072
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7月5日(月曜日)、16時21分
帯渡島小中学校、廊下
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……なかなかに精神的にくるモノがある。
転校初日のこの日。
俺はn=0とまったく同様に、アツシと脱走し、つかまり、そしてサヤカ先生のきっつーいお説教を拝聴するハメとなった。
もちろん、その目的は前の世界の再現である。
ただ、一言一句かわらぬお小言をちょうだいするというのは結構酷で、しかもサヤカ先生は頭に血がのぼると同じ話を繰り返す悪癖持ち。
俺は途中から、半ば本気で〝また時間が巻き戻ってるのではないか?〟とする疑念をいだきつつ、ハラハラしながら話を聞いてた。
だがようやくソレも終わり、職員室を出て、教室からカバンを回収し、そのまま幽鬼のような足取りで昇降口へと向かう(これだけは演技でなく素だ。それくらいサヤカ先生の説教はしんどかった)。
やはりこの時間は西日がキツイ。制服にべっとりと汗がにじむ。
しかし、気を抜いてはならない。
今日一番の重要な出来事は、このあとだ――
【俺】
「ん?」
【ミコト】
「あ」
そこでミコトと鉢合わせた。
下駄箱が並ぶ、昇降口の前。
まるで。俺のことを待っててくれたみたいに。
【ミコト】
「ハツホさんに頼まれたんだよ。オマエが道に迷わないよう一緒に帰ってくれって」
……今ならわかる。
コレはきっと、ミコトがとっさについたウソだったのだろう。
実際、前の世界でハツホに訊いた時、アイツは妙な反応をしていた。
【俺】
「いや、さすがに迷わねーよ。朝だって普通に来れたんだし」
【ミコト】
「どーだか。迷わなくともどっかでフラフラ道草食うかもしれないじゃん。オマエ、この後お店の手伝いなんだろ」
ミコトは本当に、俺を待っててくれていたのだ。
ただソレを真っ向から認めるのが気恥ずかしく、こうしてウソをついたのだろう。
今、前の世界の再現という名目で、演技を――ウソをつき続けている俺だからこそ、気づけたことだ。
……なんとも皮肉な話である。
【ミコト】
「だからほら。早く行くぞ」
【俺】
「おう」
だが本題はソレではない。
ここからだ。
ここからが、重要なのだ。
【俺】
「……?」
下駄箱で外靴へと履き替える際、ふと違和感を覚えたような――演技。
意識して一歩後ずさり、下駄箱を少し広めの視点でとらえる――演技。
【俺】
「なあミコト、これって――」
声を掛けて振り返り、
「~~っ⁉⁉⁉」
皿のように目を見開いたミコトにたじろぐ――演技。
【ミコト】
「……ああ、それ? 去年いた人のだよ」
【俺】
「去年いた……? もう卒業したってことか」
【ミコト】
「うん、まあ………………そんなとこ」
平静を装って前の世界の会話をなぞりつつ、俺は必死でいま目にした情報を脳内に刻みつけていた。
あの、六人目の上履き。
その踵のところに書かれていた名前。
藤代結――。




