第4話 こんな店が本当に実在するらしい
さすがに撮影会はイヤだという事で、渋々接客をする事にしたノア達。
「じゃあ次にお客が来たら、ノアちゃん接客してみて」
「い、いきなり余から行くのか⁉︎」
「ノアちゃんは今朝からずっとメイド服着てたんだから、他の2人よりはまだ羞恥心が少ないでしょ?」
「いや、だからと言って別に平気な訳では……」
「じゃあ撮影会する?」
「わ、分かったわい! 行けばいいんじゃろ!」
そして程なくして、新たな客がやって来る。
「ほら! 来たわよノアちゃん!」
「う、うむ……」
緊張している様子のノアに、店長がアドバイスをする。
「ノアちゃん! 別に無理にニーナのやり方を真似なくてもいいんだからね? ノアちゃんらしくよノアちゃんらしく!」
「む⁉︎ 余、らしくじゃと⁉︎ 良かろう! ならば好きにやらせてもらうわい!」
店長のひと言で緊張が解けたのか、意気揚々と客の元へと向かうノア。
「自分らしくなんて言って、大丈夫なんでしょうか?」
「まあ、少々変な事言っても、そうゆうキャラなんだと思ってくれるでしょ?」
「だといいんですが……」
少し気弱そうな男性客の前に立ったノアが、手を腰に当てながら言い放つ。
「帰って来おったか! 下僕よ!」
ズッコケるニーナ達。
「え⁉︎ あ、はい」
まさかの対応に、客も戸惑っていた。
「ほれ! 席に案内してやるから、余についてまいれ!」
「あ、お願いします」
言われた通りに、ノアの後ろを大人しく付いて行く客。
「店長さん! いいんですか⁉︎ あれ!」
「ま、まあお客様も怒って無いみたいだから、もう少し様子を見ましょ」
席に座った男性客に、注意事項を伝えるノア。
「先に断っておくぞ⁉︎ 余の許可無しに、余に触れたり勝手に写真を撮りおったら、地獄の底に送ってやるで覚悟しておれよ?」
「ハ、ハイ! そんな事は致しません! と、ところであなたのお名前は?」
「余か? 余は魔王にょあああー‼︎」
いつものように肩の激痛でうずくまるノア。
「だ、大丈夫ですか?」
「も、問題無い! この猛禽類めが少々凶暴なのでにゃあああー‼︎」
再び激痛にうなだれるノア。
「そのフクロウさん可愛いですね⁉︎ お名前は何て言うんですか?」
「バカウルにゃあああー‼︎ ウ、ウルじゃあああー‼︎」
「ウル? 勇者ウル様と同じ名前なんですね⁉︎ あ、そうか!」
何かに気付いたように、男性客がポンと手を叩く。
「そのフクロウが勇者ウル様で、あなたが魔王ノアールなんですね⁉︎」
「何っ⁉︎」
『ホッ⁉︎ まさか俺達の正体に気付いたというのか⁉︎』
「そうかそうかー! つまり2人は前世の因縁から、フクロウと女の子に生まれ変わって今を共に生きてるっていう設定なんですねー?」
「は? 設定?」
「もういきなりだったんで戸惑いましたよー! では、魔王ノアール様! よろしくお願いします!」
(な、何だかよう分からんが、こ奴勝手に勘違いしておるようじゃぞ?)
『ホウ。客が納得しているのなら、そういう事にしておこう』
「う、うむ。では注文を言うのじゃ!」
「ハイ! では、爆裂アイスコーヒーをお願いします!」
「爆裂?」
(何が爆裂なんじゃ?)
『ホー? サイダーか何かで割ってるんじゃないのか?」
意味は分からなかったが、とりあえず注文を受けるノア。
「うむ。では少々待っておれ」
「ハイ!」
戻って来たノアを、グーサインを出して出迎える店長。
「凄く良いわよノアちゃん! 咄嗟に魔王キャラになりきるなんて、ナイスよ!」
「いや、キャラと言うか、余は普段通りにやっただけなんじゃが?」
「ああ、なるほど。そういう年頃なのね〜? だから全然違和感無かった訳だ。実に良いわ〜! お客が爆裂アイスコーヒーを頼んで来た事が、ノアちゃんのキャラが受け入れられてる何よりの証拠よ!」
「ああそれじゃ。気になっておったんじゃが、何が爆裂するんじゃ?」
「ああ、それね? それはね〜」
ノアに耳打ちをする店長。
「んなっ⁉︎ 奴は客なんじゃろ? そんな事して良いのか⁉︎」
「良いのよ。お客さんはそれを望んで注文して来たんだから、思いっきりやっちゃって!」
「に、人間とはよく分からんのう……」
出来上がったアイスコーヒーを持って、先程の男性客の元へ行くノア。
「待たせたの。ほれ、アイスコーヒーじゃ!」
「ありがとうございます! ノア様!」
「な、何じゃそのノア様と言うのは⁉︎」
「ノアール様なのでノア様です! お気に召しませんでしたか?」
「ま、まあ別に構わんがの」
ノアがアイスコーヒーをテーブルに置くと、男性客が何かを待っているようにそわそわしていた。
少し困惑気味のノアが振り返って店長を見ると、腕を前に突き出し、行けと言わんばかりにゼスチャーをしていた。
(本当に大丈夫なんじゃろうな? これでミジンコになったらカッコ悪過ぎるぞい?)
『ホー。まあ、客が望んでいるのなら大丈夫だろう……多分……』
(自信無いではないかっ! ええい! やってやるわい!)
何かを決意したノアが、男性客を立たせる。
「立って余の前に来るのじゃ!」
「ハイ!」
「余の言う事を聞かずに勝手な行動ばかりしおって! この、愚か者めがああー‼︎」
男性客を罵倒しながら、思いっきり男性の左頬をビンタするノア。
「グハアアーッ‼︎」
頬を押さえながらしゃがみ込む男性。
「「ええーっ⁉︎」」
その光景を見たナオとジアが驚いていた。
(ど、どうじゃ?)
恐る恐る目を開けたノアが見たのは、満面の笑みで喜んでいる男性客の姿だった。
「ノア様‼︎ ありがとうございます‼︎」
そう言って、深々と頭を下げる男性。
『ホウ。今のでJPが一気に100も上がったぞ?』
(何じゃとー⁉︎ に、人間という奴は、本当によく分からんわい……)
このメイド喫茶に、新たな名物が誕生した瞬間である。




