061
――真冬の澄んだ青空の下を、色とりどりの花で覆われたフロートが進んでいく。
【俺】
(……ちがう)
――近づくにつれ、甘い甘い花の香りが風に乗ってふわりと届いた。
【俺】
(……ちがう、ちがうっ)
――オレンジ・グローブ大通りは興奮のるつぼ。
――マーチング・バンドが奏でる音の洪水に包まれている。
【俺】
(ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがうっ!)
――鳴り響く蹄の音。威風堂々と進む騎馬隊。
――今日は記念すべき一一〇回目のローズ・パレード。
――Echoes of the Century、世紀の木霊が響き渡る。
【俺】
「やめろっ! やめてくれ……!」
俺は目を固くつむり、耳が潰れそうなほどに押さえつけた。
だが、映像も、音も、止まらない。
……知っている。
……俺は、そのワケを知っている。
コレが現実ではないからだ。
幻覚である。幻聴である。
すべてはもう――終わったことなのだ。
にもかかわらず、俺はこの幻影を振り払うことができない。
【俺】
(クソ、クソッ!)
(クソ、クソ、クソ――!)
この時になってようやく俺は、この日犯した最大の過ちに気がついた。
【俺】
「薬……!」
「薬を……!」
完全に失念していた。
ミコトとのデートに浮足立ち、飲むのはおろか持ってくるのすら忘れていたのである。
【俺】
「あ、あ――っ!」
俺はその場に崩れ落ちた。
パレードが乱れ、音楽に耳障りなノイズが混じり出す。
直後、TVのチャンネルを切り替えるように映像が飛んだ。
飛び続けた。
次々と視覚と聴覚が犯されていく――。
ドア。きしんだ音。階段。何かが倒れた音。
ドア。きしんだ音。人。湿った音。
人。笑い声。湿った音。湿った音。湿った音。
人、人。人、人。人、人。
笑い声。怒鳴り声。笑い声。溜息。
人だった――モノ。
人だったモノ。
………。………………。………………………。
二発の銃声――!
【俺】
「 アァァァアァアアァァアッァアアアアアアアッ!!! 」
俺の意識は。
そこで途絶えた。




