007
*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*
8時12分
帯渡島本道、船客待合所付近
*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*
【ぼくくん】
「ぼくは七年ぶりに再会した幼馴染のおっぱいをもみしだいた、ゴクツブシのヘンタイやろーです……」
はっはっは、やっぱり日本の夏は暑いなぁ。
日かげでもアスファルトがこんなにアチアチだなんて。
こうして土下座でもしなきゃ気づかなかったぜ!
【マコト】
「それだけじゃないだろ、それだけじゃ――!」
マコトの鋭いローキックがゲシゲシと俺のこめかみやら肩やらに突き刺さる。
ちなみにマコトはかわいらしい女もののサンダルを履いていた。
よく日に焼けた素足が、土下座目線の俺の鼻先を素早く行き来する。
ほう、小麦色から足裏の白へと変わるグラデーションが胸を打ちますねぇ……。
俺の中で新たな扉がギギギッと音を立て開きかけていた。
【マコト】
「さてはオマエ、まったく反省してないな……?」
【俺】
「してるって! 反省してる! 超してる!」
【マコト】
「土下座ァ! 誰がやめていいって言ったぁ⁉」
【俺】
「ギャー⁉」
話を整理するとこうなる。
マコト。
一歳から八歳の途中までずっと一緒だった俺の幼馴染。
正真正銘の、女の子らしいです。
ただ、家のしきたり(?)だかなんだかで、ある年齢までは男として育てられてたとか。
なんだよそれ……。聞いてねえよ、知らねえよ……。
ちなみにその〝ある年齢〟というのが八歳で、七年前、俺が島を出た三ヶ月後の一〇月に誕生日を迎え、初めて自分が女子だと知らされたらしい(本人はそれまでずっと男だと思い込んでいたとか)。
【マコト】
「……くぬ! くぬ、くぬっ!」
マコトの怒りは最高潮に達していた。顔を真っ赤にしたまま上下に素早く振り下ろされる足は、ほとんど16ビートのリズムを刻んでいる。
【俺】
「痛で⁉ 痛でて⁉ ……だから痛てーって! もういーだろ⁉ カンベンしてくれ!」
【マコト】
「うるさい! いいから黙って蹴られろ! そのまま死ぬまで蹴られてろ!」
【俺】
「バカ言うな!」
死ぬまで蹴られてたまるか。
「だいたい仕方ねーだろうがよ⁉ 知らなかったんだから! 俺、お前が女だって! まったくもって知らなかったんだから!」
【マコト】
「だ、だからって、あんなに長々と人の胸をまさぐることないだろ⁉ バカ! もーほんとバカ! 死ね!」
【俺】
「んなこと言ったって――」
カーッとなった俺は負けじと言い返す。
「はじめてだったんだもん! おっぱい触るのはじめてだったんだもん! だからしかたなかったんだもん!」
【マコト】
「……っ」
ピクリ。その時、吊り上がっていたマコトの太眉が何故か動いた。あれほど絶え間なく続いていた蹴りも一旦止まる。
俺はこの隙を見逃さず立て板に水で畳みかけた。
【俺】
「未知との遭遇だよ、未知との遭遇! しゃーなしだろ⁉」
「お前だって、道ばたで明らかにコッテコテのタコみてえな火星人を見かけたらどーするよ⁉」
「足はたくさん、頭はデッカチ。そんなヤツがルンルン気分の我が世の春で地球を闊歩してたらどーするよ⁉」
「見ちまうだろ⁉ チラチラ見ちまうだろ⁉ たしかめちまうだろ⁉ 『あれ、あの人ほんとに火星人かな? そうなのかな?』みたいに!」
「そーいうことだよ! そーいうことなんだよ! ……だから俺は無実だ! 完全無実だ! ノット・ギルティ!」
どーいうことなのだろう……。
自分でも言ってて支離滅裂だったが、それでも何故かマコトには思うところがあったらしく、しばらくの間、握りこぶしをプルプルさせ、キッとこちらを強く睨めつけてはいたものの、
【マコト】
「……わかったよ」
やがては矛を収めてくれた。
【俺】
「おお、マコト! わかってくれたんだな、マコト! うれしいよ、マコト――ぐはぁ⁉」
そこへ追撃。今度は右ストレートが顔面にさく裂した。
え? なんで? なんでなんで?
どーして俺、今なぐられたの?
茫然とする俺に、マコトは顔を真っ赤にして怒鳴った。
【マコト】
「昔っからずっと、ずっと、ずぅ~~~っと、人の名前間違えやがって……!」
「ボクの名前はマコトじゃなくてミコトだミ・コ・ト! 壱川未琴!」
……どうやら俺は旧友の性別のみならず、名前すらも間違っていたらしい。




