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ふぁでぃす・ばでんでぃん! ~バッドエンドからはじまるループもの~  作者: 作一生一
ミズコガエシ編

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*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*

 8時28分

 帯渡島(おびとじま)本道、潮見ヶ丘(しおみがおか)付近

*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*

 

【俺】

「もー無理。ちょっと休もうぜぇ……」

 

【ミコト】

「はぁ? オマエまさか、もうバテてんのか。ザコすぎでしょ」

 

【俺】

「うっせ。こちとら重い荷物ひきずってんだよ」

 

 言いつつ、俺は頭の中でまったくベツのことを考えていた。

 

 ――俺は、未来を知っている。

 

 ――しかも、ソレを変えられれる。

 

 船の中でこのことを確信した俺は、しかしながら同時にいくつかの問(・)題(・)点(・)にも気づいていた。

 

【俺】

(どーなるかがわからねぇ……)

(未来を、変(・)え(・)た(・)あ(・)と(・)が……)

 

 たとえばあのおじさん。

 

 船で出会った、あの釣り人のおじさん。

 

 前の世界では、接点はなかった。一切なかった。

 

 だがこの世界では、俺が転倒を防いだのをきっかけに、少しの縁が生じている。

 

 あの後、船を降りる準備をしている時に向こうから話しかけてきたのだ。それにより、俺はあのおじさんが八丈島(はちじょうじま)へ釣りにきたことを知り、最後にはジュースとスナック菓子までおごってもらったのである。

 

 これは前の世界ではありえなかった結末だし、この世界の俺にしてみても予想外の出来事だった。

 

 このことから俺は、認識をこう改(あらた)めねばならない。

 

 俺は、未来を知っている。しかも、ソレを変えられれる。

 

 ただし――変(・)え(・)た(・)あ(・)と(・)は(・)、ど(・)う(・)な(・)る(・)か(・)わ(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 言うなればこの力は、諸刃(もろは)の剣(つるぎ)なのだ。

 

 どれだけ俺が未来を正確に知っていようとも、そこから――前の世界から少しでも外れた行動を取った途端、その優位性は失われてしまう。

 

 変えた未来はふたたび〝未定〟となるのだ。

 

【俺】

(問題はソレだけじゃねぇ……)

 

 まだ試してないので予想にすぎないが……おそらく、な(・)ん(・)で(・)も(・)は変えられない。

 

 たびたび例に出して恐縮(きょうしゅく)だが、先の釣り人のおじさん。

 

 今回、俺が起こしたアクションにより、少しの縁が生じたあのおじさん。

 

 たとえばもし、俺がこう持ち掛けていたら、どう反応しただろう?

 

【俺】

『そんなことよりどうです』

『これから一緒に帯渡島(おびとじま)で降りませんか』

『釣りなんか行かずに』

 

 まあ十中八九、頭のおかしいガキあつかいされオシマイだろう。

 

 向こうだって、きっと貴重な休暇を使った上での趣味の時間のはずなのだ。

 

 ソレをいきなり会ったばかりの子供に言われて「はい、そーですか」と曲げるはずがない。

 

 言うなれば――意(・)思(・)の(・)力(・)だ。

 

 人が強い意志をもって〝やろうとしていること〟は、そう簡単に変えられない。

 

 どうしても変えたいのであれば、よほどの準備や対策が必要となるだろう。

 

 言い換えれば〝より強い意志の力が求められる〟ということに他ならない。

 

【俺】

(だから……!)

(そ(・)の(・)た(・)め(・)に(・)、俺は……!)

 

 ――こ(・)の(・)力(・)で(・)何(・)を(・)し(・)た(・)い(・)の(・)か(・)?

 

 その質問に対する俺の答えは明確だった。

 

 ア(・)イ(・)ツ(・)ら(・)を(・)助(・)け(・)た(・)い(・)。

 

 前の世界、瑞古還(ミズコガエ)シが終わってから次々に姿を消したシズク、レイコ、アツシ……そしてミコト。

 

 この四人の連続失踪を防ぎたいのだ。

 

 たとえ、どんな手段を使ってでも。

 

【俺】

(あ(・)の(・)日(・)だ……!)

(瑞古還シの、あの日……!)

 

 間違いなく、アレがひとつの山場である。

 

 追われてたのか――はたまた自分たちからそうしたのかはわからないが、とにかく結果的には還津山(かえづやま)へと入ってしまったアツシたち三人。ソレを追いかけたミコト。

 

 俺が不甲斐(ふがい)なく気絶していた間、そこで何(・)か(・)が起きたはずなのだ。

 

 そのことがアイツらの失踪へとつながったにちがいない。

 

 なので、これを防ぐもっとも単純な手立てとしては、

 

【俺】

(俺が見張るなりなんなりして、アイツらを山に入らせねーってぇのが一番だが……)

(でもソレは……ム(・)リ(・)、かもしんねーな……)

 

 ここで先ほどの〝意志〟の話が絡んでくる。

 

 アレが偶発的な出来事だったならまだ希望が持てる。

 

