新しい仕事と疑念
どんなに注意していても、何が起こるか、いつ起こるかは決して分からない。
ルーサー「まあいい、あいつがどれほど強いかは理解できただろう」
シンソウ「はい、よく分かりました」
ルーサー「おい、泣き虫紫頭。そいつらに館内を案内して、どこで依頼を引き受けられるか教えてやりなさい。簡単な採取の仕事あたりで十分だ。私はその辺にいるからね」
トゥー「分かった、分かったよ! みんな、僕についてきて!」
トゥーは食堂の入る建物に向かって進み、扉をくぐった。大勢の者が美味そうに料理を平らげ、あるいは酒を嗜みながら、自らの冒険談に花を咲かせていた。トゥーは注文を受け付ける帳場の前に佇んだ。
トゥー「メイさん! いらっしゃいますか!?」
メイ「少し待ちなさい、トゥー!」
トゥーが高揚感を胸に待つ間、一行は互いに視線を交わし合った。ほどなくして足音が響き、現れたのは金髪の、給仕の姿をした一人の女性であった。
メイ「何か用かしら?」
トゥー「メイさん、この人たちは新人冒険者なんだ。僕が担当することになったんだよ!」
メイは一行に視線を巡らせると、気さくな口調で言葉を紡いだ。
メイ「お会いできて嬉しいわ。私はメイ。酒場の食事と掲示板の管理を担当しているの」
ウイタ「お会いできて光栄です、メイ様」
シンソウ「僕もです!」
他の者たちも深く頷いた。
メイはツヤへ視線を向けた。
メイ「なんだか、顔色の優れない方がいらっしゃるみたいけれど?」
ツヤは後頭部を掻きむしるばかりで、返答することができなかった。
エラ「あのお聞きしたいのですが、掲示板とは何のことでしょうか?」
ナツキ「ええ、私もそれをお尋ねしようと思っておりました」
メイ「トゥー、あなたが連れて行って見せてあげなさい。私はまだ仕事が残っているの」
トゥー「了解!」
トゥーは壁に掲げられた、何かが書き連ねてある大きな白い板の脇へと移動した。
トゥー「みんな、これを掲示板と呼んでいるんだ。ここには現在進行形で募集されている冒険の依頼が書き出されているんだよ。ここから一つを選んで、達成しに向かうんだ。見事やり遂げれば、依頼の難易度に応じて階級が上がっていく仕組みさ」
キメケノ「もし失敗したらどうなるんだ?」
トゥー「その時は失敗扱いになって、その依頼を諦めなきゃならなくなるよ」
ウイタ「理にかなっていますね」
ニーチェ「ねえ、あたしたちみたいな駆け出しは、普通どんなことから始めるの?」
トゥー「僕も一緒に行くからね。最初はだいたい、物の採取を行う依頼から始めるのが一般的だよ」
ツヤがようやく口を開いた。
ツヤ「何かを採取する……とは、具体的にどのようなものだ?」
トゥー「ふむ……果物かもしれないし、鉱石かもしれないね。依頼内容によって様々だよ」
ツヤ「なるほど……」
ニーチェが板を見つめ、ナツキがある依頼を見つけ出した。
ナツキ「釣りの依頼……というのはいかがでしょうか?」
トゥー「いいじゃないか! やってみよう!」
一行が互いに意見を交わし合っていると、
トゥー「よければ、まず何かお腹に蓄えようよ! 僕のおごりだよ!」
キメケノ「よっしゃ、そうこなくっちゃな!」
ニーチェ「助かるわぁ!」
シンソウ「ありがとうございます、トゥーさん!」
トゥー「お気になさらず! みんなは座っていて、僕が注文を済ませてくるから!」
一行は大きな食卓へと腰を下ろし、雑談に花を咲かせ始めた。ナツキとシンソウは、自分たちの現在の装いが洗練されていないことについて話し合っていた。
ニーチェ「まあね、元々あんたたちに服装の心得なんてなかったわけだし」
エラ「それはニーチェ君、あなたにも言えることではないかしら?」
一行が声を忍ばせて微笑む中、トゥーが戻ってきた。
トゥー「注文完了! 全員分、一番大きな献立を用意してもらったよ!」
ウイタ「何から何まで感謝いたします、トゥー様。本当に細やかなお心遣い、恐縮です。特に、こうして同行していただけるのがありがたいです」
