059
そこからミコトはポツポツと語りはじめた。
代々に渡って八尾姫神社を守ってきたミコトの家――壱川家にもまた、レイコんとこと似たような事情があるらしい。
ソレはつまるところ、やれ伝統やらしきたりやらと呼ばれるモノで、結論だけを先に言うと、最終的にはミコトが神社を継ぐのがほぼほぼ確定事項なんだとか。
【ミコト】
「ソレはさ、ベツにいいんだよ」
「ボクはこの島のこと、キライじゃないからな」
「だから家を継ぐのだって、ちっともイヤじゃない」
「ただ――」
一方でミコトの両親は、ある種の進歩的な考えも持ちあわせていた。
なにせ今やネコもシャクシもグローバルうんぬんの時代である。
そんな中、自分の子どもが一生をこの島で、というのに少なからず抵抗があったらしい。
だから〝いつか島に戻ってくれるなら〟の条件つきではあるものの、卒業後の進路を自由に決めていいと言ってくれたそうだ。
【ミコト】
「でもさ、正直ボクには……特になかったんだよ」
「やりたいこととか、したいこととか、さ」
「勉強が好きってワケでもないし」
んなのは大抵の中学生がそうだろう。
ただなんとなく、他にやることもないから、みんながそーするから、というのが本当の理由――言い換えれば〝理由がないのが理由〟というのが高校進学におけるデ・ファクト・スタンダードのはずだ。
もしかしたら、大学や就職とかだってつまるところは似たようなモンかもしれない。
本当に何かやりたいことがあるのなら、アツシのように迷わずその道を進むだろう。
【ミコト】
「だから、今まではソレでどーするか色々と悩んでたんだけど……」
「だけど」
「さっきさ、花火の時に……ナタローのハナシ聞いてて、思ったんだ」
「ナタローがいくんなら、ボクもいきたいなって」
そう……だったのか。
じゃあ、もしかしてあの時、何やら浮かない顔をしていたのは――
【ミコト】
「……うん」
「オマエ、頭いいだろ」
「だから不安になっちゃって……」
「本当に、一緒の学校にいけるかが」
ミコトはそう言うが、俺は別に頭がいいワケではない。
単にテストで点を取るコツを知っているだけだ。
そのコツというのも実にアホらしく、クソゲーを攻略する際のマインドセットをそのまま持ち込んだだけである。
すなわち、不条理を受け入れる、開発者の意図を先読みする、根気強くつきあう。
この三つだけだ。
そんなのは、誰にでもできる。
【ミコト】
「言うだけならカンタンだろーけどさぁ……」
【俺】
「いや、ホントそーなんだって」
【ミコト】
「でも――」
【俺】
「じゃあこうしようぜ」
「夏休み、一緒に勉強しよう」
「そーすりゃわかるって」
「あんなモン、やるかやんないかの違いだけだってな」
【ミコト】
「……いいのか?」
「お前だって受験生なんだろ」
【俺】
「いいって」
「俺も国語とか社会で教えてもらいてーとこあんだから」
特に古典と日本史。その二つは俺にとって今や鬼門と化していた。
【ミコト】
「そっか……なら、」
【俺】
「ああ、この夏はおたがいがんばろーぜ」
「でもって、その……な?」
「一緒の学校に、行こう」
【ミコト】
「……うん」
「もう……イヤ、だからな」
「置いてかれちゃうのは」
「………。………………。………………………。」
「……はなれたくないんだよ」
ミミミ、ミミミミミミミミミミミミミミ、ミコトのヤツァそったらことォ言い出しやがったァ……!
フゥ~~~ッ!!!
そそそ、そんなん言われたらもうね!
オオオ、オラだってもうね!
ここが天下分け目のテンノーザンよォーッ!!!(最近おぼえた日本語)
【疾風†O★RA†怒濤】
(キキキ、キメてやるだ……っ!)
(ぜぜぜ、絶対に今日、キキキ、キメてやるだからな……っ!)
俺はウォルト仕込みの索敵で周囲を素早く見回す。
いる。やはり、いる。
まばらではあるものの、何人かが。
さすがにこの状況でどーこーというのは気が引ける。
もっとこう……二人になりたかった。
二人っきりに、なりたかった。
つまりはそう、人気のない場所こそがこの上なく望ましいのである。
【俺】
(人気がない……人がいない……)
(ハッ⁉)
ふと閃いた。
あそこはどうだ?
本殿。
八尾姫神社の、本殿。
あそこなら誰もいないはずである。
祭りの今日ならなおさらだ。
【俺】
「き、きてくれミコト!」
【ミコト】
「へ――?」
「ひゃあっ⁉」
俺はミコトの手を取り道を急ぐ。
そのまま石段をのぼり、あっという間に本殿へと駆けつけた。
やはり辺りには誰もいない。
明かりもとぼしく、月の光と星の瞬きだけが頼りである。
【俺】
「ミコト!」
「俺、俺――っ」
高熱にうなされてるかのような声を出し、肩をつかむ。
ミコトは一瞬、ビクッと身を強張らせるが、
【ミコト】
「……うん」
ややあって力を抜き、こちらに身を寄せてくる。
あろうことかそのままツッと上を向き、目ェまで閉じやがったァ……!
ほとんど第九が流れてメリー・クリスマスな状況であるッ!!!
【俺】
(いいんだよな……⁉)
(いっちゃって……アクセル踏み抜いちゃって、いんだよな⁉)
俺も俺でゆっくりと目を閉じ、唇を近づけようとするが――
しかし。
しかし、その最中、
【俺】
「……は?」
ふと、気づいてしまう。
ミコト……ではない。
その先だ。
還津山へと続く、森の入口。
それを囲う柵。
その柵に。
何かがついていた。
月明りを受けて、ヌラヌラと光る何か。
重力に従い、下へ下へと落ちてゆく……赤い何か。
俺の脳が、ソレをただしく認識するまでに一秒とかからなかった。
【俺】
「血……?」




