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冷みゆく海

友の疎みゆくは、仇の寄るよりなお悲し


キメントはしばらく沈黙した後、ぽつりと口を開いた。


「まるで、何らかの……その、何て言うか……『何か』が俺に語りかけてきたんだ」


ツヤは目を極限まで見開き、キメントの肩をがしりと掴んで強く握りしめた。


「どんな場所で話したんだ!? その話しかけてきた奴の声は!? 一体、何を話していたんだ!?」


ツヤの切羽詰まった矢継ぎ早の質問に、キメントは面食らって言葉を失った。


「……」


「頼む、キメント! 思い出してくれ!」


「分かった、分かったから!……ええと……確か、俺たちの家の居間だったと思う。話しかけてきた奴の姿は、はっきりとは覚えてないんだ。言っていたことも微かに聞こえた程度で、正確には思い出せない」


ツヤはそれを自分自身の状況と結びつけた。これは何らかの類似点であり、彼自身に起きている謎を解き明かすための明確な糸口になるかもしれない。


キメントの言う『居間』とツヤの『シャワー室』、そしてキメントの頭の中に響いた『声』と『フィリップ』は、同一の性質を持っている可能性がある。何より、それを経験したのが他でもない友人のキメントだったのだ。


「どうしてそんなに食いつくんだ? ただの妙な夢だと言ったのはお前じゃないか」


ツヤはハッとして身を引き、元の姿勢に戻ってどうにか心を落ち着かせた。


「ごめん……ただ、少し気になって」


ツヤはそれ以上、気の利いた嘘を見つけることができなかった。


幸いなことに、キメケノが大きな欠伸をしながら庭へ出てきたことで、ツヤはこれ以上の追及から逃れることができた。

キメケノが大きく伸びをする。制服姿に剣を帯びたその出立ちは、荒々しい彼でさえいっぱしの戦士のように見せていた。

彼は近づいてくると、ニッツェの隣にどさりと腰を下ろし、不満げに鼻を鳴らした。


「今が何時だろうと知らねぇが、いくらなんでも早起きすぎだろ……」


それから間もなくして、グループの残りの面々、そして最後にルーサーが庭へ姿を現した。ルーサーとサラマは立ったままだった。ルーサーが軽く準備運動をする傍らで、サラマは腕を組んで静かに寄り添っている。


「あんたたちガキのせいで、こんな早くに叩き起こされたのよ。私が説得に応じただけの価値があるんでしょうね? もし期待外れだったら、自分たちの決断を後悔することになるわよ。分かった?」


「はいっ、分かりました、お師匠様!」


シンソが目をキラキラと輝かせながら元気よく返事をした。

ルーサーはついに背筋をピンと伸ばし、深く息を吸い込んだ。


「今から一人ずつ前に出て、サラマと手合わせしなさい。あんたたちの現在の実力と、咄嗟の判断力を見極めさせてもらうわ」


サラマが無言で構えをとった。


「そうね……そこの赤毛。あんたが最初よ」


ニッツェはイラッとしたように顔をしかめた。


「はぁぁ? なんでアタシが一番手なわけ!?」


「なんでって、私の気分よ。師匠に口答えしない。さっさと立ちなさい」


ニッツェは「自分を何様だと思ってんのよ……」と小声でブツブツ文句を垂れながらも立ち上がり、所定の位置へと歩を進めた。


ニッツェが位置についたのを確認すると、サラマは鋭く剣を抜き放ち、構えをとった。ニッツェも慌てて剣を抜く。


「剣は下から引き抜くの。上に向かってじゃないわ」


ニッツェは自分の剣と、隙のないサラマの姿を交互に見て、不安げに表情を強張らせた。


「始め!」


サラマが地を蹴った。その足運びは目で追えないほど速く、かつ正確無比だった。さらに、刃の軌道を隠すかのように、剣を低い位置でしっかりと構えている。


瞬く間にサラマは間合いを詰めた。ニッツェはただ右から恐ろしい速度で迫り来る剣閃だけを捉え、反射的に地面へと身を投げ出した。鋭い風切り音が空を切り、剣は空を切った。サラマは本気で殺しにかかるかのような、容赦のない一撃を放っていたのだ。


