飯を食べませんか?


   12月28日(月) 20:56

 ✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒


 一件目の【良江】という名前の女性は、灯里が住むアパートの近所で、夫婦で美容室を営んでいる六十代の女性だ。良江は薫とも仲が良かったため、灯里が小さい頃から世話になっている。



 ✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒

 ゆいちゃん:あかりん、おはよ〜(^o^)

       体調、どんな感じ??

       来月以降でも大丈夫やけど、

       また央柿《おうがき》駅前のパンケーキ

       屋さんに一緒に行きたい

       な〜、と思いまして(*‘ω‘ *)


       なんやけど、ホント落ち着い

       た時に、また返信してくれる

       れると嬉しいな♡


    12月29日(火) 7:03

 ✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒✒


 もう一件の【ゆい】という少女は、小学校からの灯里の幼馴染《おさななじみ》である。灯里と同じ高校に通っているが、福祉科ではなく普通科の教室で学んでいるらしい。



(ああ……、そうか。私、独(・)り(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)ん(・)だ(・))


 薫の死後から孤独を感じていた灯里は、良江とゆいからのSNSの温かいメッセージを読んで、自然と涙を零《こぼ》していたようだ。

 自分の頭に浮かんだ笑顔の良江とゆいを、灯里は衣根《いね》ノ国《くに》で親切にしてもらった〈翠の宿〉の人たちと重ね合わせていた。


 異世界で灯里はしっかりと気分転換ができて、気持ちもだいぶ落ち着いたのだが、薫を失った心の傷を完全に癒《い》やしたり、彼女の死をうまく受け止められることができるようになったりするには、もう少し時間がかかるかもしれない。

 今からが、人生の踏《ふ》ん張り時なのだ。


(良江さんや旦那《だんな》さんの達雄さん……だけじゃなくて、ゆいちゃんにも感謝しないとね。それに、お父さんやお母さんに安心してもらえるよう、身体《からだ》を壊さない範囲で勉強を頑張《がんば》って……。薫伯母さんには、堂々と働くことのできる立派な社会人になった時には、きちんと報告をしよう!)



 これからも負の感情に押し潰《つぶ》されたり囚《とら》われたりして、生きることが辛くなる時期が何度もあるかもしれない。

 だが、血は繋《つな》がっていなくとも、常に『家族』のように温かく迎《むか》えてもらえる隣人《りんじん》が居る。些細《ささい》なことでも気にかけ、変わらず優しく接してもらえる友人が居る。身動きの取れない冬から春を待つ間は永く感じるかもしれないが、そのような自分を支えてくれる人たちの存在を忘れなければ、きっと生きていくための目標や夢を見失わずに、明るく前向きに過ごしていくことができるだろう。



 自分の将来に思いを巡《めぐ》らせ終えると、灯里は泣き疲れたからか、強い眠気を感じたようだ。

 目の前のことは眠気がスッキリしてからにしようと、灯里は一旦《いったん》昼頃まで、懐かしいベッドの中で眠ることを決めた。その後、彼女はスマートフォンの目覚まし時計のアプリで、午後十二時にベルが鳴るようセットしたのだった。


(直匡《なおまさ》さん、とてもステキな人だったな……。

 って、まずは少しずつ宿題を片付けないと! あと、SNSの返信もぼちぼち考えて、忘れないうちに送らないとね。……ふあぁぁ~)

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