狩猟とチームワーク
チームワークは生産性を向上させ、仲間意識を育み、共に楽しい時間を過ごすことを保証します!
ツヤはしばらく言葉を失っていた。
本当に……うまくいったのだ。男は言葉をしっかりと聞き取ってくれたし、何の問題も起こらなかった。それどころか、親しみやすい笑みすら浮かべている。
「この歳になっても、そんな奇妙な格好は初めて見たよ。まあ、悪くないんじゃないか? 俺の名はユツカ・ヒロタナ。イオトゥノ市オユコ地区の境界警備隊長だ。サラマの親父とはちょっとした知り合いでね」
「お会いできて光栄です、隊長殿」
ウイタが礼儀正しく応じた。
「アタシはニッツェ。で、さっきおっさんが性別を勘違いした、その青い髪の奴がツヤだ」
ニッツェは全員を順番に指差しながら紹介していった。
「そうかそうか、よろしくな。……これから狩りに行くんだろ? 邪魔しちゃ悪いな」
ユツカはゆっくりと体を起こすと、手で門の方へ合図を送った。間もなく甲高い口笛が響き渡り、重厚な扉が地鳴りのような音を立てて開いていく。
「サラマならあの辺りの地理は熟知しているはずだ。無理はせず、十分気をつけて行けよ」
「ありがとう、ユツカおじさん!」
サラマが門の外へ踏み出し、一行がそれに続いた。
進むにつれ、周囲の風景は荒涼としたものへと変貌していく。黄ばんだ草がまばらに生える荒野、枯れかけた樹木、そして緩やかな丘陵。だが不思議なことに、どこか穏やかな静けさが漂っていた。
サラマは地図すら見ずに進んでいく。行き慣れた場所なのだろう。
「百二十メートルほど先に清流があるの。その周辺には『宙返りクチバシ(タッカチ・グチバシ)』の巣があるから、できる限り刺激しないように進んでね。川を渡ると乾燥した荒地が見えてくるわ。私たちの狙う獲物は、そこに巣を張っているの」
「なんだよ、その固っ苦しい話し方は? それに『宙返りクチバシ』だあ? なんて妙な名前だ」
ニッツェが呆れたように呟く。
「そんな名前がついている以上、それ相応の理由があるはずよ」
ナツキがフォローを入れる。
「おそろしい鳥じゃなきゃいいけど……」
シンソはそう言いながら、思わずツヤの腕にしがみついた。
「おい、すぐにくっつくなよ。大丈夫に決まってんだろ」
ツヤが辟易しながらも応じる。
キメケノが興奮を抑えきれない様子で声を張り上げた。
「よっしゃあ! ついにスリルとアドレナリンの時間がやってきたぜ!」
エラは極めて冷静なトーンでニッツェに尋ねた。
「最初に悲鳴を上げて逃げ出すのは誰だと思う?」
「訊くまでもないだろ。シンソに決まってる」
「ちょっと! 僕はそこまで臆病じゃないぞ!」
「はいはい、分かった分かった……」
シンソが不満そうに唇を尖らせる中、一行は歩みを進めた。
小高い丘を越えると、次第に木々の密度が増し、草木の緑も鮮やかさを取り戻していく。
「川の周辺は命が豊かなの。虫が多いから、たくさんの鳥がここに巣を作るのよ」
「理にかなっているな……」
ツヤが頷く。
「着いたわ……ここからは極力声を落としてね。湿気を保つために、巣は地面に近い低い場所に作られているから」
サラマが地図を広げた。現在地は東から北西へと伸びる清流の源流付近。その流域に沿って、小さな草原と森が形成されていた。
「思っていたほど荒涼としてはいないな」
ウイタが呟く。
「『荒地』と言っても、砂漠という意味ではないからね。オユコ地区の境界付近の六割は、こうした荒地や半荒地なの。そもそもオユコ地区は、イオトゥノ市の西側と南西側にしか広がっていないわ」
「勘弁してくれ……マジでその地図を見せてほしいぜ」
ニッツェが頭を抱える。
「家に戻ったら見せてあげるわ。でもまずは蜘蛛狩りよ!」
一行は、水辺や川の中に根を張る木々の間を静かに通り抜けた。一見すると沼地のような足場だったが、水は極めて澄んでおり、樹木の生態も沼地のものではなかった。水面下には、驚くべき速度で泳ぎ去る魚たちの影が見える。
