冷たい視線
時として、私たちの外見さえもトラブルの原因になることがありますよね?
ツヤは弾かれたように目を見開き、間髪入れずに上体を起こした。
すぐさま周囲の景色を見回す。――間違いない、先ほど幻視したあの冷酷な鉄格子の独房と全く同じ光景だった。
左側に目を向けると、同様に円を描く独房とメイン通路へと繋がる構造が見え、ここが忌まわしい現実であることを裏付けていた。
ツヤは早鐘のように跳ね上がる心臓を押さえながら、恐怖と共に首を右へと巡らせた。
そこには、友人たちが全員、隣り合う独房の中に囚われていた。
一番奥の独房では、キメントが背後の石壁に静かに寄りかかっている。
その左隣の独房では、ウイタとエラが冷たい床に座り込み、うつむいたまま虚空を見つめていた。
さらにその左隣の独房では、キメケノが腕を深く組み、苛立ちを隠せないひどく不機嫌な表情で座り込んでいる。
ナツキはその左隣――ツヤのすぐ隣の独房の中央で、両膝を上品に揃えながらも、不安そうに身を縮こまらせて周囲を警戒するように窺っていた。ニッツェはその隣に立ち、ナツキをどこか興味深そうな、観察するような冷徹な目で見つめている。
そして、ツヤがすぐ後ろを振り返ると、そこにはしっかりと息をしているシンソの姿があった。
全員が、生きて、無傷でそこにいる。
その事実にツヤは心の底から安堵し、深く震える息を吐き出して床に座り込んだ。
彼らの正面では、二人の大柄な男が粗末なテーブルを囲み、下品に笑いながらカードゲームに興じていた。その風貌と粗野な振る舞いから、ツヤは直感的にこの二人が大して頭の回らない単なる見張りの端役であることを察した。
彼が本当に警戒すべきなのは、あの巨大な剣を背負った、夢の中で自らを無残に蹂躙した『あの男』だった。
シンソが膝に埋めていた顔をゆっくりと上げ、蚊の鳴くような、ひどく細く震える声で問いかけてきた。
「ツヤ君……すごくうなされていたみたいだけど……怖い夢でも、見たの……?」
正面の男たちを凝視したまま、ツヤは胸の奥で渦巻く感情を必死に押し殺し、静かに答えた。
「……いや、何でもない。どんな夢だったかも、もう覚えてないよ」
「でも、すごく怖い顔をしてる……」
「こんな状況だ、真剣にもなるさ」
ツヤが冷たく返すと、シンソはそれ以上何も言えず、力なく床に視線を落とした。
友人たちは皆、自分たちがただの理不尽な拉致に巻き込まれたのだと思っているに違いない。だが、ツヤだけはフィリップの力によって、この異常な事態の『本質』を知っていた。ここは異世界であり、自分がフィリップという「最凶の核」を手に入れたからこそ、彼らは今ここに囚われているのだ。
今はまだ、みんなにフィリップのことを話すべきではない。自分がこの中で最も多くの真実を知る者として、毅然とした態度を保ち、彼らを守らなければならないのだから。
その時、目の前の男たちの一人が、突然下卑た歓声を上げて両手を突き上げた。
「――よっしゃあ! 俺の勝ちだ!」
負けた方の男が不満げに荒く鼻を鳴らし、指先でテーブルをトントンと叩きながら、ツヤとシンソの独房をねっとりと睨みつけた。
「チッ、分かったよ。お前が確かめてこい。だが、俺の言った通りだったら後悔するなよ?」
勝った方の男は醜悪な笑みを浮かべて立ち上がると、ツヤたちの独房へと歩み寄り、ガチャガチャと乱暴に扉を開けた。そして二人の目の前に巨木のように立ちはだかり、威圧的に見下ろしてきた。
「おい、そこに見えるピンク髪のガキ。……てめぇは女か? それとも男なのかよ?」
シンソは男の悍ましい意図が理解できず、怯えきった瞳で見つめ返しながら、小刻みに震える声で答えた。
「お、男の子……です……っ」
「あァ!? 聞こえねえよ! 声が小さすぎるんだよ、この弱虫野郎が! もっと声を張り上げやがれ!」
シンソは恐怖に喉を鳴らし、生唾を飲み込んで再び叫んだ。
「男の子です!……ボクは、男なんですぅっ!」
男はシンソの答えを聞くと、その隣にいるツヤを一度鋭く睨み、それから自身の不潔な腹をボリボリと掻きむしりながら、忌々しそうに舌打ちをした。
「クソがっ! てめぇのせいで賭けに負けたじゃねえか! おい、てめぇ本当に男なのかよ!? 男のくせにそんなツラして、そんなナヨナヨした喋り方しやがってよォ!」
ツヤは額に冷や汗をにじませ、全身を襲う恐怖と必死に戦いながらも、シンソを庇うように身を乗り出して男を遮った。
「おい……! そいつにそれ以上、手出しするなッ!」
男はぎろりとツヤに視線を向けた。次の瞬間、男の強靭な手の甲が、ツヤの頬へと猛烈な力で叩きつけられた。