トゥーは照れくさそうに頬を染めた。
トゥー「へへ、どういたしまして! いつでも力になるから心配いらないよ」
料理が給仕された。一行は和やかな会話とともに食事を口に運び、時を過ごしていた。しかし、ツヤだけはその輪に入ることができずにいた。
フィリップが再びツヤの肩口から身を乗り出すような姿で顕現し、白く輝く瞳でトゥーを凝視しながら、腕をだらりと垂らしていた。
ツヤ「(フィリップ……?)」
フィリップの視線はトゥーに釘付けとなっていた。
フィリップ「『……どうやら、あのガキの正体を理解したようだな。あの餓鬼こそが『仁愛』の真髄の保持者だ』」
ツヤ「(ああ、本人から聞いた。だが、何が問題なんだ?)」
ツヤは狂人と思われぬよう前方を注視したまま、声をひそめて食事を続けた。
フィリップ「『最悪だな。妙なことになった。奴はおそらく我らの存在に気づいていて狸寝入りを決め込んでいるか、さもなくば強い疑念を抱いている』」
ツヤ「(何が起こるというんだ?)」
ツヤ「『愚か者め。現在の貴様の力量では、我が力をもってしてもあの男には勝てん。『仁愛』もまた主たる真髄の一つ。始祖には及ばずとも、根幹をなす真髄だ。あれほどの領域に達した者に勝ち目はない。それに……あの男とは過去に因縁がある。私を絶対に逃がしはせん』」
ツヤ「(過去に何があったんだ?)」
フィリップ「『長話になる、ガキ。いずれ話すか、あるいは人々の噂から知ることになろう。我が名を知らぬ者などおらんのだからな』」
ツヤ「(分かった……)」
フィリップ「『奴には警戒しておけ。今日の夢の中でまた会おう』」
フィリップは湧き出た時と同じようにツヤの体内へと引き戻され、漆黒の残滓は消え去った。
ツヤは一息つくと、再び食事に向き合った。
ニーチェ「おーいーしーい! なによこれ、最高じゃない!」
エラ「品位というものを忘れてはいけませんよ、ニーチェ君」
ニーチェが大食漢のように猛烈な勢いで料理を平らげる様を、シンソウは信じられないといった表情で見つめていた。ナツキは両手で顔を覆った。
ナツキ「お願いですから、落ち着いてください……ニーチェ……」
ニーチェ「もう、堅いこと言わないでよ! この至福の味を堪能させてちょうだい。ねえ、美味しさ満点でしょう?」
ツヤ「……君は今、料理に向かって話しかけていたのか?」
トゥーとシンソウが声をあげて笑い、他の面々は溜息を漏らした。
トゥー「構わないよ! 気に入ってもらえてすごく嬉しいな。実に素晴らしい食べっぷりだ!」
ウイタ「あの、トゥー様……冒険を達成すれば、報酬として金品が得られるのですよね?」
トゥー「うん、もちろんだよ。大半の人はそれが目当てで冒険者になるんだから」
一行は食事を終え、皿を空にした。
トゥー「僕についてきて。最後に寄っておきたい場所があるんだ」
トゥーと一行は、物品や装備を取り扱う建物へと向かった。内部へと足を踏み入れる。
トゥー「みんなには新しい衣装が必要だからね。イエトさんがこの辺りにいるはずだ。探しに行ってみよう」
トゥーと一行は衣類が並ぶ部屋を巡った。順に男性陣、女性陣の装いを選んでいく。女性陣が互いに助け合いながら選ぶ傍らで、男性陣もそれぞれ着物を選び取った。
トゥー「さて、次は刃を帯びる時間だ!」
トゥーは大袈裟な仕草で腰の刀を抜き放つと、それを肩へと担いだ。
トゥー「業物を身に纏うのは、いつだって最高の気分さ!」
一行はトゥーとともに見事な刀剣を選び抜き、それを腰に佩いた。
ニーチェ「見てみなさいよ、なかなか様になってるじゃない」
エラ「同感ですわ。とても素敵です」
こんにちは!作者です。第35章が公開されました。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。ご意見やご感想などございましたら、いつでもお気軽にお寄せください。それでは、良い一日をお過ごしください!




