同志?
時として、思いもよらない時に、必要な助けが現れることがある。あるいは、こう言うべきだろうか…
――目が、覚めた。
視界が開くと同時に、見慣れた仲間たちの姿が飛び込んできた。衛兵所を脱出した後、再び合流して共に歩いていた、まさにその路地に彼らは立っていた。ツヤの瞳が限界まで見開かれ、肺が狂ったように酸素を求めて激しく上下する。
「ツヤ? 歩かないのですか? さっきまであんなに焦っていらしたのに……」
ナツキが怪訝そうに顔を覗き込んでくる。しかし、ツヤの脳裏からは先ほど魂に刻まれたばかりの、あの悍ましい激痛がどうしても離れなかった。巨大な顎に頭蓋が砕かれ、脳髄が引き裂かれる狂気の光景が、幾度となく執拗にフラッシュバックを繰り返す。
ツヤは耐えかねたようにその場に膝を突き、両手で頭を強く抱え込んだ。ボタボタと地面を濡らす冷や汗と涙の隙間から、押し殺した怒りと死の恐怖が混じった声が漏れ出る。
「もうやめろ……。頼むから、終われよ……ッ!」
奥歯が砕けんばかりに噛み締められ、短く浅い呼吸がヒューヒューと喉を鳴らす。
「おい、一体どうなってやがるんだ」
「ツヤ……? 大丈夫なの……?」
キメントが苛立ちを露わにし、シンソが不安そうに柔らかい声で名前を呼ぶ。ツヤは喉の奥で、血の味がする唾を激しく飲み込んだ。
「ちょっと、どうしたっていうのさ?」
ニツェが冷めたトーンで声をかけるが、ツヤの視界は急速に暗転し、ただあの残酷な死の記憶だけが脳内を支配していた。――あの豚の割れた大口の中で、自らの顔面が容赦なく粉砕されていく、あの生々しい感触が。
だが、その異様な緊迫感は、唐突に破られることとなる。
小さな口におしゃぶりをくわえた、燃えるような赤髪の幼い子供が、シンソのズボンの裾を引っぱったのだ。
子供はチュパチュパとおしゃぶりを吸いながらも、その鋭く細められた視線をまっすぐにシンソへと向けていた。シンソはその小さな子供の目線に合わせて優しく腰を落とすと、できる限りの親愛を込めて微笑みかけた。
「こんにちは、坊や……。迷子になっちゃったの?」
子供は何も答えず、ただじっと見つめ返してくる。暗い影を落とすようにシンソに向かってさらに一歩踏み出すと、その顔をねっとりと見上げ、次の瞬間――その小さな手をおもむろにシンソの胸へと伸ばした。そして、むにゅりと一度、力強く掴んだ。さらにもう一度。
シンソは最初、何が起きたのか理解できなかった。しかし、肌に伝わる生々しい感触に凍りつき、反射的に両腕で自身の胸を隠す。
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと、何するのさ!?」
男である自分になぜそんな真似をしたのか、シンソは顔を真っ赤にして後ずさった。
その様子を見たニツェが、面白がって皮肉めいた笑みを浮かべながら身をかがめる。
「へえ……このガキ、なかなか隅に置けないね?」
「チッ、色気づくのが早すぎるだろ……」
キメントが呆れたように吐き捨てる。
その騒ぎの中で、ツヤもようやく激しい動悸を抑え込み、ゆっくりと彼らの方へ焦点の合わない視線を向けた。
すると子供は次の標的をエラに定め、彼女の方へとトコトコと歩み寄ると、小さな手のひらを催促するように開閉させた。
「ダメよ! ……大体、レディに向かってなんてことするのよ!」
エラがピシャリと拒絶すると、子供は即座に両腕をだらりと下げ、ぷいっと後ろを向いて不満げな声を漏らした。
「んむぅっ!」
「気にすんなよ、僕になら何したっていいんだからね!」
「バカなこと言ってんじゃないわよ!」
ニツェがおどけるように笑い、エラがツッコミを入れていると、背後の路地から彼らの空気を切り裂くような鋭い呼び声が響いた。
「キクロウ!!」
現れたのは、燃えるような赤髪を揺らし、腰に立派な剣の柄を覗かせた、全身を甲冑で包む息を呑むほど美しい少女だった。
少女は急速に距離を詰めると、彼らの前に立つなり、キクロウの手首を容赦なくへし折らんばかりの勢いで掴み上げた。
「またおイタをしてるのかい、この小悪党め!」
キクロウは小さな力でなんとか手首を引き抜こうと身悶えするが、少女の鉄腕の前には無駄な抵抗だった。
少女の鋭い視線が、ようやくその場にいる八人のグループへと向けられる。
「あんたたち、一体何者だ? この街の人間には見えないね」
ナツキがへたり込んでいたツヤを支えて立ち上がらせる中、ニツェがいつもの気だるげな調子で応じた。
「おっと……僕はニツェ。このピンク髪がナツキで、こっちのピンクの男がシンソ。あの灰色の髪がウイタで、隣の灰色がエラ。この蒼髪がツヤで、麦わら色の冴えないのがキメントさ。……で、君は?」
「サラマだ。……さっきの紹介、ただの髪色並べじゃないかい?」