「そこまで!」


ニッツェは地面に倒れ込んだまま歯を食いしばり、大声を上げた。


「あんたたち、頭おかしいんじゃないの!? 最初の稽古で、何も知らない素人相手に真剣でこんな風に襲いかかってくるバカがどこにいるのよ!」


「あら、ちょっと待って……。私はてっきり、あんたたちには幼い頃から培ったいくらかの知識があるものだと思っていたわ。だって、あの巨大蜘蛛の討伐でサラマを助けたじゃない。それに、他の一般常識や分野の知識がこれっぽっちも無いって言うなら、せめて剣の腕前くらいはあるんだろうって考えたのよ」


——。


「……あんたたち、本当にどこから来たの?」


張り詰めたような、重い沈黙が場に降りた。


「それは重要ではありません。重要なのは——」ウイタが毅然とした態度で口を開く。


「いいえ、いいえ。真面目な話よ。あんたたちがここに滞在し始めてから、私たちはあらゆる面で手を貸してあげてるわよね? 自分たちの出身地を答えることくらい、何も難しいことじゃないはずよ」


「だから言ったでしょ! アタシたちは『日本人』だって!」


「ニッツェちゃん……」エラが嗜めるように優しく、しかし不安げに声を漏らした。


「それについても調べさせてもらったわ。歴史書にも、社会学の百科事典にも、『日本人(ヤポン)』なんていう民族や部族はどこにも存在しなかったわよ」


「……ッ」


「私たちをからかっているの? それとも見下してる?……あるいは、その忌まわしい正体か何かを必死に隠そうとしているのかしら?」


「違います、私たちは——」


「しばらく前から、あんたたちのその友人には疑念を抱いていたのよ」


ルーサーの冷たい視線がツヤを射抜く。


「そいつからは、およそ正常とは思えない異様な気配(オーラ)を感じ取っているの。……私たち家族全員がね」


ツヤは両目を極限まで見開いた。彼女の抱いていた疑念は本物だったのだ。それも、これまでの間ずっと。


仲間たちの視線が一斉にツヤへと集まった。


「ツヤ……あの人たちは、何の話をしているのですか?」


ナツキが礼儀正しくも戸惑った声で尋ねる。

一方、ウイタは酷薄なまでに冷たい表情で彼を見つめていた。


「サラマは優しすぎるから、こういう話の追及や、その後に起こるであろう事態には対処できないわ。でも、私は違う」


チャキリと音を立てて、ルーサーが剣を抜いた。


「さあ、お前から漂うその忌々しい気配の理由を説明しなさい。今すぐに」


再び、息が詰まるような沈黙が落ちた。


「これには……何か誤解があるんじゃ——」シンソが震える声で弁明しようとする。


しかし、ルーサーは怒りに任せて声を荒らげた。


「黙りなさい! あんたたち全員よ! たかがこんな得体の知れない連中のために、私の家族を危険に晒すわけにはいかないの! 私は家族を守るために自分を鍛え上げてきた! 他の兄弟たちだってそうよ! みんな家族に貢献するために戦地に赴き……中には命を落とした者だっている! 私は家族と共に在り、家族を守り抜く。ほんの僅かな疑念(リスク)からでさえもね!」


ルーサーは狂気じみた怒りを漲らせながら、ツヤへと歩み寄った。


「必要とあらば、ここでお前を殺す。……お前を殺してはいけない理由を一つでも言ってみなさい」


ツヤはどうすればいいのか分からなかった。この彼女の疑念は、単なる可能性(ルート)なのか、それとも避けられない現実なのか。どちらにせよ、これ以上の危険を冒すわけにはいかない。絶対にリスクを負うことなどできなかった。


だが、彼にはこの事態を穏便に済ませたり、場の空気を落ち着かせたりする器用な手腕など持ち合わせていなかった。なぜなら、彼は『人間』というものを根本的に理解していなかったからだ。しかし、学ばなければならない。


そうだ。人間を……人間の真髄(しんずい)を、理解しなければならないのだ……。


ルーサーは、圧倒的な威圧感の前に地面へ座り込んでしまったツヤの喉元に、冷たい剣先を突きつけた。


「さあ……話せ」


「ルーサーさん……」エラが悲痛な声で懇願する。


シンソも声を震わせながら、じりじりと距離を詰めた。


「ルーサーさん、お願いです……。ツヤは本当にそんな人じゃありません。あなたが思っているような悪い人じゃないんです……!」


他の仲間たちもゆっくりと歩み寄り、息を呑みながら、為す術もなくその光景を絶望的な思いで見つめていた。


シンソの目から、ボロボロと大粒の涙が零れ落ちる。


「話せと言っているのよ!」


「頼む……やめてくれ」


そしてついに、ルーサーの忍耐は限界の糸を切った。


——。

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