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視点

奴らは本当にバカで無知だ! 聞きたくない! 見たくない! 奴らのせいで外に出られない。何も知らないくせに喋りまくって、くだらない馬鹿げた話題ばかり。 奴らが大嫌いだから、ここから出て行きたい! 嫌いだ! 嫌いだ! 嫌いだ! 奴らが死んでくれたらみんなのためになる。 死んでくれれば、私も安堵のため息をつくことができる。 死んでくれれば、私の国と環境はもっと良くなる!

「中央部は遥かに豊かだが、都市の数も人口も極端に少ないんだ」


紫煙をゆっくりと吐き出しながら、レツカはヒラマの言葉を引き継ぐように語った。


「それに、あそこは何かを『生産』する場所ではなく、徹底的に『消費』するための場所だからな。富裕層は自らの手を汚して何かを生み出そうとはしないし、地理的にも活発な経済活動を営むには適していない環境なのだよ」


「それは、どうしてでしょうか?」


身を乗り出して尋ねるウイタに対し、口に含んだ肉を飲み込んだルーサーが、どこか冷めた声色で答えた。


「私たちが今いるこのイオトゥノ市みたいに、北部や南部の都市には地方特有の広大な田園風景や未開の地が広がっているからよ。地形的にも生産活動にはうってつけなの。要するに、ただの田舎ってことね」


「なるほど……確かに理にかなっていますわね」


ウイタは真面目な顔つきで深く頷き、納得の意を示した。それに続いて、エラが探るような視線を大人たちへ向けた。


「都市や地域によって、住んでいる種族の割合に違いはあるのかしら?」


「先程も言った通りだ」と、レツカは静かに頷く。「ここイタニリアにおいて、純粋な人間族はむしろ少数派に属する。人口の大部分を占めているのは、兄弟民族である『ポル族』と『ユト族』だな」


その言葉を聞くや否や、シンソが目を輝かせて会話に割り込んだ。


「あのっ! さっき道で見かけた、可愛い猫耳が生えている人たちは……?」


「ああ、混血種(ハイブリッド)のことか。奴らの扱いも地域によって様々だが……悲しい現実として、大半は最下層の奴隷階級として扱われているな」


「その通りだ」とヒラマも苦笑いを浮かべながら同意した。


(過酷なこの異世界で生き残るためには、いかなる些細な情報であっても決して見逃すわけにはいかない……。ウイタの持つ鋭い洞察力と状況把握能力は、間違いなく今後のパーティの運命を左右する強力な武器になるはずだ)


ツヤは頭の中で思考を高速で巡らせながら、仲間たちのやり取りをじっと静かに観察していた。


一通りの会話が落ち着きを見せると、エラがふうっと小さく息を吐きながら立ち上がった。


「皆様、本日は本当に長い一日でしたわね。私はそろそろ、自室に戻って休ませていただきますわ」


その言葉に、サラマがパッと顔を綻ばせた。


「あ、うん! 女の人は私の部屋を使ってね! 男の人たちは……えっと」


ルーサーが面倒くさそうに手をヒラヒラと振る。


「私の部屋を使いなさいよ。どうせ狭いんだから、誰も気にしないでしょ」


「本当ですか!? ありがとうございます、ルーサーさん!」


シンソが素直に満面の笑みで感謝を述べる。


一行はそれぞれ割り当てられた自室へと移動を始めた。ウイタは新たな知識を得られたことに密かな安堵を覚えつつも、ツヤに対する拭いきれない違和感と懐疑心を胸の奥底に燻らせていた。いつか、彼に関する決定的な証拠を掴まなければならない――そう固く心に誓いながら。


「ウイタ? どうかされましたか、そんな浮かない顔をして」


ナツキの丁寧な声にハッと我に返ったウイタは、瞬時に完璧な微笑みを顔に貼り付けた。


「いいえ、何でもありません。少し夕食を食べ過ぎてしまったかなと思いまして」


「あははっ、確かに最高の美味さだったもんな!」


ニッツェが無邪気に笑う。エラがクスッと微笑みながらサラマの部屋へと入り、木製の扉が静かに閉じられた。


ツヤは少女たちが立ち去っていく後ろ姿を見送っていた。空腹は満たされ、十分に休息をとったはずであるにもかかわらず、全身を苛むような異常な疲労感と見えない重圧に襲われていた。まるで視界の端から世界がぐにゃりと歪み始めるかのような、悍ましい不快感。男たちがルーサーに続いて二階へ上がろうとしたその時、レツカの低く重い声が彼を引き留めた。


