第三話 開店とお買い物体験
お、いよいよか。
店の唯一の出入り口、入退店ゲートの隔壁が滑らかに、ゆっくりと上がっていく。レジの見えないコンビニが姿を現す。
コンビニの壁面のブラインドが上がっていく。なるほど。硝子張り、か。これだと、店内がよく見える。犯罪防止にもなる、というわけだな。
商品棚は、壁から放すようにして置かれており、うまいこと、店内の様子が外から隈なく見えるようになっている。
行列が長すぎて、並ぶのを諦めた見栄張りたちが、店の周囲から店内を見て、驚きの声をあげていた。
店内にも、店外にも、警備ロボットなどは一切備えられていないらしいが、海の向こうでは、このような無人店舗での犯罪成功率は極めて低いらしい。きっと、このような目に見える工夫以外にも、目に見えない工夫もたくさんあるに違いないだろう。
店内がよく見える。
商品棚は、やはり、専用のものを使っているようだ。ネットで見た、海の向こうの店舗のものと一緒か。あの棚も、テクノロジーの産物ということだ。
店として成り立たせるための機能がきっと入っているのだろう。
列の先頭から順に、人々が店に入っていく。
二十人程度葉居る入ったところで、入退店ゲートに、遊園地などの入退場ゲートでよくあるような一方向にしか進めない機構、あの、押して進む一方向にしか回転しない棒のようなものが現れる。
スマホから音が鳴る。先頭の人のスマホからだけではない。私のスマホも鳴っている。
【入店人数が多いため、少しお待ちください】
なるほど。
この形式の店舗。そして、店内はそう広くはない。普通のコンビニの広さと同様であり、トイレはない。商品数も絞られているのが、外から見て分かる。
つまり、客の回転は早い。そう待たされることはないだろう。
そしていよいよ。私の順番が回ってきた。目の前のゲートの棒を押して、一人出てきた。
ゲートの棒ががこんと引っ込み、私の受け入れの体制を見せた。スマホを出して、アプリを開く。そして、それを、手に持って、ゲートを潜る。
ピリン!
その電子音は、入店を許された印だ。
私は店内へと足を踏み入れた。外の野次馬たちが、中をじろじろ見てきているのは不気味ではあったが、気のせい、と無理やり思い込みつつ、手近な棚へと接近する。
【開店記念某会社ロゴ入りチョコ(数量限定) \108】
備えられた白の画面に、黒でそう液晶表示されていた。
全ての値札は税込み表記、とのこと。事前にそう公表されていた。ただ、税抜きの値段が表示されていない。だから、ちょっと違和感があった。
とはいえ、こっちの方が、値段の誤認もしにくく、いいとは思うが。
今日限定のキャンペーン商品のようだ。10段ある商品棚の五段目にそれは存在した。棚の幅は、一つあたり5メートル程度のものを、仕切りで区切ってある。その辺りの調整も、自在に効くということだろう。
店側で棚に置く商品の種類や数、その商品の棚の範囲などを設定できるということだろう。まあ、そういったところまで全て、某会社が決めるというのであれば、このコンビニの運営会社以外のいくつかの会社も、勇んでこのシステムの導入を既に決めているなんてことは無いのだから。
あくまで、プラットフォームとして、システムを売る。それが、海の向こうの某会社の理念で、今回もそれを貫く、ということなのだろう。
それにしても上手いことやったものだ。以前の、日本の出版業界との摩擦を生んだという失敗から学んだということだろう。
某会社の日本法人が頑張っただけかもしれないが。
私はその記念チョコをスルーした。
チョコのサイズは普通の板チョコの四倍ほどあったからだ。正直、そんなに要らないのだ。まあ、その辺りは仕方無いことだろう。
そのうち改善される。
商品の購買データは、全て、一つの巨大データベースとしてまとめられ、それを元に売れ筋、もしくは今後売れそうなものを並べるように、海の向こうと同じようになるだろうから。
それに、今回のこれは記念品的なものだ。サービスのつもりなのだろう。私たち、日本人の趣向から外れた、不必要にデカいビックサイズではあるが。
まあ、これもらしくていいな、と思いながら、私はその開店記念品ばかり並んでいる、アメリカンサイズな品ばっかりの場所から離れていった。
事前情報から気になっているものがあった。そこの棚を見ていると、私の抱いている疑問の一つが解ける。
そう思い、ちょっと高級感がある、各種有名店の新鮮なサンドイッチが並ぶ棚へとやってきた。
やはり、かなり数が減っている。おひとりさま一つなんて制限は無いからだ。それに、外から中の様子が見えるため、がめつく全部がめるように買い占める者はいない。
ここは日本なのだから。
様々なテレビ局のカメラも回っているため、少しは紛れているであろうがめつい者たちも、今のところ誰も買占めにまわってはいないようだ。
とはいえ、その棚はもう、空になりそうだった。
棚の3段目。そこの品物が残り一つになっていたので、そこから私はそれを手に取った。
【○○亭 スペシャルカツサンド \1,200】
値段がおかしい気がするが、まあ、○○亭なら仕方あるまい。そう思い、一瞬躊躇した手を再び動かし、棚に戻すことなく、持ってきたマイバックに収めた。
その棚の表記が変わった。
【○○亭 スペシャルカツサンド \1,200】
【現在品切れ。補給まで約3時間。】
これは凄い。
商品名と値段は赤文字に変わっていた。そして、黒文字で、その下のスペースに黒文字で、次の補給までのスパンが書かれているのだ。
次に私はスマホを取り出した。
専用アプリには、仮想カートが映っており、合計価格が大きめの文字で記されていた。その下へとスクロールすると、カートに入っている商品名とその個数、価格が一覧表となって並んでいる。
で、これを棚に置くと?
なるほど。
カートから商品の画像は消え、一覧からその商品についての記述が消えた。
で、棚の表記は、私が品を取る前に戻った。それを確認したところで、再びサンドイッチを取り、そこを後にした。
さてと。次はこうする。
そのサンドイッチを、最初あったところとは別の棚に戻した。
すると、スマホからブゥゥ、と、音が鳴る。
【元の場所へ戻してください。そうしなければ、貴方は商品を戻したことにならず、店から出る際、その品物の料金は引き落とされます。】
なるほどなるほど。
よくできている。こうなるなら、客にいちいち、元の位置に戻せと注意する必要もない。徹底的に、店員が表に出る必要が無いようにしているというわけだ。