「まあね、僕たちは見ての通りカラフルなパーティなんだよ。そうだろ、キメント?」
「黙れ、誰が麦わら色だ!」
キメントの怒声をニツェは軽く受け流し、さらにサラマへと視線を戻した。
「その生意気なクソガキは、君の弟か何か?」
「ああ、一応ね。父親の『三番目の妻』の子さ」
その言葉に、全員の目が見開かれた。
「へえ……そりゃまた、君の親父さんはずいぶんとお盛んなんだね。兄弟は何人いるんだい?」
サラマは深くため息をつくと、心底うんざりしたように答えた。
「血の繋がったのが四人、腹違いのが七人さ」
「うわあ……」
ツヤが思わず絶句する。すかさずエラがジト目を向けた。
「あんた、さっきまで地面に膝をついて死にかけるほど青ざめてたんじゃなかったの?」
「あはは……いや、その……」
ツヤは冷や汗を流しながら、必死に誤魔化すように笑った。
ニツェがさらに問いかける。
「で、その親父さんは何をしてる人?」
サラマは振り返り、路地の先にある古びた建物を親指で指し示した。
「すぐそこにある酒場の店主さ。この界隈じゃ、一番上質な酒を出す店だよ」
それを聞いたツヤが、ごくりと喉を鳴らしながら一歩前に踏み出した。
「あのさ……じゃあ、その少し先にある『薬草の記号』が描かれた店の男のことも知ってるか?」
「ああ、ヴェインさんのことかい? 腕は確かだし悪い人じゃないんだけど、時々酷く不気味な雰囲気を漂わせるんだよね。……それがどうしたんだい、急に?」
「い、いや、ただの世間話だよ……。それより、君の親父さん、俺たちを助けてくれたりしないかな? 実はここの土地勘が全くなくて……」
サラマはキクロウの腕をさらに強く引き絞ると、自らの酒場へと向かって迷いのない足取りで歩き出した。
「ついてきな。……運が良けりゃ、話くらいは聞いてくれるさ」
サラマは、今度はニツェの方へと懲りずに手を伸ばそうとしていた弟の身体を、容赦なく強引に引きずっていった。
一行はサラマの後ろを無言で追随し、やがて目的の酒場へと辿り着いた。サラマは空いている方の手で重々しい扉を押し開け、中へと足を踏み入れる。ツヤたちも周囲の様子を油断なく伺いながら、それに続いて滑り込むように入ると、背後で静かに扉が閉まった。
古びてはいないものの、どこか独特な異国情緒を漂わせるその店は、大半の座席が空いているごくありふれた酒場だった。しかし奇妙なことに、どのテーブルの上に置かれているジョッキも、異常なほど分厚いガラスで作られている。
サラマはカウンターの最もしのびやかな隅の席に腰掛けている一人の大柄な男に近づくと、抱え上げていた弟を突き出すように差し出した。
「このお盛んな息子を引き取ってよ。相変わらず通りすがりの女の人たちをベタベタ触ってたんだから」
男は豪快に口元を歪めて笑うと、我が子を愛おしそうに太い腕の中へと収めた。
「がははっ、さすがは俺の息子だ! いい獲物は引っかかったか、キクロウ?」
キクロウは興奮した様子で激しく首を縦に振り、入ってきたツヤたちのグループを小さな指で指し示した。男が彼らに視線を巡らせると、そこにいた少女たちの顔には一様に、隠しきれない失望と明確な嫌悪の表情が浮かんでいた。サラマはいたたまれなくなったように、片手で自らの顔を覆う。
「おお、これは失礼! 俺はレツカ、よろしくな! ……息子がちっとばかし悪さをしたようだが、まあ、このあたりは俺の血を色濃く引いちまった証拠ってやつさ」
レツカはキクロウの赤髪をクシャクシャと乱暴にかきむしりながら、悪びれもせず言い放った。
「普通ならお前らみたいなガキに酒は出さねえんだが、俺の店じゃそんな細かいルールは知ったこっちゃねえ。この空気の重さに耐えられるってなら、適当にそこに腰掛けな。ただし、ガキどもの青臭い身内話をする時は静かに頼むぜ」
レツカは自らの言葉がさらに墓穴を掘っていることに気づいていなかった。しかし、ニツェが躊躇なく対面の空いている席に腰を下ろすと、他のメンバーもそれに導かれるようにして次々と席へついた。
「父親、この人たちは他所から来たばかりなんだ。何か仕事を探してるみたいで、あんたの力を借りたいってさ。どうする?」
レツカは手元の大ぶりなジョッキを持ち上げ、中身を喉の奥へと深く流し込んだ。キクロウはその隙に彼の逞しい肩へとよじ登っていく。やがて、プハーッと気持ちよさそうに喉を鳴らし終えたレツカが、低い声で口を開いた。
「ルターの奴が、また近々任務に出る手筈になってる。そいつが戻るのを待ちな。もしあいつが首を縦に振るなら、一緒に働かせてもらえばいい」
「はあぁっ!? ちょっと待ってよ! まだ私だって、あのお姉様と一緒に仕事をさせてもらえてないのに!」
「あいつが認めれば、の話だ。この赤毛め」
「んむぅっ! どうせあの人が認めるわけないじゃない!」




