068
前の世界では。
あのおじさんは、盛大に転倒していた。
それはもう。
見ているこっちが尻を押さえたくなるほどに。
だが今回、俺はその結果を――
【俺】
(未然に、防げた……!)
変えることが、できたのである。
これは大きい。
非常に、大きい。
ほとんど――神さまにも等しい力、と評しても過言ではないかもしれない。
だってそうだろう。
本来、人の身では正確無比な未来予想などおよそ叶わぬコトなのだ。
これだけ文明が発達して、ケータイでネットやEメールが使えるようになった現代ですら、天気予報はしばしば外れる。地震なんかまったく予知できないし、純粋に人間の世界に限っても不確定なことばかりだ。これらを踏まえれば〝未来は未定〟というのは、誰もが認めざるを得ない事実だろう。
だが俺は、
【俺】
(知っている……!)
(その未来を、知っている……!)
(しかもソレを、変えられるんだ……!)
……どうしてこんなことになったかはわからない。
そもそも、理屈では説明できない可能性もある。
ただ一つ、たしかなのは、
【俺】
(あの……人魚)
俺は、まだ痛む胸を押さえながら、デッキへと出た。
(あの人魚が、関係してるんだ……!)
吹き抜ける潮風、広がる大海原、そして……そびえ立つ帯渡島。
(これは、あの人魚が俺にくれた力なんだ……!)
その何よりの証拠が、俺の胸に刻まれている。
俺は、着ていたシャツをつまみ、みぞおちのあたりを朝日に照らした。
そこには、
【俺】
「………。………………。………………………。」
紋様。
あの八尾姫神社の社紋によく似た紋様が、クッキリと刻まれていた――。




