062
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23時06分
八尾姫神社、本殿
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【???】
「……ナタロー」
「おい、ナタロー」
擦り減った靴底のように憔悴した俺の心と身体を、誰かが揺すっていた。
【???】
「起きろよ……」
「起きろってば……!」
そこでようやく俺は目を覚ます。
すぐそばにいたのは……ミコト。
浴衣から動きやすそうな服へと着替えたミコトだった。
【俺】
「………。………………。………………………。」
「そうか、俺――」
気を失っていたらしい。
……大失態だ。
すでに幻影は去り認識はきちんと現実に整合していたが、その分かえって申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
【俺】
「わりぃ、ミコト……迷惑かけた……」
【ミコト】
「ベツに、そんなことは……」
【俺】
「もう、大丈夫だ」
「行こう、すぐに」
だがそこでミコトは、
【ミコト】
「……っ」
目を背けた。
俺から、地面へと。
まるで――見てられない、とでも言いたげに。
【俺】
「……?」
どういう……ことだ。
だってこれから俺たちは、アツシたちを追うんだろ?
あの柵を越えて、山の中へとはいって行くんだろう?
【俺】
(……まさか⁉)
イヤな予感が胸をよぎる。
俺はすぐさまmovaを取り出し、チロルチョコ大のモノクロ液晶で現在時刻を確認した。
【俺】
「一一時……⁉」
もちろん〝昼の〟ではなく〝夜の〟だ。
あろうことか、あれからすでに二時間近くが経っている。
俺はその間ずっと、ここで倒れていたらしい――。
【ミコト】
「オマエ、気絶、してたからさ……コッチに寝かせておいたんだよ」
うつむいたまま告げるミコト。
なるほど。見ればたしかに場所が少し変わっていた。
砂利が敷き詰められた地面ではなく、本殿の床へと移っている。
それはいい。ベツにいい。
と言うより……どうでもいい。
そんなことより、
【俺】
「ア、アツシたちは⁉」
俺はガバっと身を起こし、ミコトに詰め寄る。
「アイツらはどうなったんだよ、なあ⁉」
【ミコト】
「お、落ち着けナタロー!」
「……だいじょうぶだよ」
「ホラ、そこ………………いるから」
【俺】
「え?」
ミコトが指す方に目をやる。
……いた。
そこには、たしかにいた。
三人が。
アツシと、レイコと、シズクの三人が。
【俺】
「な、なんだよお前ら、心配させやがって――」
俺は思わず駆け寄ろうとする。
だが次の瞬間、浴びせられたのは、
【レイコ】
「 こないでっ!!! 」
拒絶の言葉。
強い、強い、拒絶の言葉。
【俺】
「は……?」
俺はその場で足を止めた。
「な、なんだよいきなり……」
「どーしたんだよ、なあ……?」
誰も答えてはくれない。
アツシも、レイコも、シズクも……ミコトすらも。
【俺】
「………。………………。………………………。」
見れば三人の様子は、尋常ではなかった。
服装。全員が全員、ひどい有様である。土などで汚れ、一部が破けていた。
かてて加えて、レイコにいたっては腕を負傷している。アツシの服を千切って即席の包帯としていた。
だが、ソレよりも、何よりも――
【アツシ】
「………。………………。………………………。」
【レイコ】
「………。………………。………………………。」
【シズク】
「………。………………。………………………。」
沈黙。
重い、重い、沈黙。
全員、顔が真っ青だ。
まるで死人のようである。
明らかに、様子がおかしかった。
レイコは真夏の夜にもかかわらず寒気でもするかのように身体を強く抱き、その隣ではシズクがブルブルと震えてしがみついている。
あのアツシですら、うつむきがちの目にはハッキリと恐怖の色がにじみでていた。
【俺】
「……なにがあったんだよ」
「どーしちまったんだよお前ら、なあ⁉」
重ねて訊いてもまるで相手にされない。
ソレどころか、レイコが一瞬、ミコトの方に「もういいでしょ……!」とでも言いたげな視線を投げかけると、三人はいっせいに踵を返し、そそくさと神社を後にした。
【俺】
「おい、ちょっと待てよ!」
「なあミコト、お前からもなんか言ってやってくれ!」
俺はすぐさま背後へと振り返るが……そこで知る。
三人ではない。
四人である。
俺一人だけが、取り残されていた――。




