果てなき結末と、曖昧さ
理解しない方が良いのかもしれない…。
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心理カウンセラー:さあ、ツヤ。話し始めようか。
ツヤ:何を話すって言うんだ? アンタがどんなアドバイスをしたところで、俺の考えは変わらない。
心理カウンセラー:ええ、でもこれをやる理由は、君のその考えがなぜ間違っているのかを伝えるためだからね。
ツヤ:なんで間違ってるって言うんだよ?
心理カウンセラー:人は皆、それぞれ違うからだよ。スタイルも、話し方も、興味を持つ分野もね。だからこそ、すべての人に敬意を払わなければならない。
ツヤ:奴らが話すことといえば、どの女がどれだけ可愛いかとか、くだらない車のブランドのことばかりだぞ? そのどこに敬意を払う要素があるんだ?
心理カウンセラー:理解しようとしてごらん、ツヤ。今言ったように、車に興味を持つ人もいれば、魅力的な女の子の話をする人もいる。君は好きじゃないかもしれないけれど、だからといって彼らが――いわゆる『馬鹿』だということにはならないんだ。
ツヤ:馬鹿な奴らが裁かれないから、その数が増えるんだ。数が増えれば、人は互いに模倣し合い、それが延々と続く。これは一種の――
心理カウンセラー:わかった。思春期の若者にはよくあることだと思うよ。つまり、世界を軽蔑しているということだろう。
ツヤ:単なる思春期の感情なんかじゃない! 俺が正しいんだ。
心理カウンセラー:わかった、では続けよう――
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エラ:ねえ、ツヤ。たくさんの電化製品が海外から運ばれてくるのって、想像できる? しかも、すごく大きな船でね。本当に驚きだわ。
ツヤ:ああ、貨物船は確かにすごいよな。結局のところ、あれがなければ――
欲望むき出しの男子生徒A:おい、この前あの女見たか?
欲望むき出しの男子生徒B:超絶美人だったぜ。
ツヤはギリッと強く奥歯を噛み締めた。
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シンソ:ねえ、ツヤ。また僕と一緒に絵を描いてくれないかな?
ツヤ:ああ、いいぞ。なんで――
別の欲望むき出しの男子生徒:おいおい、見ろよ! 男の皮を被った二人がお絵描き遊びだってよ!
欲望むき出しの男子生徒とその取り巻きたちが、下品な嘲笑を響かせた。
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ツヤ:せめて静かにしてくれないか……
発情しきった二人の若者が、取っ組み合いの喧嘩を始める。
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ツヤは目を覚ました――。
ゆっくりと瞼を開けると、聞き慣れた声と共に、見慣れた光景が視界に飛び込んできた。いつものように、彼はあのキャビンの中にいた。床に水が絶え間なく流れ落ちる中、キャビンの扉はしっかりと閉ざされている。
ツヤが周囲を見渡すと、いつもの定位置である隅の暗がりにフィリップが座り込んでいるのが見えた。ツヤはゆっくりと身を起こし、壁に寄りかかる。濡れた髪が再び背中や肩にべったりとまとわりついていた。
「また会ったな、小僧」
フィリップが声をかける。
ツヤは鋭く目を細めた。
「またここか。……どうやら慣れてきちまったらしい」
「そうであることを願うよ。で、状況はどうだ? 人生は順調か?」
「知っててとぼけるなよ……」
「単なる話題作りさ。結局のところ、ここはお前が息をつける数少ない場所の一つなんだろう?」
「どちらかといえば、さらに多くのことを学ぶための機会ってところだな」
