朝食ミッション!
卵なしでは、美味しい朝食は完成しません!だからこそ、私たちは使命を帯びているのです!
「まあ、その主張にも一理あるわね。朝ごはんの支度が整うまで、ここでゆっくり時間を潰すとしましょうか」
キメントは無言のまま、深く頷いて同意を示した。
「それに、今後の計画も練っておく必要がありますわ。ルーサー様は冒険者としての第一歩において助力を申し出てくださいますが……かといって、このお宅に永遠にお邪魔するわけにもまいりませんし」
ウイタが真面目な顔つきで語りかけると、ツヤも静かに応じた。
「ああ。もっと手っ取り早く金を稼ぐ方法を考えないとな」
「例えばさ……手分けして別々に依頼を受ければ、倍の速さで金が貯まるんじゃないか?」
ニッツェの提案に、シンソが少し心配そうに口を挟む。
「確かに……ルーサーさんのパーティに同行させてもらいながら、個別で稼ぐのは良いアイデアだね。でも、僕たち全員に見合う都合の良い依頼が、そんなにタイミングよくあるのかな?」
「もし危険な依頼なら、二人一組で挑めばいいんだよ。そうすれば問題ないだろ」
キメケノが満足げにニヤリと口元を歪めた。
「よし! その方針で決定だな!」
「威勢が良いのは結構ですが、一番肝心な宿の確保はどうされるおつもりですか?」
ナツキが呆れたように尋ねると、キメケノが腕を組んで胸を張った。
「この世界の金を腐るほど稼ぎ出せば一発で解決だろ!」
「そう簡単に事が運ぶとは思えませんが……」
シンソが小さくため息を漏らすと、エラが穏やかに提案を重ねた。
「依頼の最中や合間に、街に出て色々な方と交流を深めるのも良いかもしれませんわね」
「ええ。この lands の風土を深く理解し、叶うならば頼もしい協力者や友人を得たいものです」
ウイタが頷く。
「そういえば……レツカさんが言っていたな。この土地にも『理の行使者』は存在するが、その存在は極めて稀だって」
ツヤが思い出すように口にすると、ニッツェが胸を張った。
「そりゃそうだろ! そこらへんをのぞのぞ歩き回ってるはずがないじゃん。絶大な力を持ってる奴か、相応のランクにいる奴に限られるはずだぜ」
「理にかなった推論だな」
ツヤが同意すると、ニッツェは手を開いて大袈裟に肩をすくめた。
「まあいいや! 説教臭い会話はそこまでにして、昔馴染みらしく気楽にいこうぜ! まったく、肩が凝って仕方がないっての!」
ニッツェがブツブツと愚痴をこぼすと、エラが艶やかな微笑みを浮かべて忍び寄った。
「あら……? そうかしら、ニッツェちゃん?」
「う……出たな、その怪しい声……!」
エラは滑らかな動作で膝行し、ニッツェの至近距離へと顔を寄せた。
「ニッツェちゃん……昔ながらの仲良しさを望んだのはあなたでしょう? ならば、いつもの『お泊り会』みたいに、その柔らかいお肌に噛みついて差し上げますわ!」
「頼むからやめてくれぇっ! 外から見たらアタシが恥ずかしい目にあわされてるみたいじゃないか!」
ニッツェが必死に逃げ回る姿に、ツヤは可笑しそうに口元を緩め、キメントは相変わらず石像のような無表情を守り、キメケノは心底興味なさそうに視線を逸らしていた。
「エラさん、私からもお仕置きをお願いしますわ。さっき食卓の場で、私たちの秘密を暴露しかけていましたし」
ナツキが畳みかけるように告げると、エラは手をポンと叩いた。
「おや、本当ですわね……すっかり忘れておりましたわ。思いがけぬ口実が増えてしまいましたこと」
「ぎゃあぁぁ! 離せーッ!」
――バタンッ!