脳髄が揺れるほどの鈍い衝撃音と共に、ツヤの身体は紙くずのように宙を舞い、硬い石の床へと激しく叩きつけられた。
「ぐはっ……!」
「てめぇも似たようなツラしてやがるくせに、偉そうに口を開くんじゃねえよ! 全く、どいつもこいつも揃いも揃って、本当に男なのかよ、あァ!? おいピンク髪、俺の質問はまだ終わってねえぞ!」
男は再びシンソに向かってその巨躯を折り曲げ、顔を近づけて威圧した。そのあまりの恐怖に、シンソはついに堪えきれず大粒の涙をこぼし始めた。
「ご、ごめんなさい……! ボク、生まれた時からずっと、こんな感じで……っ、本当に、ごめんなさいぃ……っ!」
男は再び上体を起こすと、容赦のない重いブーツの蹴りをシンソの華奢な腹部に叩き込んだ。
肋骨が軋むような『ドカッ』という鈍音と共に、シンソの身体は背後の石壁へと激しく叩きつけられ、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。口の端から一筋の鮮血をこぼし、痛みに耐えるように両脚を抱え込んで、ヒューヒューと浅い呼吸を繰り返している。
その凄惨な光景を、他の独房の全員が息を呑んで見つめていた。もう一人の男は、これが日常茶飯事であるかのように、気にも留めずにテーブルのカードを淡々と片付けている。
男がさらにシンソを痛めつけようと、凶暴な笑みを浮かべて一歩を踏み出した、その時だった。
ひどく静まり返った牢獄の中に、極寒の氷を思わせる、冷徹で鋭い声が響き渡った。
「――おい。貴様ら、少々調子に乗りすぎだぞ」
ツヤは痛む頭を押さえながら、声のした遠くの独房へと目を向けた。その表情は驚愕に染まっていた。
声を上げたのは、あのキメントだった。
普段であれば周囲の出来事に一切の関心を示さず、何があっても静観を貫くはずのキメントが、仲間を庇うために自ら口を開いたのだ。
男は狂気すら感じさせるほどに目を見開き、ゆっくりと振り返ると、ツヤたちの独房を出た。
ツヤはすぐさま地を這うようにしてシンソの元へと駆け寄った。シンソはツヤの身体にすがりつき、彼の胸に顔を埋めて、声を押し殺しながら激しく泣きじゃくった。
男は重い足取りでキメントの独房へと歩み寄り、鉄格子の隙間から、射殺さんばかりの凶悪な視線を注ぎ込んだ。
しかし、どれほど男が凄んでみせようとも、キメントの瞳に揺らぎは一切なかった。彼はただ氷のように冷たく、一切の生気を感じさせない眼差しで、まっすぐに男の瞳を見つめ返している。そこには恐怖の破片すら存在しなかった。
男がいよいよキメントの独房の鍵を開けようと、腰の鍵束に手を伸ばした、まさにその瞬間。
メイン通路の奥にある重厚な扉から、金属が擦れ合う鍵の音が響き、次いでキィィと不気味な軋み音を立てて扉が開かれた。
入ってきたのは二人。
一人は、彼らをここへと拉致した女性と思われる仮面の人物――ジェーン。そしてもう一人は、ツヤが精神世界の幻視の中で見た、あの男だった。
「おやおや、フランク……。我々はいつから、お客様をそのように手荒くもてなすようになったのかな?」
フランクと呼ばれた男は、即座にキメントの独房を開けるのを止め、大慌てで後退すると、深く首を垂れて一礼した。
「こ、これは、ウィロー様……! 滅相もございません。ただ、この者どもが不遜な態度を取りましたので、少し教育を施していただけでございます」
ウィローは薄笑いを浮かべたまま、横目でキメントの様子を値踏みするように見つめた。
「ふむ……。この若者が、そのような不躾な真似をするようには見えないがね」
そこに立つウィローの姿は、ツヤが幻視の中で自らの尊厳と肉体を無残に蹂躙された、あの悪魔そのものだった。
背中には巨大な大剣の柄がそびえ立ち、顔には薄く化粧が施され、その口元にはどこか上品で、しかし底知れない邪悪さを秘めた笑みが張り付いている。少し斜めに傾けて被った小さな帽子が、彼の異様な雰囲気をさらに際立たせていた。
フランクはさらに深く頭を下げた。
「ウィロー様のおっしゃる通りでございます」
「まあいい。お前とハックはもう下がっていいぞ。我々はこれから、ジェーン女史と共に少々仕事があってね」
ウィローが静かに告げると、フランクは再度一礼し、すでに退室の準備を終えていたハックの後を追うようにして、そそくさと独房エリアから出て行った。背後で、重い鉄の扉がガチャンと閉まる。
残されたのは、凍りつくような死の沈黙と、ツヤたちの前に佇む仮面のジェーン、そして不気味な笑みを浮かべるウィローの二人だけだった――。
こんにちは!作者です。新しい章はいかがでしたか?うまくいって、お役に立てていることを願っています!楽しんでいただけたら嬉しいです!またね!