「何について?」
「お前について、俺がどうやって強くなるかについて、スカウンについて、どうやって仲間を守るか、それから……俺のクソみたいな死についてだ!」
「おやおや、ずいぶんとご立腹だな」
「答えろ、このクソ寄生虫が」
フィリップの顔に浮かぶ笑みが、狂気を孕んだものへと歪む。次の瞬間、彼の姿が蒸発するようにふっと消え去り――気づけばツヤの背後に立っていた。
「忘れるな、小僧。俺もここでお前と『共に』いるんだ。お前が今立っている場所も含め、今後辿り着くであろう全ての場所は、この俺のおかげなんだぜ? その無様で欠陥だらけの肉体で、スカウンはおろか、あのイタニリア帝国で生き残れるとでも思っているのか?」
ツヤは背後からフィリップが吐き出す息遣いすら感じ取ることができた。フィリップはゆっくりと、ツヤの耳元へと顔を寄せる。
「俺がいなければ、お前は存在しない。そして幸運なことに、お前がいなければ、俺も存在しない。俺たちは互いに必要不可欠であり、俺たち双方にとっての鍵となるのがお前自身だ。だからこそ、ほんの少しの『敬意』を払うことが、互いの利益になるというわけだ」
ツヤはゴクリと唾を飲み込んだ。今の己の状況には虫唾が走るほど嫌悪感を抱いていたが、それでもフィリップの言うことは正論だった。
「……わかった。取引成立だ」
「素晴らしい」
フィリップは再び元の場所へと身を屈め、隅の暗闇へと溶け込むように戻っていった。
「さあ、話そうか」
「お前が俺の肉体を奪った時――つまり、お前が本来の姿をとって外で俺を操っている時、俺はどこに落ちているんだ? あの水晶のように澄み切った場所は、一体どこなんだ?」
「ああ、あそこは『不安定領域』だ」
「ふ、不安定領域……?」
「ああ。精神というものは、肉体の主導権を一度に一人にしか許さない。一方が肉体を支配している間、もう一方は精神の表層に留まることができず、外へと押し出される。これが精神の不安定と呼ばれる現象だ。お前がいた場所はまさにそこさ。本来あの肉体はお前のものだから、俺が表に出て姿を現した時、お前の精神はどうすればいいか分からず、お前自身を『不安定領域』へと放り込むってわけだ」
ツヤは黙って俯き、床を見つめた。
「他に何かあるか?」
「トゥーについて、なんで俺に警告したんだ?」
ツヤは顔を上げ、フィリップの目を真っ直ぐに見た。
「やれやれ、遭遇に遭遇を重ねて、よりにもよって『親切』に出くわすとはな。お前に警告したのは、あの男が『親切の真髄(Shinzui)』の持ち主だからだ。俺たちと奴の相性は最悪なんだよ。俺は『憎悪の真髄』であり、奴は『親切』。ただそれだけの簡単な理由だ」
「そんなの、まともな説明になってないぞ!」
「手短に言えば、もし奴が俺たち……いや、この俺の存在に気付いたら、今の俺たちの力じゃあ、奴を倒すどころか、傷一つ負わせることもできないってことだ」
「強くなる方法についてもちょうど聞こうと思ってたんだ。どうやったら強くなれる?」
「お前はすでに俺を手に入れている。だから、特別な修行なんてほとんど必要ない。お前が新たな『可能性』を目撃し、それを紐解くたびに……あるいは、憎悪に満ちた負の感情を抱き、この俺を解き放つたびにだ。俺を露わにするということは、すなわち俺の力をより深く引き出し、使いこなせるようになるということだからな」
「じゃあ、追加で何かをする必要はないのか? 例えば、剣の訓練とか、魔法を学ぶとかさ」
「お前自身の自己満足のためにやりたいなら止めはしないが、時が経ち、俺の力を使いこなせるようになれば、それだけで十分事足りる」
「そっか……わかった。今のところは順調に進んでるってことだな」
「その調子だ。他には?」
「ふと疑問に思ったんだが。お前は本来、俺の敵のはずだ。実際のところ、お前の目的は何なんだ? なんで俺と融合した? そして何より……なんで『俺』なんだ?」
