普通にはなれない朝
「信じたくてたまらない、美しく、しかし決して平凡なものにはなり得ない、希望に満ちた朝の兆し。」
ツヤは目を覚ました――。
毛布代わりに分厚い毛皮が掛けられており、すぐ隣ではシンソが彼にすがりつくようにしてまだ眠っていた。その柔らかい頭は、ツヤの肩に静かに乗せられている。
シンソの安らかな寝顔を見つめながら、ツヤは静かに思考を巡らせた。自分が内に秘めている動機など、この世界で成し遂げようとしている目標の重さに比べれば、どこかちっぽけで色褪せたものに感じられた。
ツヤはゆっくりと目を閉じ、深く息を吐き出した。そして、シンソの背中に回した腕にわずかに力を込め、彼を抱き寄せた。やがて目を開き、周囲を見渡す。窓から差し込む光の加減からして、まだ早朝であることは明らかだった。周りでは他の仲間たちも皆、深い眠りについている。
「俺は……どうすればいいんだ?」
しばらくの間、すやすやと眠るシンソの顔を眺めていると、自分がどれほど仲間たちに対して心を許し、甘くなっているのかを自覚させられた。しかし、それ以上その感傷に浸り続けることに耐えきれず、ツヤはシンソの体を優しく脇へ押しやり、静かに身を起こした。
衣服を手に取り、音を立てないように素早く身支度を整える。そして傍らに置かれていた自らの剣を手に取ると、足早に部屋を後にした。
階段を降りた先には、朝日に照らされた無人の酒場が静まり返っていた。ツヤは店内の様子を軽く確認した後、裏庭へと続く扉を開けた。
裏庭に出ると、予想外の光景に出くわした。ニッツェが彼と同じように冒険者の制服を身に纏い、ありったけの力を込めて虚空に向かって剣を振り回していたのだ。
「ニッツェ?」
ニッツェはピタリと動きを止め、ツヤの方を振り返った。
「おや、お目覚めかい?」
「何やってるんだ、お前?」
「決まってるじゃないか! アニメで異世界に飛んだ主人公が必ずやるやつさ! 剣と冒険者の制服を手に入れた『女』戦士っぽく、修行に励んでるってわけ!」
ツヤは呆れたように大きく天を仰いだ。
「お前、マジでそこまでテンプレ思考なのかよ? てっきり、俺たちの役に立つことでもしてるのかと思ったぜ」
「うるさいね! 見てよこの帽子、制服とセットなんだから! アタシってば、すっごくイケてると思わない?」
ニッツェはその『イケてる』帽子を指でクイッと持ち上げ、得意げにポーズを決めた。
ツヤは思案するように、顎の下に手を当てた。
「なぁ、ニッツェ。お前、いくつだっけ?」
「アンタと同い年だよ」
「……驚きだな」
「ちょっと! アタシはガキみたいな真似なんてしてないからね!」
「まあいいさ。何をするにしても、役に立つならそれでいい」
「はいはい、わかったわかった! リーダーぶるのはやめな!」
ツヤは口元に微かな笑みを浮かべ、ニッツェに向けてゆっくりと剣を抜いた。ニッツェもそれに応えるように不敵にニヤリと笑い、剣を構え直して真っ直ぐに切っ先を向けた。
二人は打ち合いの訓練を始めた。約30分間にわたり、刃を交え、攻撃を防ぎ、時には隙をうかがうための間合いを測り続けた。しかししばらくすると、建物の方からパタパタという小さな足音と、何かをごとごとと鳴らす音が聞こえてきた。
ほどなくして、キクロがトコトコと小走りで裏庭に姿を現した。その口にはいつものようにおしゃぶりがくわえられており、顔には到底赤ん坊とは思えない真剣な表情が張り付いている。キクロはちょこんと立ち止まると、頭を上げて二人を見つめた。
「おっと……可愛らしいお客さんの登場だな」
ニッツェはキクロの方へと歩み寄り、腰をかがめた。
「よお、調子はどうだい? ちびっ子」
キクロは大真面目な顔つきのまま、さらに一歩、二歩と距離を詰めた。そしてニッツェとじっと長い間見つめ合った後、「ふすっ」と小さな息を漏らし、おもむろに小さな手を伸ばすと――ニッツェの胸に直接触れ、むにゅりと力強く握りしめた。
ツヤはあまりの衝撃に、危うく持っていた剣を取り落としかけた。ニッツェも突然の事態に完全に硬直してしまい、どう反応すべきか分からずに固まっている。
「……嘘だろ」
キクロはさらに、ギュッと手の力を強めた。
「な、なるほど……奇襲攻撃ってわけね。でも、このアタシを倒すには、もっと頑張らなきゃダメだぞ!」
「何バカなこと言ってんだよ!」
キクロの行動は、その言葉を合図にしたかのようにさらに大胆さを増していく。
「しかも、ターゲットに赤髪で制服姿の女剣士を選ぶなんて! アンタ、なかなか賢いガキじゃないか!」
「いい加減にしろ!」
△▼△▼△▼△
ニッツェが草っ原に大の字になって寝転がる中、ツヤはその傍らに腰を下ろし、隣で不満げに顔をしかめているキクロを見下ろしていた。
「普通、赤ん坊ってのはこういう真似もしないし、こんな時間は寝てるもんじゃないのか?」
「コイツは普通の赤ん坊じゃないからね。……それより、他の連中はもう起きたかな? アタシ、お腹空いてきちゃったよ」
「様子を見に行くか?」
「そうだね、そうしようか」
ツヤは立ち上がって軽く伸びをすると、再び裏口の扉を開け、酒場の中へと足を踏み入れた。
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