 しかし、仮にそ(・)う(・)で(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)場(・)合(・)、アイツら自身か、はたまた別の誰かの〝意志〟により、入山したことになる。

 

 ……コレは非常にきびしい。

 

 俺がどれだけ努力しても止められない可能性がある。いやソレどころか、たとえ瑞古還シでは何も起こらずとも、その後日に事件がズレ込む、ということだってありうるのだ。そうなったら手も足も出せまい。

 

 であれば、俺のすべきことは、

 

【俺】

(もし、どーしても止めらんねーなら……)

(俺(・)も(・)一(・)緒(・)に(・)、い(・)こ(・)う(・))

(ついていこう)

(でもって、つきとめよう)

(あの夜、あの場所で、何が起きたかを……)

(ソレが一番解決に近いはずだ……)

 

 となる。

 

 ……正直に言えば、もっとも誠実にしてかつ楽なのは、アイツらに俺がループしてるとハッキリ告(つ)げ、未来を知っているとキッパリ告げ〝このままでは危ない〟というのを信じて貰うことだが……。

 

 しかしソレは、まず無理だろう。

 

 アイツらを説得できるだけの材料がない。

 

 あまりにも、手札が貧弱なのだ。

 

 これには、ここが小さな島というのも関係している。

 

 ……一応、現時点でもあるにはあるのだ。

 

 本来なら――前の世界の俺では、まず知り得なかった情報が。

 

 たとえば中学クラスの担任。

 

 サヤカ先生。

 

 あのヒトは俺がアメリカに行っている間に島に来た。

 

 だからこの段階では、俺が知っているはずがないのである。

 

 しかし、たとえば今ソレを、

 

【ミコト】

「オ、オマエ……!」

「この年になってまだ言うか、ソレ? ボクよりたかが四ヶ月早く生まれたってだけなのに……!」

 

 こうして前の世界の会話をなぞるミコトに告げたところで――俺が未来を知っている証拠だと突きつけたところで、とうてい信じてはくれぬだろう。

 

 少なくとも、俺がミコトならこう解釈するはずだ。

 

 ――ああ、きっとナタローは、船の中か、それとも自分を待っている間か。

   その時にでも、誰かからサヤカ先生のことを聞いたんだろうな。

   ソレで、自分をからかっているんだろうな。

 

 と。

 

 昔、父さんから聞いたことがある。

 

 人間は、心のどこかでつねに〝普通〟を欲しているのだと。

 

 強く、強く、欲しているのだと。

 

 だからこそ、そこから外れるには並々ならぬ意志と努力が必要で、それらを呼び起こせない限り――〝普通〟は絶対に崩せない。

 

 まさしく今、この状況がそうである。

 

 前の世界で、俺が島に戻ってからすごした時間は一ヶ月にも満たない。

 

 その間だけで手に入った情報では、ミコトの――いや、ミコトに限らず他の誰の〝普通〟も崩せやしないのだ。

 

 せいぜい「カンがいいな」とか「ちょっと妙だな」と思われるかどうかで、大抵のヒトは「誰かに聞いたんだろう」「当てずっぽうで言ってんだろう」と聞き流すにちがいない。

 

 もし前の世界で何か深刻な災害でも起こっていて、この世界で俺がそれを〝予言〟でもすれば、話は別だったかもしれないが……俺以外のすべての人にとって幸いなことに、そんな不幸は起こらなかった。よってこの案は使えない。

 

 だから、俺は――

 

【俺】

(誰にも……誰(・)に(・)も(・)、頼(・)る(・)こ(・)と(・)は(・)で(・)き(・)な(・)い(・)……!)

(俺が、俺一人だけで、どーにかしなきゃならないんだ……!)

 

 それ以外に結論を持てない。

 

 そしてそのためには、己の持つ最大の武器を活(い)かすべく、

 

【俺】

「じゃ、じゃあさっきの真賀土(マガツチ)さんってのはもしかして――」

 

【ミコト】

「そうだよ。戦後、裸一貫でマガツチを立ち上げた創業者」

 

【俺】

「へぇ~!」

 

 こうして、舞台女優だった母さんゆずりの演技力で、前(・)の(・)世(・)界(・)を(・)再(・)現(・)し(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 少しでもこの世界での〝ブレ〟を押さえるために。

 

 その上で、肝心要(かんじんかなめ)の局面での〝変化〟を起こすために。

 

 ソレこそが、アイツらを……そしてミコト(コイツ)を守るために必要なことだ。

 

 そのためなら俺は――な(・)ん(・)だ(・)っ(・)て(・)、や(・)っ(・)て(・)や(・)る(・)。

 

【ミコト】

「さ、そろそろ行くぞ。もう十分休んだろ」

 

【俺】

「あ、おいちょっと待てよ」

 

 たとえ、そう、

 

【ミコト】

「おかえり、ナタロー」

 

【俺】

「……ああ、ただいま」 

 

 嘘(・)を(・)つ(・)い(・)て(・)い(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)罪(・)悪(・)感(・)に苛(さいな)まれても、だ。

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