フィリップの眼光が妖しく輝き、彼はサイコパスのようにけたたましい笑い声を上げ始めた。その声はキャビンの中にひどく不気味に木霊する。
「何がおかしいんだよ?」
フィリップは唐突に笑い声をピタリと止め、見開かれた狂気の瞳と、裂けるような巨大な笑みをツヤに向けた。
「――俺は、お前だからさ」
「な――」
「答えを知っているくせに、どうしてわざわざ聞くんだ? 人間なんてものはな、小僧、一匹残らず寄生虫なんだよ。奴らの命には何の価値もなければ、何の貢献もしていない。それどころか、自分自身に対してすら何の役にも立っちゃいない。無意味なサイクルの中で、くだらない理由をでっち上げては、自分自身とこの世界を騙し続けている」
フィリップは一歩後ろへ下がり、言葉を紡ぎ続ける。
「戦争、国家のイデオロギー、歴史、人間関係……そのすべてが薄汚くて、反吐が出るほどくだらない。お前がいた元の世界も含めてな。誰も彼もが自分を特別な存在だと思い込み、ちっぽけな動機にしがみついて、吐き気を催すような生き方を続けている」
「だからこそ、俺はお前なんだよ、ツヤ。お前も俺と全く同じことを考えている。現に今、俺たちはこうして同じ空間に存在しているじゃないか。お前も、俺と同類なんだ! 唯一の解決策は、あいつらを一定数間引き、そこから教訓を刻み込ませて、もう一度最初からやり直させることだけだ」
ツヤは激しく首を横に振り、脳内を凄まじい勢いで駆け巡る無数の思考と格闘した。彼の中の理念の半分が「イエス」と囁き、もう半分が「ノー」と叫んでいた。
「クソッ……! 俺はなんてところに巻き込まれちまったんだ! こんなことになるなんて、望んじゃいなかった!」
フィリップは全く意に介さない冷ややかな視線を向けた。
「喚くのはやめろ」
「俺の死……ああ、そうだ……。なんでそのことを誰にも言っちゃいけないんだ? 『もし誰かに話そうとしたら、死よりも酷い後悔をさせてやる』って言ったのはなんでなんだ?」
フィリップは見開かれた双眸で再びツヤを見据え、ゆっくりと身を乗り出した。その声色は、先程までとは打って変わって底知れぬ凄みを帯びていた。
「万が一にも、お前が『ループ(可能性)』の存在を他人に漏らすような真似をすれば、お前はもちろん、お前が愛する全ての人間もろとも、生きていることを死ぬほど後悔させてやる。……分かったな?」
ツヤの目からボロボロと涙が溢れ出した。
「なんでだよ! 頼むから教えてくれ。もう、耐えられない……」
「泣き喚くのはいい加減にしろ、小僧。話題を変えろ」
ツヤは涙を流し続けていたが、今のところは、自分が味わう苦痛がいずれ大局的な意味を持つという理屈と、この場での戦略的な関係性を優先し、自ら話を終わらせるようなマネはしたくなかった。
しばしの沈黙が降りた。ツヤは涙越しに、未だ不敵な笑みを浮かべるフィリップを見つめ返した。
「なんで……どうして、お前はそんなに強いんだ? それに、お前の頭の上に浮かんでる『あの王冠』は何なんだ?」
フィリップはニヤリと口角を吊り上げた。
「前にも言ったはずだ。俺は『主系』にして『始祖』の真髄(Shinzui)だからさ。物理、魔法、さらには精神領域の術式に至るまで、多種多様な魔術へのアクセス権を持っている。防御から攻撃まで、あらゆる局面で無数の手札を切ることができるんだ。もっとも、これらは全て俺の『器』であるお前の状態と、俺の形態に依存するがな」
「じゃあ、俺が言った『王冠』については?」
「おっと、質問の時間はここまでだ。お前はもうすぐ目を覚ます。また後で続きをしよう。俺が以前言ったことも、今言ったことも、絶対に忘れるなよ、小僧」
「ま、待ってくれ!」
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