足元に気を配り、声を潜めながら川を渡り切ると、ついに乾燥した荒地が姿を現した。その大地には、巨大な洞(穴)がいくつも穿たれている。しかも、見渡す限りの数だ。
サラマが抜刀し、身構えた。
「おおう……開戦か? 最高じゃねえか!」
ニッツェがニヤリと笑う。
シンソは怯えたようにキメントの隣へ滑り込んだ。
「ま、待ってくれ! まだ心の準備が……!」
「大丈夫よ、準備はできてるわ」
ナツキが刀を構える。
キメケノは全身で興奮を爆発させていた。
「これだよ、これ! 来やがれ、来やがれぇ!」
「よし……」
ツヤも身構える。
「全員、剣を抜いて構えて。群れで一斉に襲いかかってこないよう祈るのよ」
一瞬の静寂が場を包んだ。
「――ねえ、大きい人。足を力強く地面に叩きつけて……今よ!」
サラマの指示に、キメケノは笑いながら身体を跳ね上げ、豪快に地面を踏み鳴らした。
直後、土が擦れ合う音とともに、不快なシャーッという威嚇音が響き渡った。蜘蛛特有の、鼓膜を撫でるような不気味な音だ。
「よし! 一匹ずつ出てくるわ! お尻の方に跳躍するための小さな翅があるけれど、飛べるわけじゃないから安心して!」
「跳躍するなんて大切な情報は、もっと早く言え!」
ツヤが叫ぶ。
「時間がないわ! 構えて!」
ウイタが刀を握り直す。
穴のひとつから、人間の脚ほどもある長い肢と、穴を覆い尽くすほどの巨体を持った蜘蛛が這い出てきた。身の毛もよだつほど醜悪で、口元には二本の鋭い毒牙が覗いている。
「跳びかかってくるのを待って! すぐに攻撃しちゃダメ!」
蜘蛛は少し前進すると、凄まじい速度でサラマに向かって跳躍した。サラマは右へ身体をかわし、すれ違いざまに蜘蛛の首を刎ね飛ばした。
「私に続いて!」
サラマが再び地面を強く蹴ると、さらに多くの蜘蛛が穴から飛び出し、次々と跳躍を開始した。
ニッツェは歓声を上げながら、跳びかかってくる蜘蛛を時にギリギリでかわし、時に斬り伏せていく。キメケノは狂ったように武器を振るい、撃ち漏らして着地した蜘蛛を自らの足で踏みつぶしていた。
シンソはキメントの庇護を頼りにしつつ、隙を見ては剣を繰り出す。当のキメントは、一回一回の動作に無駄がなく、流れるような剣さばきで蜘蛛を解体していた。その一撃一撃の精度と美しさは一見の価値がある。
ナツキ、ウイタ、エラの三人は背中を合わせ、互いの死角を補いながら襲い来る蜘蛛を屠っていた。
「みんなすごいわ! もう九匹も仕留めたわよ!」
その最中、ツヤはフィリップの力を意図的に使うことを考えていた。奴が言っていたように、この力を制御し、己を鍛えなければならない。それが自分を強くするはずだ。だが、一体どうやって? 何をすればいい?
ツヤは構えを解き、以前フィリップがやったように手をかざそうとした。――しかし、何も起こらない。
今度は拳を強く握り締め、深く息を吸い込んだ。
瞬間、全身の筋肉が収縮し、冷徹な感覚が全身を駆け巡る。
再び刃を構えて踏み出した。
一変して、動きの速度と命中精度が劇的に向上していた。まるで強力な強化を受けたかのようだ。斬撃の重みと切れ味が、先ほどとはまるで違っていた。
◇
しばらくすると蜘蛛の気配が途絶え、戦闘は終わりを迎えた。
ニッツェはドラマチックに地面へ倒れ込んだ。
「ハァーッ……ハァーッ……死ぬほど疲れた……」
シンソがそのすぐ隣にひっくり返る。他の面々もその場に腰を下ろし、キメントも静かに地面に座り込んだ。キメケノも、認めようとはしないものの息を荒らげている。
サラマは、一人だけまだ立ち尽くしているツヤに視線を向けた。
「本当にすごいわね。みんな、思っていた以上に強いのね。予想以上にたくさん獲れたわ」
「どういたしまして……」
ウイタが息を整えながら応じる。
「ハァー……ハァー……」
「ニッツェ、少し大げさすぎないかしら?」
エラが呆れ顔で言うと、シンソがクスクスと笑い、ナツキも同意するように首を縦に振った。