「……ツヤ。お前は、少し残れ」


ツヤはピタリと足を止め、怪訝そうな表情で振り返った。ゆっくりと歩み寄り、レツカとヒラマの前に立つ。

次の瞬間、レツカが突如としてその場に膝をつき、冷たい床に額を擦り付けた。


「頼む……! 私と、私の家族を……どうかお許しください! 本当に……申し訳ありませんでした!」


ヒラマも血相を変えて駆け寄り、同様に床へ這いつくばるように土下座の姿勢をとった。


「お願いだ、私たちのささやかな家を壊さないでくれ……!」

「ご覧の通り、私には守るべき大切な家族がいるのです! 私の知り得る限りの情報はすべて差し上げました……ですから、どうか!」


ツヤは驚きに目を見張った。しかし、その直後――彼の表情からあらゆる人間らしい感情がスッと抜け落ち、氷のように冷酷で無機質なものへと変貌した。


(……なんだ、この醜い虫ケラどもは。結局のところ、こいつらは全員、最初からそういう目で俺を見ていたというわけか)


「反吐が出るな、吐き気のする下等生物どもが」


ツヤの口から、冷酷極まりない言葉がとめどなく溢れ出した。胸の奥底にどす黒く溜め込まれていた憎悪と攻撃性が、爆発的に理性のタガを外していく。


「よくもまぁ、そんな不快な餌を食い、醜悪な面を晒してのうのうと生きていられるものだ。俺がこの世界の理を知らないからと、陰でニヤニヤと嘲笑っていたのだろう!?」


ツヤの瞳が異様な光を帯び、狂気と共に肥大化していく。


「生まれてきた子供たちも、親に似て揃いも揃って醜悪だ。特にあのルーサーとかいう女……横柄な態度で他人を見下し、踏みにじることしか知らんのだろう。無知な人間をあざ笑うことしかできない愚物め!」


「死ね……! 今すぐ俺の目の前で死んで失せろ! お前たちが撒き散らす穢れた空気を吸うことすら、耐え難いほど不快だ!!」


恐怖に顔を歪めたレツカとヒラマは、ガタガタと身を震わせながら懐から護身用の短剣を引き抜いた。そして一瞬の躊躇もなく、自らの喉元を深く切り裂いて刃を滑らせた。どす黒い鮮血が間欠泉のように噴き出し、二人は糸の切れた操り人形のように力なく床へと倒れ伏した。


「はは……そうだ、最初からそうしていれば……」


「……父さん?」


背後から響いた悲痛な声に、ツヤは心臓が凍りつくような劇的な恐怖と共に振り返った。そこには、目を血走らせ、怒りと絶望に顔を歪めたルーサーが立っていた。


「このガキがああああッ!!」


ルーサーの目にも留まらぬ踏み込み。ツヤはその圧倒的な速度を認識することすらできず、鋭利な剣先が自らの胸腔を深々と、無慈悲に貫くのを目撃した。口からおびただしい量の血が噴き出す。衝撃と激痛で膝から崩れ落ちると、間髪入れずに放たれた重厚な蹴りが彼の側頭部を無残に捉えた。視界が急速に暗転し、ツヤの意識は深い闇へと絶たれた。――


ハッと息を呑み、ツヤは勢いよく目を開いた。心臓が破裂しそうなほどの猛烈な動悸と共に、自らの胸元を震える手でまさぐる。……傷はない。風穴も開いていない。


「……ツヤ。お前は、少し残れ」


再び背後から響くレツカの声。直前に体験した惨劇の記憶が、鮮明な痛みを伴って脳裏を焼き切っていた。ツヤは荒れ狂う呼吸を必死に整え、フィリップから教わった「感情の制御」をどうにか試みながら、二人の前へと歩み寄った。


「……はい。何でしょうか、レツカさん」


その言葉を言い終えるか言い終えないかの瞬間――ツヤの視界が跳ね上がった。強烈な衝撃と、精神を破壊するほどの激痛。視線を落とすと、再び自らの胸の中央から生え出た、血に濡れた鋼の刃が見えた。肩越しに振り返ると、そこには絶対零度の冷酷な眼差しでこちらを見下ろすルーサーの姿があった。