唐突に扉が押し開かれ、荒々しい声が室内に響き渡った。
「ここで一体何の大騒ぎだ、貴様らッ!」
一瞬にして場が凍りつき、全員の視線が扉の人物へと集まった。
「何を朝から醜態を晒しているのよ?」
「……ルーサーさん?」
「一体どこへ行っていらしたのですか?」
ルーサーは眉間に深いシワを寄せ、苛立ちを隠さずに吐き捨てた。
「母上たちが目覚めたんだけど、食材の『卵』が底をついていてね。早朝から『立方卵』を探し回っていたんだけど見つからないのよ」
「……りっぽう卵?」
「一体何の話をしているんだ?」
「ええい、説明は後よ! 静かにしなさい、父上とツクモ様はまだお休みになられているの。サラマもね……貴様らのその不潔な戯れは、もっと息をひそめてやりなさい!」
「いえ……これは決してそのような不潔なものでは――」
ウイタが弁明しようとすると、エラは妖しく微笑み、ニッツェの耳元で囁いた。
「ふふ……ルーサー様の仰る通り、本当に戯れを実行に移してしまいましょうか?」
ニッツェは全身を硬直させ、目を丸くして懇願した。
「エラ様、平にお許しを! アタシは将来、格好いい旦那様を迎えて三人の子宝に恵まれる平穏な未来を望んでるんだ! 嫁入り前の体に傷をつけないでくれーっ!」
「大袈裟なやつね……」
ルーサーは呆れ果てたように背を向け、「まったく、近頃の女の子同士の戯れときたら……」と呪詛のように呟きながら去っていった。
「……立方卵とは一体何なんだ? それにしても、急にお腹が空いてきたな」
「俺もだ……!」
キメケノが腹を押さえる。
「ならば、あの方々の支度をお手伝いしに行きましょう。無為に厄介者となるわけにはまいりませんからね。朝食を終えたら、冒険者ギルドへ行って登録を行わなければなりませんし」
エラがようやくニッツェを解放し、全員が立ち上がった。部屋を後にし、一階の酒場へと階段を下りていく。ルーサーは長机の上に腰掛け、手持ち無沙汰そうに誰かを待っていた。
「やあ、ルーサーさん」
「ふん、ようやく起きてきたの。ちょうどいいわ……貴様らには『卵』の採集を手伝ってもらうわよ」
一行が問い返そうとした瞬間、厨房からキリシマが顔を覗かせた。
「そうなのですよ。食材自体はあるのですが、全員のお腹を満たすには少々足りなくて……」
「問題ないわ。私とこいつらで一走りして取ってくるから」
「申し訳ありませんね、皆様。手を貸していただけると大変助かりますわ」
「滅相もございません。喜んでお手伝いいたします」
ウイタが丁寧に応じる。
「よし、堅苦しい挨拶はおしまいよ。時間がもったいないわ。行くわよ」
ルーサーは一切の躊躇なく店を飛び出し、一行もその後を追った。
「尋ねられる前に教えてあげるわ。以前、サラマと一緒に行った清流の場所を覚えているかしら? 沼地の大木に似た樹木が群生していた場所よ。これから、あの清流の『北』ではなく『西北』の領域へ足を踏み入れた場所を目指すわ」
「……その『卵』というのは、鳥の産み落とす卵なのですか?」
シンソが尋ねる。
「は? 違うに決まっているでしょう。鳥なんてまったく関係ないわ。私たちが狩るのは『立方卵』そのものよ」
「……形が『立方体』ということでしょうか?」
「概ねその認識で合っているわ。名前の由来もそこからよ」
「どのようにして採集するのですか?」
ナツキの問いに、ルーサーが短く答えた。
「腕に抱えて運べば済むわ。ただし……一個につき重さは二貫(約二キログラム)はあるけれどね」
「二キロも……!?」
「……あらかじめ警告しておくわね。あの魔物はほぼ盲目けれど、音の揺らぎ(振動)に対して異常なほど敏捷に反応するわ。特に『尾』の可動域には絶対に近づかないこと。怪しい羽音や足音を察知した瞬間、尾から空気中で拡散する極小の『針弾』を放ってくるわ。その針を浴びれば、呼吸を絶たれて死に至るわよ。……脅しじゃないからね」
あまりの不穏な生態に、一行はゴクリと息を呑んだ。
「……巨大な魔物なのですか?」
ウイタが尋ねる。
「いいえ、小さいわ。脚部が極端に短いから、地に這いつくばるように移動するの。地表から胴体のてっぺんまでわずか三寸(約9cm)。胴体から生える三寸の角張った胴部と、そこから伸びる三寸三分(約10cm)の極細く長い尾を持っているわ。要するに、全身のあらゆる部位が『角張った』異形よ」
「……実におどろおどろしい生態ですね」
「――と、無駄話をしている間に清流へ到着したわね。川を渡る時は細心の注意を払いなさい。『宙返りクチバシ(跳躍鳥)』どもがすでに目を覚ましているはずだから」
ツヤは嫌そうに顔を歪めた。
「……また、あの奇妙な鳥どもか……」
こんにちは!作者です。新しい章を公開しました!楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!それでは、また!




