狩猟の成功
こうした素敵な瞬間が生まれる真の理由は、チームワークにある。
第16章
ツヤは呆れたように首を左右に振った。
「本当にお前は、大げさなんだよ……」
ニッツェはひっくり返っていた場所から体を起こし、地面に座り直した。
「でもマジで超楽しかったぜ!」
「そうだね……確かに危険ではあったけど……」
シンソが同意する。
するとキメケノが背後に回り込み、シンソの首に太い腕をギチギチと巻きつけて締め上げた。
「おいおい、シャッキリしろよ、もやしっ子! 肉も大量に手に入ったし、クソ興奮しただろ、なあ!?」
シンソはキメケノの胸に押し付けられたまま、必死に手を伸ばしてその腕を解こうともがいた。
「わかった、わかったから! 参った、参りました! 離して、息ができない……!」
キメケノはゲラゲラと大声で笑いながら手を緩めた。誰もがその光景に微笑ましさを覚える中、サラマが全体の意識を引き戻すように声を張り上げた。
「はいはい、そこまで! みんな、そろそろ戻るわよ。日が暮れてきたし、今夜は大ごちそうなんだから!」
ニッツェは歓声を上げて跳ね起きると、他の面々と一緒に蜘蛛の死骸をまとめる作業を手伝い始めた。一行が一回りも大きな成体の蜘蛛十匹を頑丈な縄で縛り上げ、ずるずると引きずり始める。
「いい感じね。来た時と同じ道を戻るわよ」
一行が歩みを進める中、ウイタがサラマの隣に並んだ。
「ねえ、サラマ。お姉さんのルーサーさんは、近いうちに家に戻ってくるのかな?」
「ええ、もちろん! 毎晩夕食の時には必ず帰ってくるわ。親父もみんなに少しずつ打ち解けてきているし、うちの酒場はあんたたちにとって安全な拠点になると思うわ」
「ご自宅はどこにあるの?」
ナツキが尋ねる。
「酒場と一体になっているの。二階が私たちの生活スペースよ。他の建物に比べたら結構大きめの造りだから、すぐに分かったでしょう?」
「ああ、確かにそうだったな。運が向いてくれるといいんだが」
ツヤが静かに頷く。
一行は先ほど渡った清流に辿り着き、静かに川を渡り切った。太陽はゆっくりと斜陽となり、辺りには薄暗い帳が下りつつある。樹木の影が限界まで長く伸びる中、彼らは足を進め、ついに境界門へと着いた。
門の前に立ち止まると、脇に控えていた衛兵が声をかけてきた。
「何の用だ?」
サラマは腰の剣の鞘を示してみせた。その際、ウイタは自分たちに貸与された剣と比べ、サラマの剣に刻まれた『レ』の紋章の上に、小さな王冠の意匠があしらわれていることに気づいた。彼女にとって、それは単なる装飾以上の意味を持っているように思えた。
「サラマ・レツカ。キロスマ・レツカの孫よ」
鎧を着た衛兵は、書物を収めるために作られた幾つものポケットから、厚みのある小冊子を取り出した。衛兵は指先でページを滑らせ、目的の頁で手を止めて呟く。
「レツカ……レツカ……どこだ……あった。よし、家系図はオユコ/イオトゥノの記録と一致する。後ろの者たちは貴殿の客だな? 通ってよし」
衛兵が甲高い口笛を吹くと、重厚な扉が地鳴りのような音を立てて開いた。一行はサラマに続いて中へと足を踏み入れる。
「管理がかなり徹底されているんだね」
ウイタが感心したように言う。
すかさずニッツェが口を挟んだ。
「だけどさ、さっきの衛兵、絶対にお前の顔を何度も見てただろ? 知ってるはずなのに、なんでいちいち確認するんだよ?」
「兵士に対する監視の目が厳しいのよ。自分の家族であっても容赦なく手続きを踏ませるわ。手にイオトゥノみたいなイタニリアの都市に入るには、都市ごとに登録された家系図のシステム(戸籍)があるの。市民権を持たない者は、一時的な滞在許可か、市民の印章を得ないと入れない仕組みになっているのよ」
「ということは、各都市がまるで一つの国のように独自の市民権を持っている、ということか?」
ウイタが分析するように問う。
「ええ。イタニリアは多種多様な民族の集合体だからね。各民族が自分たちの血統を守るために特定の都市に固まって住み着いて、結果としてこういうシステムが完成したの」
「なら……排外主義や差別意識も相当強そうね」
ナツキが呟く。
ニッツェは深くため息をつき、確信めいた口調で言った。
「賭けてもいいが、絶対にそうだろ」
「まあ、場所によるわね。私が歩き回った限り、イオトゥノではそういう露骨な事件はあまり見かけなかったわ。貧困層が多くて、元からごちゃ混ぜの構造をしているからでしょうね。親父の話だと、ここにはユト族やポル族も多く住んでいるらしいわ。それに、獣人の混血種も多いけれど……大抵は下層階級として扱われて労働させられているわね。道すがら、猫の耳を生やした男や女を見かけなかった?」
シンソが興奮気味に身を乗り出した。
「僕、見ました! 猫耳の女の人が、すごく可愛い猫耳の赤ちゃんを抱っこして歩いてました!」
「ええ、まさにそういうことよ」
一行は会話を交わしながら歩みを進め、背後に蜘蛛を引きずったまま、ついに目的の場所へ辿り着いた。
「お父さん! お母さん! ただいま!」
サラマが声をかけると、トタトタと小さな足音が近づいてきた。直後、小さな力で扉が静かに開かれる。扉を開けたのはキクロウだった。一行をじっと見つめるキクロウを、すぐ後ろから現れたツクモが愛おしそうに抱き上げた。
そして、一行に向かって温かい笑みを向けた。
「おかえりなさい。見たところ、素晴らしい成果だったようね」