ルーサーは容赦なく剣を引き抜くと、ツヤの背中に骨を砕くような極大の蹴りを叩き込んだ。ツヤの体は無様に床を転がり、背後の壁に激突して力なく崩れ落ちた。


レツカとヒラマは、感情の完全に失われた虚ろな瞳で倒れるツヤを見下ろしていた。ルーサーがゆっくりと歩み寄り、死神のような冷徹な一言を言い渡す。


「この悪魔め……食事の時から、お前の撒き散らす狂気の臭いが鼻について堪らなかったのよ」

「レツカ、悪魔を地獄へ送り返せ。仲間の悪魔どもごと、すべて焼き尽くすのだ」


ツヤの目が恐怖で極限まで見開かれる。ルーサーはツヤの髪を乱暴に掴み、そのままズルズルと裏庭へと引きずり出した。ゴミのように投げ捨てられたツヤは、胸の致命傷がもたらす激痛により、這い蹲ることすらできない。


やがて、芳しい焦げ臭さが鼻腔を突いた。ふと見下ろすと、自らの衣服の裾に火が放たれていた。猛火は一瞬にして身体を包み込み、筆舌に尽くしがたい灼熱の激痛が全身の神経を焼き焦がしていく。


「がああああああッ!? 痛い! 熱い! 助け……っ!!」


遠のく意識の向こう側で、家屋の方から仲間たちの悲痛な絶叫が聞こえてきた。サラマに惨状を説明しようとするレツカの怒号。全身を苛む異常な高熱はやがて感覚を麻痺させ、痛覚神経の破壊と共に急速な体温低下と絶望的なショック状態をもたらした。口から泡を吹き、ツヤは断末魔の絶叫の中で絶命した。――


猛烈な心拍数と共に、ツヤの意識が再び浮上した。激しい恐怖と狂気が、もはや完全に彼の精神と行動を支配している。眼前に立つレツカが口を開く。


「ツヤ。お前は、少し――」


「死ねぇぇぇえええッ!!」


ツヤの精神はすでに崩壊していた。直前のループで味わった絶望と惨劇が、彼の精神の真髄(しんずい)までを狂気で黒く塗り潰していたのだ。彼は懐から蜘蛛狩りで使用した短剣を引き抜くやいなや、男たちの後を追おうとしていたルーサーの頸動脈へ向けて、獣のように飛びかかり深々と突き刺した。


ドクドクと噴き出す血飛沫。吐血しながら倒れたルーサーの上に馬乗りになり、狂ったように短剣を何度も、何度も執拗に突き立てる。


「どうだ!? これでも俺を悪魔と呼ぶか、この無知な田舎者がぁッ! 喋ってみろ! 痛いだろ!? ええ!?」


血塗れの手に歪んだ興奮と歓喜を感じながら、狂気の叫びを上げるツヤ。ふと振り返ると、そこには絶句し、恐怖に慄く男性陣の姿があった。しかし、その瞬間――


――灼熱の衝撃。


ツヤが右側に視線を向けると、自らの右腕が肩口から綺麗に切断され、生々しい肉片と共に床へ転がっていた。コンマ数秒遅れて襲い来る地獄のような激痛に、ツヤは左手で右肩を抱きかかえ、鼓膜を破るような悲鳴を上げながら壁際へと後退した。


そこには、血塗られた出刃包丁を握りしめ、目を限界まで血走らせた母・キリシマの姿があった。圧倒的な狂気と殺意に満ちた空間。連続する風切り音(シンク)と共に、ツヤの残された左腕もまた、鮮血の軌跡を描いて空中に舞った。


「ひあああああっ! 助けっ……腕が、俺の腕がぁぁぁッ!!」


両腕を失ったツヤは無様に床を転げ回り、涙と鼻水、そして血で顔をぐしゃぐしゃに濡らした。キリシマが惨殺されたルーサーの遺体からゆっくりと目をそらし、ツヤの顔面を握りつぶさんばかりの恐ろしい力で掴みかかった。


「お前が……お前が私の娘を殺したのね……! たった一人の、愛おしい私の宝ものを……この悪魔がぁぁぁッ!!」


「あ, あう……許し……っ」


「私の一番大切なものを奪ったお前に……相応しい絶望を与えてやる!!」


狂乱するキリシマの鼓膜を劈くような絶叫を最後に、ツヤの視界は漆黒の闇へと沈み、意識は完全に断絶した。

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